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» 2009年12月28日 16時18分 公開

より安全な機器を設計するために:「アイソレータ」を活用せよ! (2/4)

[Paul Rako,EDN]

アイソレータの役割

 絶縁によって電気的に遮断した場合、単なる結線による情報や電力のやりとりができなくなる。米Analog Devices(以下、ADI)社で「iCoupler」担当製品ラインマネジャを務めるDavid Krakauer氏は、「ガルバーニ絶縁で完全に2つに分離されたグラウンド基準の電気システム間では、データを伝送するための何らかの手段が必要になる」と語る。当たり前だが、絶縁された電気システム間で何らかのやりとりを行わなければ、まったく別個の回路になってしまう。そこで、フォトカプラに代表されるアイソレータが使われることになる。アイソレータは、回路間のグラウンドの電位が異なるような場合にも使用される。

 各種アイソレータ製品では、光のほかに、コンデンサやコイル、電磁波、音波など、信号のやりとりのためにさまざまな手段が利用されており、その実現手段によって特性が異なる。この点を理解することが、絶縁を有効に活用するための要となる。そこでまずは、アイソレータを線形部品として使用する場合とデジタル部品として使用する場合の違いについて考えてみよう。

図2 トランスによる絶縁 図2 トランスによる絶縁 ディスクリートのトランスを用いたアイソレータは、FETゲートに対して連続してパルスを送信する。それにより、任意の条件下で、FETゲートをオンまたはオフの状態に維持する。信号遅延は25ns未満である。

 ディスクリート部品や絶縁アンプを用いてアイソレータを線形モードで使用するケースがある。その場合、絶縁境界を越えるのはアナログ信号となる。一方、デジタルアイソレータをデジタルモードで使用する場合、絶縁境界を越えるのは、ハイ/ローの論理レベルの信号である。また、ミックスドシグナルの手法もあり、ΔΣ変調器を使用して、アナログ信号をデジタルPWM(パルス幅変調)信号に変換するといったことも行われる。デジタルアイソレータを使えば、このPWM信号を絶縁境界を越えて伝送することができる。信号が絶縁境界を通過したら、そのままのデジタル信号として使用することもできるし、ローパスフィルタに引き渡すことにより、アナログ信号に戻すことも可能である。

 絶縁を実現するためにディスクリートのトランスを利用する手法は、かなり以前から使われている*3)。例えば、トランスによって、10kVの境界を越えた先にあるHブリッジを制御するためのパルス列を送信することができる。図2の例では、トランスとして、シングルターンで18kV耐圧、UL3239準拠、FEP(Fluorinated Ethylene Polypropylene:フッ素樹脂)絶縁のワイヤーループ3本をトロイドに通すことにより作成したものを想定している。10kVの絶縁とUL規格への準拠という条件を満たした市販のトランスを見つけるのは困難である。そのため、自作する必要が生じるかもしれない。また、回路設計も、FETにオン/オフのパルスを連続的に送信しなければならず、複雑なものとなる。しかし、ゲート容量を利用してオン/オフの状態を維持する設計には、この手法が適している*4)*5)。この設計では、FETのドレインにおける電圧振幅が、FETのミラー容量によって、ゲート−ソース間容量からの電荷を押し出す。その結果生じるゲートドライブの減少により、FETが線形モードとなって焼けてしまう恐れがあり、設計や評価は非常に難しい。

 絶縁境界を越えてアナログ信号を送信するには、トランスを使用するディスクリート設計のほかに、フォトカプラを用いる方法がある。この方法は、アナログ信号を正確に送信できるため、長く使用されてきた。ただし、フォトカプラでは、内部のプラスチックが劣化して曇ったり、内部のIR(赤外線) LEDが劣化したりして、出力が低下する場合があるので注意が必要だ。

図3 デュアルフォトカプラを用いた絶縁 図3 デュアルフォトカプラを用いた絶縁 (a)は光伝導型の回路で、(b)は光起電力型の回路。サーボループにデュアルフォトトランジスタを用いると、フォトカプラの経時劣化を補償することができる(提供:Solid State Optronics社)。

 この問題に対処するには、デュアルフォトカプラを使用する。一方を基準として使用し、もう一方によってアナログ信号を伝送するのである(図3)。米Avago Technologies社のフォトカプラ「HCNR200」は、基準サーボシステムとして使用することのできるよう、1つのLEDと2つのフォトダイオードを搭載している。米Solid State Optronics社からも、類似の製品が供給されている*6)。また、ほかのすべてのアイソレータと同様に、フォトカプラにも位相遅延があり、それを補償しなければならないことがある*7)

 米Texas Instruments社(以下、TI社)の「ISO124」とADI社の「AD204」では、オペアンプにも絶縁手段が組み込まれており、絶縁境界を越えてアナログ信号を伝送するための方法も提供されている。ISO124は、リードフレーム上の金属板を導体とし、パッケージの成形材料を誘電体としたコンデンサを内部に備える。このコンデンサの容量性結合を用い、絶縁境界を越えた通信機能を実現する。一方、AD204は、コンデンサではなくコイルを用いて絶縁境界をまたいだ通信を可能にする。また同製品は、絶縁境界を越えて電力を送信する電源部も備えている。

 アナログ信号をデジタル信号に変換し、それを絶縁境界間で伝送することで事足りるシステムであれば、デジタルアイソレータを利用することができる。最近のシステム設計においては、アナログのまま伝送するのではなく、デジタルに変換して伝送を行う傾向にある。TI社の製品マーケティングマネジャを務めるTim Lafferty氏は、「まだ、できればアナログアイソレータを利用したいと考えている人がいる。その人たちには、ISO124を紹介する。ただし、世の中はデジタルアイソレータへと移行しているという説明は加えている」と述べる。

 デジタルアイソレータでは、A-Dコンバータを回路の入力側に配置し、オペアンプや信号調整回路にも電力を供給することが可能な絶縁型電源により電力を供給する。そして、絶縁境界を越えてA-Dコンバータからの出力データを送る。ADI社のKrakauer氏は、「モーターの駆動に用いるようなフィードバックシステムでは、従来からの絶縁アンプを使用するケースが多いだろう。しかし、そうしたシステムでも、デジタル化が進んでいる」と述べる。

 NVE社のTempleton氏は、「最近のA-Dコンバータは、ますますブリッジセンサーに近づいてきている」と述べ、「熱や圧力をコントロールするための電圧制御システムでは、今でもアナログアイソレータを使用することができる。しかし、これらの用途においても、ΔΣ変調器が絶縁アンプに取って代わりつつある」と指摘する。ただし、AD204は絶縁電源を内蔵しているのに対し、ΔΣ変調器ではデジタルシステムのフロントエンド用の絶縁電源を用意しなければならないことに注意が必要だ。

図4 容量性アイソレータの例 図4 容量性アイソレータの例 TI社のデジタルアイソレータは、AC差動チャンネルとDC差動チャンネルを備えている。容量性結合を用いており、ダイ上のガラスで絶縁される。

 最も古いデジタルアイソレータであるフォトカプラは、50メガビット/秒程度で動作する。この種の製品は、米Vishay Intertechnology社や東芝など、多数のメーカーから提供されている。米Fairchild Semiconductor社や米International Rectifier社などは、電源フィードバック用のアイソレータを製造している。また米Clare社と米Crydom社は、ACライン制御向けの絶縁製品であるソリッドステートリレーを供給している。さらに、容量性や誘導性、そのほかの絶縁手法を用いたデジタルアイソレータを製品化しているベンダーもある。ベンダーによると、そうした製品は光アイソレータよりも消費電力が少なく、より小型のパッケージに収めることができるという。

 デジタルアイソレータが絶縁境界を越えて信号を伝送する際の符号化の方法にも着目する必要がある。

 TI社の容量性アイソレータは、2つの差動チャンネルを搭載している(図4)。これは、コンデンサの容量性結合を越えてDCレベルを伝送できないことに対応するためである。2つ目のチャンネルは、入力信号のDCレベルを符号化し、それを差動信号として2つのコンデンサを用いて伝送する。この信号の復号はレシーバチップで行われ、信号が0Vまたは1Vに長くとどまる場合にはDC情報を取得する。同社の新しいアイソレータ製品には、50kVの過渡スパイクに対するコモンモード除去機能を備えるものもある。

図5 RFアイソレータの例 図5 RFアイソレータの例 Silicon Labs社のアイソレータは、RF信号を使用して絶縁境界を越えた伝送を行う。変調周波数は700MHz。
図6 RS-485用アイソレータ 図6 RS-485用アイソレータ Linear Technology社の「LTM2881」は、RS-485に対応したアイソレータであり、絶縁電源も備えている。絶縁材はFR-4のプリント基板材料で、誘電性結合を使用する。外形寸法は11.25mm×15mm×2.8mm。

 非同期クロックにより符号化を行う手法もある。単にフリーランニングのクロックをゲーティングするだけではなく、論理ゲートは入力データのゲート遅延内にパルスを発し、その後、入力信号がなくなるまでパルスを発生し続ける発振器として動作する。同様の手法で、より高速なパルス列を用いてゲーティングしている製品もある。例えば、Silicon Labs社の製品は、内部の700MHzの非同期RF信号を使用して入力データを符号化している(図5)。パルス幅誤差はns単位である。

 米Linear Technology社は、モジュールに関する同社の専門技術を利用して、最大2.5kVの絶縁境界を越えてRS-485バス信号を送信するモジュールに、信号/電源の絶縁機能を搭載した(図6)。この手法は、長年にわたってテスト済みの多数の技術を組み合わせたものである。そのため、信頼性などの観点から多くの技術者が関心を寄せるものとなっている。

 Linear社は、絶縁用途向けにこのモジュール以外の製品も供給している。数年前、同社はRS-485用のアイソレータ「LTC1535」を発表した。同製品は、リードフレーム上のコンデンサを使用して、絶縁境界を越えた信号の伝送を実現する。一方で、新製品の「LTM2881(μModuleブランド)」では、プリント回路基板に組み込まれたトランスを使用している。

 いくつかのベンダーが、USBやI2C、RS-485、CAN(Controller Area Network)など、ハイレベルのプロトコルに準拠する製品を手掛けている。例えばADI社は、USB用途向けのアイソレータIC「ADuM4160(iCouplerブランド)」や、絶縁I2Cインターフェースを提供する製品などを供給している。一方、TI社は、自動車や工場においてCANバスを利用する用途向けに「ISO1050」を発表している。

図7 ΔΣ変調器を利用したアイソレータの例 図7 ΔΣ変調器を利用したアイソレータの例 絶縁型ΔΣ変調器を利用したAvago社のアイソレータIC。ローパスフィルタを備えており、アナログ出力を得ることができる。光結合を使用しており、絶縁材には透明な複合成形材料を用いている。

 先述したように、アナログ信号をPWMデジタルパルス列に変換して絶縁境界を越えて伝送し、フィルタによってPWM信号をアナログ領域に戻す仕組みのものもある。例えば、光絶縁型ΔΣ変調器を利用したAvago社の「ACPL-785J」は、ローパスフィルタを備えており、アナログ出力を得ることができる(図7)。

 同様に、TI社はΔΣ変調器を利用したアイソレータIC「AMC1203」を供給しているが、この製品はローパスフィルタを内蔵していない。分解能は16ビットで動作周波数は10MHz。このAMC1203とデジタルフィルタ「AMC1210」をペアで用いることにより、絶縁リゾルバインターフェース回路を構成することができる。AMC1203は、4kVの絶縁を実現し、UL認定を受けている。

 ADI社の「AD7401」も同様の製品であり、分解能は16ビットで動作周波数は20MHz。UL1577に準拠しており、3.75kVの電圧に1分間耐えられる。


脚注

※3…Russell, Andrew, "Lost-cost isolation amplifier suits industrial applications," EDN, Feb 3, 2000, p.141, http://www.edn.com/contents/images/20300di.pdf

※4…Bourgeois, JM, "An Isolated Gate Drive for Power MOSFETs and IGBTs," STMicroelectronics, 1999, http://www.st.com/stonline/products/literature/an/3668.pdf

※5…Balogh, Laszlo, "Design And Application Guide For High Speed MOSFET Gate Drive Circuits," Texas Instruments, http://focus.ti.com/lit/ml/slup169/slup169.pdf

※6…"SLC800 Linear Optocoupler In An Isolation Amplifier Circuit", Solid State Optronics, 2009, http://www.ssousa.com/appnote060.asp

※7…Bottrill, John, "Characterize optocouplers in the feedback loop of high frequency power converters," EDN, June 19, 2009, http://www.edn.com/article/CA6666261


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