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LXI/PXI がもたらすメリット計測器向けの通信規格(3/3 ページ)

» 2010年03月01日 00時10分 公開
[Rick Nelson,EDN]
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通信システムに最適なPXI

 計測器間で同期をとる場合、もしすべての計測器を1つの筐体のバックプレーンに接続できるのであれば、IEEE 1588規格に準拠した形で同期をとったり、個別のハードウエアバスを用意したりする必要はない。このような考えを背景として実現されているのがPXI規格に準拠する計測器である(写真2)。NI社のRF/通信製品マーケティングエンジニアを務めるDavid Hall氏は、「2台のデジタイザの同期をとりたいとしよう。その場合、旧式のオシロスコープを用いるなら、数本のケーブルを使って計測器間を接続することになる。これに対して、PXI規格に準拠する計測器では、『PXIトリガーライン1を使用する』と指定するだけでよい。タイミングと同期の観点から、すべての計測モジュールが共通のデジタルバスにアクセス可能なことが、PXIの本質的な利点となっている」と述べた。


写真2PXI規格に準拠するNI社の計測ハードウエアとソフトウエア 写真2 PXI規格に準拠するNI社の計測ハードウエアとソフトウエア 

 また、Hall氏は、通信システムの開発、特にMIMO(Multiple Input/Multiple Output)無線に関連した計測におけるPXIの利点について、「従来型の計測器でこういった用途の計測を行うには、2台のベクトル信号アナライザを購入してケーブルで接続し、LO(局所発振器)を同期させなければならない。PXIでは、計測モジュールが同一の筐体に収められるので、同期させるのにほとんど手間がかからない」と説明した。

 さらに、Hall氏は、MIMOとは異なる通信システムの開発事例を挙げた。NI社は、米ジョージア州サバンナで開催された衛星測位技術に関する展示会『ION GNSS 2009』(2009年9月22日〜25日)において、より優れたGPS(全地球測位システム)受信機の開発に向け、PXIシステムを用いて生の衛星信号を無線で取得可能な技術を紹介した。同氏によれば、「PXI対応の計測器のバックプレーンは、コマンドバスとデータバスの両方を兼ねている。取得した衛星信号のI/Q(同相/直交)サンプルデータを、高速のPXI Expressインターフェースを用いてリアルタイムでストリーミングすることにより、ハードディスクの容量が一杯になるまで保存できる」という。このサンプルデータは、プロトタイプのGPS受信機の機能を最適化する作業に利用することができる。

 NI社フェローであるMike Santori氏は、同社が米テキサス州オースティンで開催したプライベートショー『NIWeek 2009』(2009年8月4日〜6日)の講演において、「PXI規格に準拠するハードウエアと、当社のグラフィカル開発環境『LabVIEW』を通信分野に対応させるために、通信の専門家から成る社内研究開発チームを結成した」と語った。同チームのメンバーは、NI社の製品展開を支援するために、LTE基地局向けのエミュレータを開発した。

 このチームのメンバーで、NI社RF通信ソフトウエアシニアエンジニアのIan Wong氏は、通信機器の設計で起こる問題に対処するために、大学および業界で得た経験を同チームに伝えている。Wong氏は、NIWeekの参加者に対してLTEの課題を説明した*3)。「2010年に導入が始まるLTEは、300メガビット/秒の通信速度をサポートする。これに対して、現在一般的に使用されているEDGE(Enhanced Data for Global System for Mobile Communication Evolution)技術の通信速度は500キロビット/秒にとどまる。LTEの基地局は、1秒当たり20万回も2048ポイントのFFT(高速フーリエ変換)演算を実行し、300メガビット/秒の通信速度に対応するターボデコーダを搭載する。すべてを合わせると、1秒当たりの演算数は数兆回にも上る」(同氏)という。

 Wong氏のチームは、リアルタイム処理が可能なデュアルコアプロセッサのコントローラと高速インターフェースであるPXI Expressを搭載する計測システムにより、LTE基地局のエミュレータを構築した。まず、PXI対応のIF(中間周波数)トランシーバを実装したFPGAボードにより、LTE基地局における送信機の物理層の処理が行われる。次に、PXI対応のRFアップコンバータによって、送信機の出力が計測の対象とする受信デバイスに送出される。最後に、この受信デバイスからの信号が、RFダウンコンバータを介してIFトランシーバのFPGAボードへと引き渡されるという仕組みである。

自動化の障壁

 LXI規格とPXI規格を利用する際のメリットとなるのが、計測の自動化である。特に、どちらの規格を利用しても計測できるような用途で、計測を自動化するために規格を選ぶ場合、ユーザーの年齢や経験、そしてユーザーが使いやすさというものをどのように感じているのかということが選択の基準になるだろう。

 現在、計測には多くのパソコンが使用されるようになっている。計測情報をパソコンに取り込んだり、パソコンによって計測器を制御したりすることによって、開発における意志決定をより強力に支援することが重要となった。たとえ、通常は手で操作することの多いベンチトップ型の計測器であっても、LXIやGPIBを使ってパソコンで制御すれば、計測の自動化が可能となる。NI社のHall氏は、「しかし、そうした計測器は、主に自動計測に利用されることを前提として開発されたわけではない」と指摘した。

 Hall氏は、「計測器のユーザーは、計測器を手で操作するのに必要なつまみやボタンの感触、使いやすさを意外に重要視している」と語る。さらに同氏は、「計測を自動化する際に、計測器のユーザーがプログラミングの“恐怖”にとらわれる場合がある。このことが、計測の自動化を普及させる上で大きな障壁になっていることは事実だ」と認めている。同氏は、大学でコンピュータエンジニアリングを専攻したが、それでもC言語によって自動計測のために行うプログラミング作業はやや困難であると感じている。

 この問題に対する解決案として、Hall氏は、グラフィカル開発が可能なLabVIEWを利用することを提案している。同氏は、「LabVIEWを使えば、プログラミング作業は大幅に簡素化される。また、初心者向けに数多くのサンプルプログラムも用意されている」と述べた。

 PXI規格とLXI規格に準拠する製品を含めて、さまざまなデジタイザを製造する米ZTec Instruments社は、パソコンの画面に従来型のオシロスコープのフロントパネルを表示するソフトウエア「Zscope」を提供している。同社社長のChristopher Ziomek氏は、「個人的に使用したい計測器はどのようなものかと問われれば、Tektronix社のベンチトップ型のオシロスコープを選ぶ。私にとっては、つまみが付いているものが使いやすい」と語った。一方で、「当社の若い技術者たちは、タブレット型パソコンでZscopeを動作させながら計測を行うほうが楽だと感じている」と同氏は付け加えた。

各技術のすみ分け

 最終的に、計測器メーカーは、自社の製品展開にとって有利になるように、各規格を利用していくだろう。例えば、Ziomek氏お気に入りのオシロスコープを製造するTektronix社は、NIWeekにおいて、サンプル速度が10ギガサンプル/秒で、帯域幅が3GHzのPXI対応デジタイザをNI社と共同開発することを明らかにした。

 Tektronix社のCTO(最高技術責任者)を務めるCraig Overhage氏は、「高いサンプリング速度、広い帯域幅のオシロスコープ技術を、PXI規格に対応した計測器のようなモジュラ型のものを求める顧客に提供することを目指している」と語った。さらに、同氏は、「PXI対応のオシロスコープと従来型のオシロスコープとでは用途が異なる。NI社が販売するPXI対応オシロスコープの出現により、広く使用されている当社の従来型オシロスコープの販売に影響が生じることはないだろう」と述べた。


脚注

※3…"Prototyping Complex Communications Systems," National Instruments, NIWeek video, Aug 12, 2009, http://zone.ni.com/wv/app/doc/p/id/wv-1696


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