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ダイオード温度センサーの配線抵抗誤差を除去Design Ideas

» 2009年10月01日 18時28分 公開
[W Stephen Woodward,EDN]

 ダイオード接合は約−2mV/℃の温度係数を持つ(図1)。この特性を利用して、極低温用を中心に、ダイオードは温度計測センサーの部品として広く利用されている。ダイオードを利用した温度センサーは小型、安定、堅牢、高感度、低価格であることに加え、熱電対とは異なり基準接点(冷接点)を必要としない。こうした数々の利点が、温度センサーにダイオードを利用するという手法の根強い人気を支える理由であろう。


図1 ダイオードの電圧対温度特性 図1 ダイオードの電圧対温度特性 温度センサーに用いられるダイオードの温度対電圧係数は、典型的には−2mV/℃という大きな値を持ち、広い温度範囲でほぼ一定である。

 しかし、この種の温度センサーはダイオードの駆動用にバイアス電流を必要とすることから、センサー全体としての性能にかかわる要因が複雑化し、誤差も発生しやすい。ダイオードを接続するための配線の抵抗やコネクタの接触抵抗において発生するIRドロップ(電流×抵抗による電圧降下)が、温度依存性を持つオフセット電圧としてセンサーの出力に重畳するからだ。こうしたオフセット電圧は、許容レベルを超える大きな計測誤差の要因となる。そして、この問題は、極低温用途において熱の伝導を最小限に抑えるために用いられる細い配線、言い換えれば高抵抗の配線を使用する場合に特に顕著なものとなる。

 IRドロップの問題への対処法としては、通常4本の配線を用いたケルビン(Kelvin)配線が利用される。この方式では、1組のペア配線によってダイオードを駆動するためのバイアス電流を流す。そして、もう1組のペア配線により、ダイオードセンサーの出力電圧を差動検出する。この方法を使えば、バイアス電流用の配線におけるIRドロップがダイオードの信号電圧に影響を及ぼすのを防ぐことができる。これにより、良好なセンサー回路の動作が得られるが、この方法には配線が複雑になるという欠点がある。また、配線の数が多くなることによって熱の伝導性が高まることから、極細配線を要する用途では第一の選択肢とはなり難い。

図2 配線抵抗の影響を除去する回路 図2 配線抵抗の影響を除去する回路 この回路を用いれば、ダイオードへの配線の抵抗による影響を除去することができる。また、必要な配線を2本に抑えられる。

 本稿では、ケルビン配線を使うのとは異なるアプローチの回路を紹介する。図2の回路であれば、ダイオードへの配線の本数を2本に抑え、なおかつ配線抵抗に起因する誤差を除去することができる。その仕組みは、IRドロップは電流に直接比例するが、ダイオードからの信号電圧はIRドロップに比べて電流の影響が小さいという事実を利用したものである。

 この回路では、ダイオードを駆動するバイアス電流を2つの値IB1とIB2とに交互に切り替える。スイッチトキャパシタIC「LTC1043」(米Linear Technology社製)のIC1Aの部分で、ダイオードのバイアス電流の設定に用いる抵抗を1MΩと1MΩ+1MΩ=2MΩで同期切り替えを行う。それにより、変調されたバイアス電流の比率が2対1になる。すなわち、IB1=2×IB2の関係が得られる。このような変調により、ダイオードからの信号電圧の交流成分は、近似的にはバイアス電流とRWの積で表せる。ここでRWは、配線全体の抵抗値と、それよりも相対的に小さい値であるダイオードのインピーダンス(動作抵抗)との和である。

 バイアス電流IB1、IB2の切り替え変調には、LTC1043が内蔵する発振回路からのクロック信号を使用する。その発振周波数は、同ICの16番端子に0.01μFのコンデンサを外付けすることにより、約500Hzに設定する。

 このクロック信号はダイオードからの信号電圧の同期復調にも使用する。LTC1043のIC1Bの部分で、上記の交流信号成分が同期整流される。その結果として得られる出力のうち、IB1×RW相当の電圧がコンデンサC1の端子電圧VC1として保持される。また、IB2×RW相当の電圧がコンデンサC2の端子電圧VC2として保持される。電圧VC1はオペアンプA2によりバッファされた後、オペアンプA1を使って構成した回路に入力される。この回路では、ダイオードからの信号電圧を平均化したもの(VC2)からVC1の分を減算する。その結果が、配線抵抗に起因したオフセット電圧を含まない出力電圧となる。

 なお、この回路の注意点としては、ダイオードのインピーダンス(動作抵抗)に起因する20mV程度の電圧の温度校正が必要になることが挙げられる。

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