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PCIe/USBへの対応で使われ続けるPC/104(2/3 ページ)

» 2009年07月01日 00時00分 公開
[Warren Webb,EDN]

PCIのサポート

 PC/104が登場して以降、その性能を向上させるために仕様を拡張する試みが多くの設計者により行われてきた。例えば、ISAバスをPCI(Peripheral Component Interconnect)バスへ置き換えることなどである。デスクトップ型パソコンにおいては、ISAバスからPCIバスへの置き換えがスムーズに進んだため、組み込みシステムの設計者たちがPCIバスをPC/104に追加しようと考えたのは自然な成り行きであった。PCIバスを利用できるようになれば、高性能の周辺機器や特定用途のハードウエア向けにデータ転送速度を高めることが可能になる。

 PC/104 Embeddedコンソーシアムは1997年に、PC/104にPCIバスを追加する新たな仕様を発表した。正式名称はPC/104-Plusである。この仕様により、PC/104準拠のボードの設計者は、ISAバスのみ、PCIバスのみ、PCI/ISAバスの両方のうち、いずれかを選択できるようになった。しかし、PC/104-Plusでは、PCIバスを取り付けるための新しいコネクタを搭載する必要があり、ボード上におけるコネクタの占有面積を増大させてしまう。この問題を回避すべく、PC/104 Embeddedコンソーシアムは、ISAバスを除いたPCI-104も策定した。しかしながら、現在でも大本のPC/104が、PC/104-PlusやPCI-104よりも多く利用されている。

 技術の進歩に遅れずに、日々進化を続けるデスクトップ型パソコンのソフトウエアに対応するために、業界団体をはじめとする複数の組織がPC/104の次世代版として3種類もの規格を提案している。それらには、PCI SIG(Special Interest Group)が策定しているPCIバスの最新規格PCI Express(PCIe)や、高いデータ転送速度と高度なボード間通信向けのUSB(Universal Serial Bus) 2.0が採り入れられている。これらの新しい規格は、いずれもスタック可能なPC/104ベースのアーキテクチャにおいて、かなりの性能向上をもたらす。その一方で、規格に準拠する製品間の相互運用性に乏しく、既存のPC/104に準拠する製品との互換性にもばらつきがある。

写真1 DIGITAL-LOGIC社の「MSM200シリーズ」 写真1 DIGITAL-LOGIC社の「MSM200シリーズ」 MSM200シリーズは、PC/104 Embeddedコンソーシアムが2008年に承認したPCI/104-Express規格に準拠している。

 PC/104 Embeddedコンソーシアムは2008年初頭に、組み込みシステムにおいてPCIeバスを使用するための規格としてPCI/104-Expressを承認した(別掲記事『PCI/104-Expressのメリット』を参照)。PCIeバスの基本単位である「レーン」は、LVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動信号)による2本の信号パスと、各方向に5ギガトランスファ/秒の速度で通信する定電流ラインドライバから成る。そして、複数のレーンを利用することにより、必要とされるデータ転送速度まで増やすことが可能になる。PCIeでは、このレーンをまとめたものを「リンク」と呼んでおり、1つのリンクに対して利用できるレーンの数は、1、2、4、8、12、16、32本が定義されている。PCI/104-Expressでは、1レーン×4リンクと16レーン×1リンクのみをサポートしている。

 スイスDIGITAL-LOGIC社は、シングルボードコンピュータ「MICROSPACE MSM200シリーズ」など、PCI/104-Expressに準拠する製品をいくつか提供している(写真1)。それらのボードは、動作周波数が最高で1.6GHzという米Intel社のプロセッサ「Atom」を、オンボードRAM用のいくつかのオプションとともに搭載している。2次電池で動作するモバイルコンピュータ、映像を表示する画面付きの情報端末、音楽演奏機能を持つゲームシステム、計測機器、通信機器などのアプリケーションをターゲットとしている。

 MSM200シリーズは、高速なCPU以外に、イーサーネット、オーディオコントローラ、RS-232インターフェース×4、シリアル方式のディスクインターフェース×2、パラレル方式のディスクインターフェース×1など、上記のアプリケーションが求める、標準的なパソコンが備えるインターフェースをすべて提供する。価格は、1ユニット(100個)当たり364ユーロ(約4万9800円)からである。


PCI/104-Expressのメリット

Steve Moore PLX Technology社

 多くのSFF(Small Form Factor)タイプの組み込みシステムでは、バックプレーンやカードケージなしでシステムやI/Oの拡張を可能とするために、スタック可能なアーキテクチャが採用されている。スタック可能なシステムの配線は、この16年間でISAからPCIへと移行してきた。さらに、現在はPCI/104-Expressという規格が登場したことにより、組み込みシステムの設計者はPCIe技術を利用しやすくなった。コストや消費電力をより低く、ボードを小さく、ケーブルやコネクタを少なく、データ転送速度を高く、遅延を小さくしつつ、既存のPCIソフトウエアとの互換性を維持することができるので、PCI/104-Expressへの移行は容易である。

 パソコン、サーバー、ワークステーションなどにPCIeが採用されるようになったことから、PCIeに対応する多種多様なチップが製造され、周辺機器の数も急増している。そのため、PCIeを利用するために必要なコストは著しく低下した。データ転送速度が250メガバイト/秒というPCIeの1レーンのリンクでは、送信ペアと受信ペアを1つずつ、合計4本しか信号線を使用しないため、消費電力も少ない。これに対して、32ビットのPCIバスは、100本以上のI/Oを必要とし、データ転送速度は最大125メガバイト/秒である。I/Oの数が非常に少ないことから、PCIeチップ上の端子数も少なくなる。これにより、ボード上の占有面積が小さくなり、コネクタの数も減る。

 2.5ギガトランスファ/秒で動作するPCIe Gen 1のスイッチと、5ギガトランスファ/秒で動作する同Gen 2のスイッチはすでに利用されており、入手も容易である。米PLX Technology社などが販売しているこれらのスイッチを利用することにより、PCI/104-Expressベースのシステムの内部において、さらに高性能な相互接続用ファブリックを構築することが可能である。

 PCI/104-Expressでは、1レーンのPCIe Gen 1のリンクを4本必要とする。それぞれのリンクが250メガバイト/秒で転送可能で、その帯域幅は、PCI/104が使用する32ビット/33MHzのPCIの2倍に相当する。PCIe Gen 2のスイッチは、自動的に同Gen 1へとダウンリンクする。そのため、PCIe Gen 2のスイッチを使用することもできる。これらにより、スタック可能なSFFシステムのI/Oの帯域幅は著しく増大し、より高速なファブリックを実現できる。さらに、PCI/104-Expressは最大4個の高速I/Oチャンネルを提供しているが、PCI-104とは異なり、チャンネルは単一のバスで帯域幅を共有する必要はない。また、PCI/104-Expressでは、16レーンのPCIeリンクも定義されており、PCI32/33規格の32倍以上ものデータ転送速度を実現することも可能である。

 USBやGbE(ギガビットイーサーネット)といったほかのI/Oを使った相互接続も存在するが、いずれもPCIeの高いデータ転送速度と低い遅延には匹敵しない。例えば、USB 2.0は、40メガバイト/秒までしかサポートしておらず、最も低速な1レーンのPCIe Gen 1リンクの250メガバイト/秒という速度と比較しても、劣っていることがわかる。また、GbEは、125メガバイト/秒で、遅延オーバーヘッドも大きい。これらに対して、最も高速な16レーンのPCIe Gen 2のリンクは、最大10ギガバイト/秒のデータ転送速度を持つ。


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