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4Gワイヤレスにかかる“霧”3Gからの移行を妨げるものは何なのか?(1/3 ページ)

第4世代のワイヤレス通信技術(4G)について語られるようになってから久しい。しかしながら、現時点でも4Gの「実体」は確定的なものとはなっていない。現状の第3世代から第4世代への移行に当たっては、どのようなことが課題になるのだろうか。そして、設計者は、この新技術に対してどのように向き合っていけばよいのだろうか。

» 2009年08月01日 00時00分 公開
[Steve Scheiber,EDN]

終わりのない旅

 ワイヤレス通信技術は、4G(第4世代)の実現に向けて着々と進化を続けている。現在では、ネットワーク通信速度の最小値として、モバイル性の高い状況で100メガビット/秒、低い状況で1ギガビット/秒が求められるようになった。これ以上の性能を求められることがなく、通信技術の進化のゴールが4Gであるということなら、この目標は達成可能なものであり、それに向けて努力を続ければよいことだと感じられるかもしれない。


図1 ワイヤレス通信技術の進化 図1 ワイヤレス通信技術の進化 ワイヤレス通信技術は、2010年までに飛躍的に発展すると考えられる(提供:Agilent社)。

 しかし、実際には、4Gは“永遠に続く旅”における現時点での目標地点にすぎない(図1)。技術者がどれだけの性能レベルを実現しても、顧客はさらなる性能レベルを要求してくる。利用可能な帯域幅が増加すると、それに伴い、やりとりされるデータ量も増加するからだ。ある性能レベルを達成しても、それを超えてデータ量は増大し、その性能を支えるインフラストラクチャも進化し続けなければならないのである。

 また、3G(第3世代)技術をベースとして4Gシステムを設計する技術者らは、自分たちが、移動する列車の中から固定されたターゲットに向かって射撃を行っているような状態にあることに気が付いている。3.5G、3.75G、3.9Gというように3Gをいくら発展させても、それらと4Gの間の境界線が消えることはない。こうしたステップを踏んでいることにより、かえって、一大目標であった4Gへの移行の魅力は失われてしまったかもしれない。

 現在、3.5G、3.75G、3.9Gに続く初期段階の4Gとして、LTE(Long Term Evolution)およびWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)をベースとした技術が検討されている。以下、これら2つの技術の現状や課題について解説を進める。

2つの主要な4G候補

 ITU(International Telecommunications Union:国際電気通信連合)は、4Gの主要機能についての提案を行っている。しかし、提案内容の多くは、かなり拡大解釈が可能なものとなっている。ITUは、世界規模での共通性と互換性、ほかの無線アクセスシステムとの相互運用性、ユーザーフレンドリなアプリケーションなどを要求している。そして、ITUの提案内容は、準拠すべき基準というよりも、動作範囲を定めるものといったニュアンスが強い。これまでよりも大幅に向上しているのは、目標とする通信速度のみである。そのため設計者は、4Gとして予測される機能の一部を実装したものを、真の4Gには達していない中間的な世代の技術/製品として発表するという傾向にある。

 実は、4Gとして認定されるための目標通信速度もいまだ確定していない。4G技術の1ギガビット/秒という通信速度は、固定またはモバイル性が低いアプリケーションに限って語られている数字である。しかも、その実現には、理想的な無線状態が得られ、さらに重要な要件として、100MHzもの帯域幅が確保できることが不可欠となっている。しかし、実際には、周波数資源はすでにかなり消耗されている状況にあるので、100MHzの無線帯域幅を確保するのは困難かもしれない。

 そもそも、4Gの定義については一致した見解があるわけではない。あるシステム構成が4Gであるかどうかは、それを判断する人の関心事によって決まる可能性がある。米Keithley Instruments社でビジネス開発担当ディレクタを務めるMark Buffo氏は、「現在、4Gという言葉は、技術的仕様を意味するものではなく、マーケティング用語として使用されていると考えている」という。「既存の技術の一部は、そのまま4Gに引き継がれるだろう。4Gは、これまで議論が進められてきた機能のすべてを実現した状態で登場することはないかもしれない。現在、多くの人々が4Gと呼んでいるものは、実際には統一的な概念/性能のことを指しているわけではないのだ」と同氏は述べる。

 4Gの主要候補である2つの規格は、互いにやや異なる経緯で誕生した。1つは、LTE-Advancedである。これは、3GPP(Third Generation Partnership Project)が定めるUMTS(Universal Mobile Telecommunications System)の技術をベースとしている。米Agilent Technologies社のリードテクノロジストであるMoray Rumney氏は、「LTE-Advancedの前身であるLTEは3.9Gと呼ばれており、UMTSとは何の共通点もないものだと言うこともできる。LTEは、3Gに分類される規格だ」と述べる。

 LTE-Advancedの規格策定グループは、基地局やネットワークインフラなどの中央集中型機能向けに同規格を確定させようとしている。2009年9月に、3GPP規格のRelease 10として提案する計画だ。同グループは、LTE-Advancedに、LTEやその他の前世代の技術との互換性を持たせ、移行を容易にするつもりである。米Aeroflex社のワイヤレス部門テストソリューションにおいてUMTSテストシステム担当製品マネジャを務めるPhil Medd氏によると、「前世代からの移行における目標の1つは、システムのアーキテクチャとメンテナンスの要件を簡素化し、コストを削減することだ」という。下位互換性の確保は、この目標を実現するためのものである。「当初、LTEではデータサービスのみが提供される。音声伝送については、引き続き、従来のGSM(Global System for Mobile Communications)を利用することになる」と同氏は述べている。

 もう1つの4G規格候補は、Mobile WiMAXである。WiMAXは、IEEE 802.11 WLAN規格から発展したものだ。そして、4Gの候補となるMobile WiMAXの規格は、IEEE 802.16eを発展させたIEEE 802.16mとして策定される予定である。LTE-AdvancedとMobile WiMAXの違いは、それぞれの起源から来ている。Keithley社のBuffo氏は、「WiMAXでは、カバー範囲の広い規格を定めようとしている。一方、LTEはより限定された分野を対象としたものだ。LTEは電気通信の世界から誕生したものであるのに対し、WiMAXはデータ通信を起源としている」と述べる。米Verizon Communications社をはじめとする大手サービスプロバイダの多くは、LTE-Advanced版の4Gの採用を宣言している。一方、米Sprint社などのようにやや小規模なプロバイダは、Mobile WiMAXを支持している。

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