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「危険な遊び」に学ぶSignal Integrity

あれが危険、これが危険−−。最近の子供たちは、遊ぶ際、危険から守られ過ぎていて、“危険な遊びに学ぶ”権利を奪われているのではないだろうか。

» 2009年08月01日 00時00分 公開
[Howard Johnson,EDN]

 読者の多くは、子供のときに、自転車に乗っていて転んだ経験を持っているだろう。人によっては、そのときに腕の骨を折ってしまったというケースもあるのではないだろうか。このようなことを書いているのは、何も嫌味や冷やかしを意図してのことではない。若いときの経験が、その後の人生を決めることになるとの考えから、その例として挙げているのだ。


 「自転車に乗っていて転んだ」という経験から、ほとんどの人は、自転車も扱い方によっては危険なものになり得るという認識を持ったであろう。中には、そのような経験を基に、自転車というものの物理学的プロセスや限界を研究する道に進んだ人もいるかもしれない。

 筆者の場合、子供のころ、よく自転車に乗ったままポンと飛び上がる遊びに興じていた。その際には、どうなったらすぐに転びそうになるのか、バランスについての条件を確かめながら遊んでいた。公園のブランコで遊んでいるときに、一番高いところまで上がろうと思えば、ブランコの振動に合わせてこがなければならない。つまり、共振について理解していなければならないことになる。ブランコから飛び降りるたびに重力を感じ、何度も非弾性衝突を経験し、あるいは足首を痛めたりもしただろう。このような1つ1つの経験が、未来のエンジニアとしての物の見方を形成していくのである。これは、比喩や大げさな表現ではなく、まじめな話だ。

 実際に自転車に乗って、スリップさせたり、横滑りさせたり、歩道へ跳び上がったり、風を切って下り坂を飛ばしたりと、常に限界に挑戦する。こうしたことを経験した子供ならば、誰もが優れた機器設計者になる可能性を持っている。自転車のハンドルを握る手の感覚から自転車の動きを本能的に理解する能力は、機器のシステムについて理解する上では微分方程式に関する学位を取ることより重要だとも言える。もちろん、数学的な理論をマスターすることにより、定量的な表現によって設計が行えるようになるのだが、ほとんどの電気回路の根底にある本質的な原理は、自転車に乗ることと同様に単純なものだ。

 経験に基づく物理学の知識と電気回路の動作の関連は、日常的に使用される技術用語の中にはっきりと見て取れる。例えば、出力電圧を「変動させる(moving)」ことなく、多量の電流を「引き出す(pull)」ことのできる電源は、「堅牢(stiff)」である。大容量のコンデンサは負荷として「重い(heavy)」し、電子は電位の井戸に「落ち込む(falls)」。このような機械的特性からの類推は、子供時代から培ってきた文化、経験に基づいて得られたものであろう。経験は、知識とさまざまに織りを成し、後々、そこから多くの知恵がわき出してくるのである。

 筆者は最近、「子供にとって安全である」ことをうたい文句にした最新の遊び場を見学した。そこには、昔のような金属製のメリーゴーランドは存在しなかった。ジャングルジムは、1つの区画を少し掘り下げてゴムシートを敷き詰めた中央に設置されていた。そして、ブランコにはシートベルトが付いていた。

 このような遊び場では、子供が何らかの挑戦をしても傷つくことが少なくなり、遊びの経験の意味が薄らいでしまう。そこで遊ぶ子供たちは、本当に大切なことを学ぶことができるのだろうか。

 このような状況は、法律家や道徳家と称される親たちが作り上げたものだ。筆者は、彼らの運動には反対の意を表したい。子供たちは、遊びを楽しむ権利を持つ。例えば、メリーゴーランドの回転速度をどんどん上げ、力がなければ外に投げ出されてしまうような遠心力と必死になって闘いながら、回転の中心にたどり着こうとするといった具合だ。このようなことを繰り返して、人類は学習してきたのである。

 筆者ならば、腕を折りながら成長することを望む。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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