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PCIe/USBへの対応で使われ続けるPC/104(1/3 ページ)

組み込みシステムを設計する上で有用なPC/104。この規格の後継となるものとして、パソコンで一般的に利用されるPCI ExpressやUSBを活用した複数の提案がなされている。本稿では、PC/104という規格の歴史を概観した上で、現在提案されている後継規格について紹介する。

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

20年前に考案された規格

 PC/104は、約20年前に考案されて以降、その柔軟性と堅牢性から、組み込みシステム業界において好まれてきた規格である。しかし、一部の用途でより高いデータ転送速度が求められていることもあり、その後継規格が登場している。また、現在のデータ転送速度で問題のない機器の設計者も、最新のプロセッサのチップセットでは旧式のPC/104アーキテクチャのサポートが廃止されるため、問題に直面することになるだろう。

 米Ampro Computers社は、1987年に、デスクトップ型パソコン用の低価格のプロセッサと、そのプロセッサで動作するソフトウエアを用いる組み込みシステム向けのアーキテクチャとして、PC/104の基本となる概念を考案した。PC/104という名称は、ベースになったPC/ATアーキテクチャと、搭載するISA(Industry Standard Architecture)バスの端子の数から同社が名づけたものである。同社は1992年、PC/104の最初の正式な仕様を発表した。

 現在は、米国のPC/104 EmbeddedコンソーシアムがPC/104規格の管理を行っている。PC/104に準拠するボードには、ボードを積み重ねて(スタックして)接続するための「スタックスルーコネクタ」が採用されている。一般的なPC/AT互換のパソコンとは異なり、マザーボード、バックプレーン、カードケージなどは必要としない。スタックスルーコネクタによるボード間の接続は、劣悪な環境においても信頼性が高い。PC/104ボードは、4隅に取り付け穴を備えている。これらの取り付け穴により、スタックされた各ボードが固定されるため、システムに対する衝撃や振動の影響を最小限にとどめることができる。ボードのサイズは、3.6インチ×3.8インチ(約9.1cm×9.7cm)。スタックされるボードの間隔は0.6インチ(約1.5cm)となっている。

 ISAバスはデスクトップ型パソコンでは使用されなくなった。しかし、組み込みシステムにおいてはまだ使用する価値がある。多くの組み込みシステムの設計者は、1世代前のプロセッサとすでにパソコンでは利用されなくなったISAバスに満足している。周辺機器を増設するためのボードは、そうした古い技術を用いているものの、シンプルかつ安価で、設計も容易であり、組み込みシステムの製品に求められる主要な要件をすべて満たしている。ISAバスのデータ転送速度は比較的低速であるため、ノイズやEMI(電磁波干渉)への対策も簡単である。しかし、根強い人気を保っている最大の理由は、既製製品の多くにこのアーキテクチャが採用されているため、設計者に多くの選択肢があるという事実である。現在でも、数多くの企業が、独自に安価なPC/104製品を製造している(別掲記事『PC/104の一般的な利用法』を参照)。


PC/104の一般的な利用法

Christine Van de Graaf 米Kontron社

 組み込みシステムの設計要件として、コストはもちろん重要である。しかし、開発期間、システムのサイズ、性能といった要素も考慮する必要がある。そうした意味で、PC/104やPC/104互換のシステムは、現在でも有効な選択肢になり得る。なぜなら、PC/104は、カスタマイズをほとんど必要としないハードウエアの設計に最適であるとともに、小さなフォームファクタで高い性能を提供することを目的として発展した安定なプラットフォームであるからだ。

 PC/104がプラットフォームとして安定していることから、組み込みシステムの設計者は、ボードメーカーの提供するPC/104に準拠した製品を数年前の製品と入れ替えるだけで、飛躍的に性能を向上させることが可能である。ボード上の同じ位置に部品が配置されているということが、おそらくこの業界標準の製品を使用する最も重要な利点の1つだ。そして、このことが、古いPC/104から新しいPC/104アーキテクチャへの設計の改良を簡素化してくれる要因にもなっている。

 また、一部のボードメーカーは、各モジュールの機能に一貫性を持たせているが、PC/104を利用したシステムを設計する上で、必要となる配線を追加しても、筐体の内部は複雑にならない。PC/104における信号の伝達は、プラグインコネクタではなくピンスルーを使用し、配線により外部へと送る形で行われる。この方法の代わりに、独自のプラグインコネクタを持つキャリアボードを使用する方法もある。

 一般的に、PC/104のスタックは、最大6枚のボードで構成される。CPUボードは、すべてのコネクタとともに、ベースボードの上に配置する。もし、CPUボードに設計者が求める機能が欠けている場合には、ほかのボードをその上に配置することになる。その上にグラフィックスのボード、その上に音声のボード、そしてまたその上にはイーサーネットやFirewireのボードを搭載するといった具合である。もちろん、より高度なボードを使用すれば、スタックの枚数を減らすことができる。各種I/O機能を内蔵したボードもあるので、その場合はグラフィックス、イーサーネット、音声用などに個別にボードを用意する必要はない。より機能的で適切なボード選択を行うことにより、スタック数を2枚程度にまで減らすことが可能である。

 PC/104は、例えば低予算である程度の性能を実現すればよいといったケースにも向いている。PC/104に準拠するボードを使ってシステムを設計する場合、設計者は同じ技術を使用し続ける傾向がある。予算が厳しく、システムのサイズを小さく抑えなければならない場合、一般的に同じプラットフォームを使用し続けるには何らかのトレードオフが必要となる。しかし、PC/104は、それをベースとした新規格の存在により、ポテンシャルを高めている。PC/104を利用したボードがすべて同じような製品というわけではなく、より高度なボードも存在するのである。


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