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無線機能を機器に組み込む乱立する規格への最適な対処法とは?(1/3 ページ)

WiMAX、ZigBee、LTEなど、無線通信の世界には、新たな規格が続々と登場している。その一方で、ワイヤレス機器では古い規格も比較的長く使われる傾向にある。そのため、複数の規格をサポートすることや、規格の変更に伴うアップグレードを容易に実現する実装手法が求められている。では、こうした要求に応えるために、実際にはどのような取り組みが行われているのだろうか。

» 2010年06月01日 00時04分 公開
[Rick Nelson,EDN]

新旧規格が混在する無線業界

 ワイヤレス技術の普及に伴い、ベンダーは、製品に通信機能を追加するために多種多様なハードウエア/ソフトウエア技術を活用している。そうした技術は、Bluetooth、Wi-Fi、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)、LTE(Long Term Evolution)、WiMAX、ZigBeeなどの通信規格をサポートする(表1)。


表1 主なワイヤレス規格 表1 主なワイヤレス規格 

 問題なのは、ワイヤレス通信機能の追加に必要なチップ/関連ソフトウエアの選択や、実装したものが正しく動作することの実証、関連規格の要件を満たすかどうかの実証が、困難な作業となり得ることだ。たとえ正しく動作することが証明されている設計を組み合わせる場合でも、性能、消費電力、コスト、サイズの最適化を行わなければ、市場で失敗する可能性もある。また、現時点で最適なものであっても、通信規格や顧客の要求が変化すれば、最適なものではなくなるかもしれない。このような背景から、ワイヤレス通信機能を実装する上では、世代が新しくなるたびに一から作り直さなくてもよいようなハードウエア、ソフトウエアを選択することが必要となっている。

 加えて、世代が進んだ際には、旧世代との互換性も維持しなければならないだろう。米国のコンサルティング企業OctoScope社の創設者で、現在同社の社長を務めているFanny Mlinarsky氏は、「新しい規格とプロトコルが追加されたからといって、古いバージョンがすぐに廃止されるわけではない。これは、業界の一般的な傾向だ」と述べる。その代表的な例が携帯電話である。「古い規格がいつまでも残るため、後方互換性は必須だ。携帯電話業界では、3G(第3世代)や4G(第4世代)として規格の刷新を図りつつ、欧州のGSM(Global System for Mobile Communications)や米国のCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)にも対応し続けなければならない。事実、3GのW-CDMA(Wideband CDMA)でさえ、まだ世界レベルで市場に展開されたとは言い難い状況なのに、それに代わるLTEが早くも登場しようとしている」と同氏は述べる。

チップメーカーの対応

 上述したように、ワイヤレス接続の実現方法にはさまざまなものが考えられる。当然、ベンダー側の対応も多種多様だ。ここでは、チップメーカーが各種の用途においてどのような取り組みを行っているのかを紹介する。

■民生機器

 米Marvell Technology Group社は2010年1月の『CES(International Consumer Electronics Show)』において、民生機器向けのワイヤレス接続デバイスファミリ「Avastar」を披露した。対象とする機器は、携帯端末やポータブルメディアプレーヤ、電子書籍端末、プリンタ、デジタルカメラ、ネットブック、デジタルテレビ、セットトップボックス、DVDプレーヤ、ゲーム機、サーモスタット(自動温度調節器)など。同社のIP(Intellectual Property)コアと組み合わせることにより、ターゲット市場向けのデバイスを構成することができる。

 Marvell社は現在、Wi-Fi用、Wi-Fi/Bluetooth用、Bluetooth/FM用、Wi-Fi/Bluetooth/FM用のデバイスをサンプル出荷している。2010年上半期のうちに、さらに4つのデバイスを同ファミリに追加する予定だ。

■組み込み機器

図1 PICマイコンを使ったWi-Fiシステム 図1 PICマイコンを使ったWi-Fiシステム Microchip社のPICマイコンとWi-Fiモジュール「ZG2100M」で構成している。ZG2100Mは、メモリー、MAC(MediaAccessControl)デジタルベースバンド、暗号化エンジン、LDO(低ドロップアウト)レギュレータ、パワーアンプなどを搭載している。PICマイコンとはSPIを介して接続する。なお、このモジュールは、FCCとWi-Fiの認証を取得している。

 米Microchip Technology社は、Wi-Fi認証トランシーバやFCC(米連邦通信委員会)認証モジュールを開発するファブレス半導体メーカー米ZeroG Wireless社を2010年1月に買収した。これにより、マイコンベースの設計にワイヤレス機能を追加したい開発者に対するサポート強化に乗り出した。組み込みシステムの開発者は、ZeroG社のモジュールを使用することにより、Microchip社の8ビット/16ビット/32ビット「PIC」マイコンを使って、汎用のWi-Fiネットワークプロトコル機能を利用することができる(図1)。PICマイコンとモジュールとの間のやりとりは、SPI(Serial Peripheral Interface)を介して行う。

 Microchip社は、ZigBeeなど、そのほかのワイヤレス規格もサポートしている。同社は2009年12月、同社の新しいプラットフォームがZigBee RF4CE(Radio Frequency for Consumer Electronics)準拠の認証を取得したと発表した。このプラットフォームは、同社の「nanoWatt XLP」を採用したPICマイコン、IEEE 802.15.4対応のZigBeeネットワーク用トランシーバIC「MRF24J40」、FCC認証モジュールで構成される。また、ZigBeeアプリケーション向けの認証済みプロトコルスタックも含まれている。同プラットフォームの中心となるPICマイコンは、容量性タッチセンサー、USBインターフェース、アナログI/O用の複数のペリフェラルを搭載している。さらに、容量性タッチシステム「mTouch」用のソフトウエアなど、ペリフェラルを使用するためのソフトウエアが含まれている。このほか、統合開発環境「MPLAB」、エミュレータ「MPLAB Real ICE」や「MPLAB ICD 3」、デバッガ/プログラマ「PICkit 3」、Cコンパイラなどがキットに含まれている。

■携帯電話機

図2 3GのHSDPAをサポートする「XMM6130」(提供:Infineon社) 図2 3GのHSDPAをサポートする「XMM6130」(提供:Infineon社) 

 ドイツInfineon Technologies社は、メッセージング機能を備える携帯電話機(メッセージング電話)向けに、65nmのCMOSプロセスで製造したGSM/GPRS(General Packet Radio Service)チップ「X-GOLD 116」を供給している。同製品は、GSMベースバンド機能、RFトランシーバ機能、電源管理機能、SRAM、FM無線機能を搭載している。パッケージのサイズは8.0mm×8.0mm。

 Infineon社は、同社のメッセージング電話向けプラットフォーム「XMM 1160」に、このX-GOLD 116を採用している。XMM 1160では、4層のプリント基板に約50個のコンポーネントを搭載している。また、ユーザーインターフェース、マルチメディアフレームワーク、メディアプレーヤ、Javaベースのソフトウエアなどをまとめて提供している。

 このほか同社は、インターネット閲覧が可能なエントリーレベル携帯電話機の市場をターゲットに、3GのHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)をサポートするプラットフォーム「XMM 6130」も用意している。XMM 6130は、英ARM社の「ARM11」ベースのマイコン、デジタル/アナログベースバンド機能、電源管理機能を備えている。また、カメラ、ディスプレイ、USBポート、メモリーカード用の専用インターフェースも提供されている(図2)。

■GPS端末

 GPS向けの例としては、米Atheros Communications社の取り組みが挙げられる。同社は2010年1月、GPS対応製品ファミリの最新製品として、第3世代のGPSレシーバIC「AR1520」と、これに対応するソフトウエアスイート「Atheros FYX 1.0」を発表した。AR1520は、新しいロケーション機能コア「Atheros FYX」をベースとしている。同社のこれまでの製品よりも、ナビゲーション精度、位置修正時間、レシーバ感度が改善されており、消費電力が低減されている。これらの特徴から、AR1520は、PND(Personal Navigation Device)、ネットブック、スマートブック、ポータブルゲーム機、メディアプレーヤ、スマートホンなど、携帯型民生製品に適したものとなっている。

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