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高耐圧パワーデバイスの測定技術最新ノウハウを徹底解説!(3/5 ページ)

» 2010年05月01日 00時00分 公開
[柿谷 寿生/永井 好/得納 幸史(アジレント・テクノロジー・インターナショナル),EDN]

低オン抵抗の測定

 パワーデバイスの特性のうち、耐圧と同程度に重要なのがオン抵抗である。ここからは、非常に小さなオン抵抗を測定する技術について述べる。

 一般的に、半導体の抵抗測定では、デバイスに電流を流すための端子を2つ接続して測定する2端子測定法が用いられている。ただし、パワーデバイスのオン抵抗のように、大電流を用いて非常に小さな抵抗値を測定する場合には、ケーブルの残留抵抗やデバイスと端子の接点における接触抵抗の影響を避けるために、4端子測定法(ケルビン接続)が用いられることがある(図12)。4端子測定法を必要とするかどうかは、電流の大小にかかわらず、測定したい抵抗の大きさと測定系の残留抵抗の割合によって決まる。4端子測定法は、できるだけ残留抵抗を避けるように電圧を測定する手法である。もし大電流を流すのであれば、残留抵抗によって大きな電圧降下が発生する。従って、この降下した電圧以上の電圧を出力することができる信号源が必要である。

図12 4端子測定法による低オン抵抗測定 図12 4端子測定法による低オン抵抗測定 

 ユニポーラデバイスであるパワーMOSFETでは、その低抵抗領域におけるドレイン電流は負の温度係数を持つ。このため、同じドレイン−ソース間電圧の条件下でも、デバイスの温度上昇に従ってドレイン電流が低下し、オン抵抗は増加する。これに対して、バイポーラデバイスであるIGBTやパワーバイポーラトランジスタでは、その飽和領域(低抵抗の領域)におけるコレクタ電流は正の温度係数を持つ。このため、同じコレクタ−エミッタ間電圧の条件下でもデバイスの温度上昇に従ってコレクタ電流は増加する。

 いずれの場合においても、スイッチングデバイスとしてオンしている状態の静特性を評価する際には、自己発熱の影響を低減することが重要である。そのためには、測定に用いる印加電圧/印加電流のパルス幅はなるべく短く、デューティ比は熱平衡に達する程度に十分小さくする。

ケーブルのインダクタンス

図13 パルス印加時の測定系のモデル 図13 パルス印加時の測定系のモデル 
図14 ケーブルのインダクタンスと抵抗による立ち上がり波形の遅れ 図14 ケーブルのインダクタンスと抵抗による立ち上がり波形の遅れ 
図15 電圧源/電流源モードにおけるSMUの等価回路 図15 電圧源/電流源モードにおけるSMUの等価回路 電圧源モードでデバイス端電圧をフィードバックする場合(a)と、電流源モードで電流をセンスしてフィードバックする場合(b)。
図16 デバイス端電圧と出力アンプ電圧のイメージ 図16 デバイス端電圧と出力アンプ電圧のイメージ 
図17 同軸ケーブルのインダクタンスと特性インピーダンス 図17 同軸ケーブルのインダクタンスと特性インピーダンス 
図18 パワーMOSFETの帰還容量の影響 図18 パワーMOSFETの帰還容量の影響 

 測定用の電圧/電流パルスを高速化するためには、測定の対象物や測定器に接続するケーブルなどに関する配慮が必要になる。ケーブルなどのインダクタンスは、電流の立ち上がりを阻害する方向に働く。ケーブルのインダクタ成分(残留インダクタンス)Lと、測定系の抵抗R(信号源の出力抵抗と測定物のオン抵抗の合算値)を用いると、応答速度は、時定数τ=L/Rで表わされる(図13図14)。

 通常の電流値で測定する場合、ケーブルのインダクタンスと比べて、測定するデバイスや信号源の抵抗のほうがはるかに大きい。このため、ケーブルのインダクタンスによる影響は小さいので考慮する必要はない。しかし、測定するデバイスの抵抗値が数mΩというような、大電流を用いるパワーデバイスの測定になると話は別である。例えば、測定系の抵抗が100mΩ、インダクタンスを1μH(単線1mの値)とすると、時定数は10μsとなる。時定数を小さくするには、インダクタンスを小さくするか、抵抗を大きくすればよいが、抵抗が大きいとそれだけ電圧降下も大きくなってしまう。

 このような場合、デバイス端電圧のセンス、あるいは出力抵抗部での電流センスを行い、それを出力にフィードバックすることで収束を速められることがある。その手法を、SMUにおける等価回路として、図15に示した。

 SMUでは、デバイス端にかかる電圧/電流が設定値になることを目指して、インダクタンスなどによる経路での変動分を吸収するよう出力アンプを調整する(図16)。このときの応答速度は、SMUのフィードバック帯域やスルーレート、アンプが出力可能な電圧に依存するが、いずれにせよフィードバック系には、収束を速める効果がある。ただし、このようなフィードバック系を備えるSMUを使ったとしても、インダクタンスが電流の応答を遅くするという本質的な問題はなくならない。過大なインダクタンスは、速度の低下と、フィードバック系に付き物である安定性にかかわる問題を生じさせる。また、インダクタンスの両端には、速度とインダクタンスの大きさに応じた電圧が生じるので、その電圧降下を補えるほどの電圧を出力することのできる信号源が必要となる。これらのことから、ケーブルなどのインダクタンスを小さく抑えることは重要である。

 ケーブルを延長する際には、芯線の太さにもよるが、単線で往復の接続を行うよりも、リターンを外皮とした同軸ケーブルを用いるほうがインダクタンスを小さくすることができる。例えば、BNCケーブルとして使用されている、特性インピーダンスが50ΩのRG223/U同軸ケーブルは、インダクタンスが約250nH/mである。しかし、特性インピーダンスをより小さくして、芯線を太くしたものを使用することにより、インダクタンスをさらに小さくすることが可能だ(図17)。

 パルスの速度や安定性は、電圧源、電流源、SMUだけで一意的に定まるものではない。測定対象のデバイスに起因する現象も考慮しなければならない。

 パワーMOSFETを例にとって考えてみよう(図18)。測定時には、ゲートに一定の電圧を印加した状態でドレインにパルス電圧を印加することになる。その際、帰還容量Crssを介した過渡電流がドレインからゲートへ流れ込む。それにより、ゲート電圧が上昇してしまうのだ。ゲートを駆動する電圧源の特性や、例えばケーブルを延長したことによるインピーダンスの増加によって、ゲート−ソース間電圧が変動し、時間軸で見ると、デバイスの動作点にずれが生じる。またMOSFETの増幅率(相互コンダクタンス:gm)によっては発振に至ることがある。

 このような場合には、パルスを遅くするか、ゲートの電圧を安定させるために、ゲートに抵抗や容量を接続するという方法が考えられる。また、ドレインに印加しているパルス電圧が安定している間に、ゲートにパルス電圧を印加してパルス駆動とする方法も有効だ。この方法の場合、ゲートに印加するパルスが安定している期間に観測を行う。

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