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基礎から見直すコイル/トランスよりよいスイッチモード電源を実現するために(2/3 ページ)

» 2010年03月01日 00時03分 公開
[Sameer Kelkar(米Power Integrations社),EDN]

磁性部品の設計/選択に向けて

 ここからは、磁性部品自体の設計あるいは磁性部品の選択を的確に行うために考慮すべき点を挙げる。

■トランス

 通常、トランスにはコアとして鉄芯を使用する。鉄は透磁率が高く、1次コイルから2次コイルへと効率的にエネルギーを伝送することができるからだ。

 トランスのコアの役割は、エネルギーを蓄積することではなく、瞬間的な導管として機能することである。トランスのコアにおいてエネルギーが蓄積するのは、主にリークインダクタンスによる影響であり、これにより性能が低下する。そのため、通常、トランスの設計においては、同インダクタンスを最小化することを目標とする。同インダクタンスは、磁束が2次コイルに完全に結合しなかった場合に生じる。

■インダクタとエアギャップ

 インダクタは、自身に電流が円滑に流れるようにエネルギーを蓄積したり放出したりする部品である。中でもフライバックトランス(結合インダクタ)は、複数のコイルから成るインダクタである。スイッチングにおけるオン期間に入力から得たエネルギーを蓄積し、オフ時間に出力へとエネルギーを伝送するものだ。

 コアが磁束を効率的に通すには、透磁率の高い材料を含む必要がある。しかし、通常、そのような材料は大きなエネルギーを蓄積することができない。エネルギーの蓄積が必要な用途に対しては、1つ以上の非磁性体のギャップをコアに直列に形成し、そのギャップにエネルギーを蓄積することで対応できる。以下の式は、磁気回路の単位面積当たりに蓄積されるエネルギーの量を表している。

 ここでWは蓄積されるエネルギーの量、μは材料の透磁率である。磁性材料は透磁率が高いため、蓄積できるエネルギーは小さくなる。そこで、エアギャップを加えることにより、実効透磁率を低下させ、エネルギーの蓄積を可能にしているのである。

 図2(b)は、エアギャップを導入した場合の磁気回路のBH特性の変化を示したものである。この図のように、エアギャップを導入することにより、BH曲線は右に傾く。すなわち、ギャップを導入していないコアは、磁界の強さがH1になったところで飽和するが、ギャップを導入したコアはH1よりも大きいH2まで使用することができるようになるのである。磁界の強さに最も大きく影響するのは電流であるため、ギャップを導入することにより、飽和することなくさらに多くの電流を流すことができるようになる。この概念は、平板コンデンサの間の絶縁層にエネルギーを蓄積することに似ている。

 エアギャップは、物理的にそれぞれ別個のエアギャップか、または多数の分散したエアギャップを持つ粒状複合材によってコアを構成することで形成する。磁性粒子は、非磁性体の固体バインダによって互いに隔離されている。これにより、ギャップは効果的にコア全体に分散される。複数のエアギャップを分散させても、複合材を使用しても、フライバックトランスにおけるコアの役割は変わらない。1次コイルとギャップの間と、ギャップと2次コイルの間の磁束リンケージの経路を提供することである。

■磁性コア材料

図3 理想的な磁性材料が持つ方形ループ特性 図3 理想的な磁性材料が持つ方形ループ特性 
図4 磁束密度が低いときの経路 図4 磁束密度が低いときの経路 

 シリコンスチールは、コストが低く、飽和磁束密度が高いため、低周波用途において最もよく使用される材料である。しかし、周波数が高くなるとコアにおける損失が多くなってしまう。そのため、周波数が高い場合には、鉄粉、パーマロイ粉末、フェライトなどを含む、損失の少ない非晶質合金や複合金属粉末のコアなど、特殊な材料のコアが必要となる。

 フェライトはセラミック材料であり、酸化鉄とマンガン、亜鉛またはニッケル、亜鉛の酸化物または炭酸塩との混合物を焼結することによって作られる。損失が少なく安価であるため、SMPS向けに最もよく使用されるコア材料である。ただし、フェライトには1つ欠点がある。それは、セラミックであるため、ほかの材料ほど強固ではなく、衝撃の激しい環境では使用できない可能性があることだ。

 理想的な磁性材料とは、透磁率が高く、飽和に達するまではエネルギー蓄積が少ない特性を持つものである。つまり、飽和特性が急峻な方形ループであるものが好ましい(図3)。図3に示したものに近い特性を持つ材料としては、各種の合金が挙げられる。反対に、複合金属の粉末やフェライトのコアは、コア材の微粒子構造により、方形ループの角が取れたような“ソフト”な特性を示す。複合金属粉末のコアには、個々の磁性粒子の間に非磁性体のギャップが存在する。また、フェライトコアの焼結粒子の間にも同様の非磁性領域が生じている。これらの小さなギャップは磁束を分散させ、明確な境界においてではなく、コア全体に対して磁束を変化させる。

 磁束密度が低い場合、磁束は最も抵抗が低い経路内に収束する。そのような経路では粒子の近接度が高く(図4)、磁束密度が高くなると、これらの経路から飽和していく。飽和した経路に入らなかった磁束は、磁性材料が飽和しておらず、かつギャップがやや広い隣接経路に移動することになる。この動きが繰り返されると、磁束の増加とともに分散しているギャップが広くなっていく。透磁率とインダクタンスの増加率は徐々に減少していき、角が取れた形のBH特性を示す。

 フィルタまたはフライバックトランスにおいて、エネルギーを蓄積するために、フェライトコアに分散したギャップを加えると、フェライトの特性における丸みが、ギャップの高い磁気抵抗に打ち消されてなくなる。その結果として、インダクタンスが飽和に達するまでの特性が線形になる。これはSMPSにおいてフェライトコアを使用するもう1つの利点である。

■渦電流損

図5 コアの分割 図5 コアの分割  磁束を積層間で分断することにより、抵抗が大きくなる。従って、積層コアは、ソリッドコアよりも渦電流耐性に優れている。

 渦電流とは、コアの周囲に生じる電流のことである。高い周波数においてトランスのコアとコイルの両方に生じ得る渦電流は、1ターン当たりの電圧とデューティサイクルの関数で表すことができる。SMPSのスイッチング周波数が高い場合、渦電流によって深刻な問題が生じる可能性がある。

 コアは、コイルのターン当たりの印加電圧に等しい電圧を、自身の周囲に生じさせる。この電圧によってコアの周囲に電流が生じ、それによるエネルギー損失、すなわち渦電流損が発生する。この損失が電池の内部抵抗に起因する熱となって、大きな問題を引き起こすといったことが起こり得る。コアがフェライトのような高抵抗の材料で形成されている場合、渦電流は少なく、SMPSにおいても渦電流損が大きな問題になることはない。

 一方、合金製のコアは抵抗値が小さく、ソリッドメタルコアの場合には渦電流によりショートターンが生じる恐れがある。この問題への対処法の1つは、コアを電気的に絶縁された積層構造に分割することだ(図5)。磁束が積層間で分断され、一塊のコアよりも抵抗が大きくなる。従って、積層コアはソリッドコアより何倍も渦電流耐性に優れていることになる。鉄合金のトランスコアがすべて積層タイプのものであるのは、このためだ。

■高周波コイル

図6 高周波におけるワイヤーの表面/中心間の電流の流れ 図6 高周波におけるワイヤーの表面/中心間の電流の流れ  高周波では、LIの誘電反応が大きくなる。そのため、LIによってワイヤーの中心へ流れる電流が阻止され、電流が表面に集中する。

 高周波コイルの中を流れる電流の動きは、低周波用のものとはまったく異なる場合がある。高い周波数では、表皮効果と近接効果が生じるからだ。表皮効果について理解するには、電気を水のようなものだとして考えるとよい。すなわち、どちらも最も通りやすい経路を選択する。つまりは、最もエネルギー消費の少ない経路を通るということである。一方、低い周波数では、電気は熱損失が最小となる経路をたどることになる。高い周波数では、電流は誘導性エネルギーが最小となる経路をたどる。エネルギーを消費しないために、高周波電流は厚みのある導体の表面近くを流れることになるが、その場合には損失が大きくなる可能性がある。

 図6に示すのは、ワイヤーの表面と中心を等価回路で表したものである。Lはワイヤーのインダクタンスであり、LI1〜LI3はワイヤー内の表面から中心へのインダクタンス、RI1〜RI4は分布抵抗である。直流または低い周波数では、LI1〜LI3の影響は小さく、電流は表面から中心まで均等に分散して、損失は最小となる。しかし周波数が高くなると、LI1〜LI3の誘電反応が大きくなるため、LI1〜LI3によってワイヤーの中心へと流れる電流が阻止され、電流は表面に集中する。浸透深さ、または表皮深さとは、導体表面から、電流密度が表面電流密度に電界電流をかけた値になる点までの距離のことである。銅を例にとると、100kHzにおける浸透深さは0.24mmであることから、周波数が100kHzの場合に使用できるワイヤーの最大直径は0.48mm、つまり AWG #25であるということになる。これよりも太いワイヤーが必要な場合には、細めの2本のワイヤーを並列に用いることを検討しなければならない。

図7 ワイヤーが近接している場合の磁束線の密度 図7 ワイヤーが近接している場合の磁束線の密度  磁束線の密度はワイヤーの近接部分で高くなっている。このため電流は、ワイヤーが近接していないほうを流れようとする。

 高い周波数領域でトランスのコイルに加わるもう1つの重要な効果として、近接効果がある。浸透深さよりも太い2本の導体が互いに近接し、同じ方向の電流が流れている場合、磁束線の密度はワイヤーの近接部分で高くなる(図7)。このため電流は、ワイヤーにおいて互いに近接していない側を流れようとする。トランスのコイルの配置を決定する際には、この効果を考慮しなければならない。

 層数が増えると、近接効果による損失は指数的に増大する。この損失に対処するために、スイッチング周波数の高いSMPS向けのコアは、コイルの幅を高さよりも広くしたウィンドウ型にすることにより、層数を少なくしている。しかし、この方法も万能ではない。コイルの幅を広くすると、その間のキャパシタンスも増大するからである。

 一方、インターリーブ巻き線方式では、1次コイルと2次コイルを互い違いに上下に配置することにより、ウィンドウ幅を引き伸ばさなくてもよいようにする。スイッチング周波数の高いSMPSでは、一般的な認識とは逆に、ウィンドウ領域を銅で埋めるよりも、未使用にしておくほうが直流抵抗が低下する。層数が増えると、交流損失は直流損失の最大10倍も増大する可能性がある。

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