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第1回:電源モジュール 課題はインダクタの小型化と効率化の両立【ビデオ講座】アナログ設計の新潮流を基礎から学ぶ

» 2010年03月01日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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【ビデオ講座】第1回:電源モジュール 課題はインダクタの小型化と効率化の両立 (クリックで動画再生)


 プリント基板に実装したFPGAやASIC、DSP、マイクロプロセサなどのLSIに電力を供給する電源回路。これまでは、電子機器メーカーのエンジニアが、電源制御ICやスイッチング素子、ダイオード、コンデンサ、抵抗、インダクタなどの電子部品を組み合わせて設計するのが一般的だった。ところが現在、こうした状況に変化が訪れている。電源回路を構成する電子部品の多くを一つのパッケージに収めた電源モジュールを製品化する企業が相次いでいるのだ。アナログ半導体メーカーや電源メーカー、受動部品メーカーなどが製品を市場に投入している。

背景にはアナログ・エンジニア不足

 最近になって、電源モジュール市場が活況を呈し始めている背景には、大きく二つの理由がある。

 一つは、デジタル家電や携帯電話 末、携帯型メディア・プレーヤーといった電子機器の開発期間が非常に短くなっていることである。一般に、電源回路の設計はアナログ回路技術に関するノウハウが必要なため、技術的な難易度が高い。変換効率や発熱量、出力リップル電圧、放射ノイズなど、気を配らなければならないパラメータが多い。このため、短い開発期間では十分な性能の電源回路を設計することが困難な上に、設計上の不具合が発生すれば製品の市場投入時期が大幅に遅れるリスクを抱えることになる。

 もう一つは、アナログ技術を身に付けたエンジニアが徐々に減っていることである。このため、小規模の企業にはアナログ・エンジニアがいなかったり、大規模の企業でもアナログ・エンジニアを電子機器開発の各プロジェクトに割り当てたりすることが難しくなっている。この2つの問題はいずれも、正常な動作が保証されている電源モジュールを採用すれば、一気に解決することが可能だ。

 ただし、電源回路を構成する各電子部品を一つのモジュールに単純に押し込むだけでは、外形寸法がとても大きくなってしまう。これでは、電子機器のプリント基板に実装することは難しい。このため、電源モジュールを小型化にする必要があるわけだ。その際のカギを握っているのが、電源回路の構成部品の中でも外形寸法が比較的大きいインダクタである。

 ただし、インダクタを単純に小型化してしまうと、一般に直流(DC)抵抗の増大や共振の鋭さであるQ値の低下を招く。従って、電源回路の変換効率が低くなる。もちろん、電源回路のスイッチング周波数を高めれば、インダクタを簡単に小型化できる。しかし、パワーMOSFETにおけるスイッチング損失が増大するため、この方法でも変換効率の低下は避けられない。

変換効率は競合を10%上回る

図1 図1 小型化と高効率化を両立させた電源モジュール

 今話題の電源モジュール市場に、電源用ICにおいて高いシェアを握る米ナショナル セミコンダクター社が2010年1月末に参入を果たした。投入した製品は、放送機器や医療機器、計測器、通信機器などに向けた「SIMPLE SWITCHER Power Modules」である(図1)。降圧型のDC-DCコンバータ・モジュールで、入力電圧範囲の違いで3品種を用意している。具体的には、+2.95〜5.5Vの「LMZ10504」と、+4.5〜20Vの「LMZ12003」、+6〜42Vの「LMZ14203」の3品種である。いずれも+6Vや+12V、+24Vといった中間バスから、前述のLSIが必要とする低い電圧に変換するPOL(Point of Load)用途に向ける。出力電圧は、外付け抵抗を使ってユーザーが設定することができる。最小出力電圧は+0.8V。特筆されるのは、外形寸法は10.16mm×13.77mm×4.57mmと小さく、変換効率が最大で約96%と極めて高いことだ。出力電流は最大4Aである。

 新たなSIMPLE SWITCHER Power Modulesの特長は、1)実装が簡単なパッケージ、2) 高効率・低発熱、3) 低EMIノイズを実現していることである。先ずTO-263に類似した革新的なパッケージにより、迅速なプロトタイプの製作と簡単な実装が可能になった。

 さらに第2の特長として新電源モジュールは、小型化と高効率化という、二律背反の関係にある二つの課題を高いレベルで両立させている。「小さいだけなら、当社品のよりも小さな品種が競合他社から製品化されている。しかし、そうした小型品は、当社の製品に比べて変換効率が最大で10%ほど低い。今回の製品は、小型化と高効率化のバランスを最優先に考えて設計した」(ナショナルセミコンダクタージャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティング課長の山田浩二氏)。

図2 図2 変換効率は競合他社品を約10%上回る
発売した電源モジュールは、入力が5V、出力が1.8Vのときに最大94%弱と高い変換効率が得られる。これは、競合他社品に比べて約10%高い。変換効率が高いため、発熱量が少ない。パッケージの表面温度を競合他社品と比べると、約4℃低い。

 このため、スイッチング周波数は最大1MHzと競合他社品と比較すると低めに設定した。さらに電源制御ICに集積したパワーMOSFETについては、「オン抵抗の削減に加えて、スイッチング波形の立ち上がり/降下時間を短くすることで変換効率の向上を図った」(同氏)という(図2)。オン抵抗が小さくなれば導通損が減り、立ち上がり/降下時間が短くなればスイッチング損失が小さくなる。

 小型化のカギを握るインダクタは、選定されたパートナー企業から供給されたものである。電源制御ICのシリコン・ダイの上に重ねて、その後プラスチック・モールドすることでモジュール化した。インダクタの特性については、「直流抵抗が小さく、磁気特性に優れたものを採用した」という。直流抵抗を小さくするには、インダクタの金属配線部を太くする必要がある。また今回磁気シールド型インダクタを採用しているため、インダクタの厚みが若干大きくなってしまったようだ。ただし、採用したインダクタの具体的な特性や、製造方法(工法)などの詳細については明らかにしていない。

放熱特性とノイズ特性を大幅改良

図3 図3 放射ノイズはCISPR22 クラスBの規制値を大きく下回る

 変換効率は、競合他社品に比べて最大で10%程度高い。その分だけ電源モジュールから発生する発熱量が少ない。さらに、モジュールの裏面に大面積のCu(銅)製の領域を設けて、ここから効率良く熱を逃がす構造を採用した。これらの工夫を施すことで、パッケージの熱抵抗(θJA)を20℃/Wに抑えることに成功した。競合他社品と比べると、パッケージの表面温度は4℃程度低い(図2)、また条件によっては最大10℃程度低い場合もあるという。

 さらに、第3の特長として電源回路を1つのパッケージにモジュール化した効果として、放射ノイズの抑制も実現した。モジュール化によって、スイッチング素子のパワーMOSFETとインダクタをつなぐ、電流変化が大きい配線を極めて短くすることが可能になり、グラウンドとの接続部を含めた電流ループを小さくすることができたからである。このほか、磁界が外部に漏れない閉磁路構造のインダクタを採用したことも、放射ノイズの抑制に寄与したとする。この結果、EMI(electro-magnetic interference)の規制レベルを定めるCISPR22クラスBの要件を満足することに成功した(図3)。「最近、電源回路をノイズ源とするEMIのトラブルで頭を悩まされることが増えてきている。今回の電源モジュールを採用すれば、こうした問題から解放される」(山田氏)。

今後、高機能品を投入へ

 今回製品化したLMZ10504では、電圧トラッキング機能は採用しているものの、カレント・シェアリング機能は搭載しなかった。電圧トラッキング機能とは、消費電流が大きいFPGAやASICなどのLSIに不可欠な機能で、複数の電源電圧に対して立ち上がり/降下のシーケンス(順番)を設定するものである。例えば、FFPGAのI/Oインターフェース部に供給する電源電圧を先に立ち上げて、規定値に達したら、コア部に電源電圧を供給するといった設定が可能になる。一方、カレント・シェアリングは、マルチフェーズ(多相)の電源回路を組む際に必要な機能であり、消費電流が20Aや30Aと非常に大きいFPGAやASICなどには必須だ。

 今回、カレント・シェアリング機能を搭載しなかった理由を山田氏は「競合他社の4A出力品は、例えば通信機器で要求される動作温度である+85℃の環境では温度ディレーティングが必要なため、電源モジュールを2個搭載してマルチフェーズ電源回路を組まなければならなかった。そのためカレント・シェアリングが不可欠だった。しかし、当社の製品は、+85℃でも温度ディレーティングが必要ない。このため、1個の電源モジュールで対応できるので、カレント・シェアリング機能は採用しなかった」と説明している。

 今後同社は、電源モジュールの品ぞろえを順次拡充していく予定だ。まずは2010年中に、最大出力電流を5Aに高めた品種や、逆に1Aや2Aに落とした品種を投入する計画である。その後にどのような製品を投入するかについては、現時点では決まっていない。ただし、「最大出力電流をさらに高めながらカレント・シェアリング機能を搭載した品種や、昇圧型や昇降圧型などの品種のアイデアが俎上に上がっている」(同氏)という。電源モジュール市場の広がりとともに、今後の同社の取り組みに注目が集まりそうだ。 

次回予告
第二回目:Power Architectのすべて

このツールを開発した狙いや、このツールで実現できることを、実際にツールを使いながら解説します。




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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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