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ICパッケージに冷却器を組み込む局所冷却システムで電力コストを削減(2/3 ページ)

» 2010年07月01日 00時00分 公開
[Paul Magill (米Nextreme Thermal Solutions社),EDN]

TECベースの能動的システム

 一般的に、現行の冷却システムの大部分は、上述したような受動的なもので占められている。これらに対して、能動的な冷却システムの代表となるのが冷却ファンである。冷却ファンを使えば、風を吹きつけることで、ICや電子部品を強制的に冷却することができる。また、機器内部にたまった熱を外部に排出することも可能である。

 しかし、冷却ファンのように対流を利用する冷却システムでは、単にある個所からある個所へと熱が流れるだけにすぎないことも多い。さらに、冷却の対象とする電子部品/モジュールのみならず、その周辺も冷却することになるので、その分だけ高い冷却能力が必要になるという欠点もある。

 より小さな電子部品/モジュールを搭載したい機器では、冷却システムのサイズも小さくしなければならないはずである。そのような場合、温度差に対する線形関数で表される受動的な冷却システムの冷却性能では不十分であることも多い。しかし、熱の流路や自身のサイズによって制約が生じてしまう冷却ファンは、機器内に導入できないケースもあるのだ。

図1TECにおける熱の排出と温度制御のプロセス 図1 TECにおける熱の排出と温度制御のプロセス 

 そこで用いられるのが、TEC(Thermoelectric Cooler:熱電冷却器)を利用した能動的な冷却システムである。

 TECでは、2種類の異なる導体の接合部に電流を流したときに、一方の接合面で吸熱し、もう一方の接合面で発熱するというペルチェ効果(Peltier Effect)を利用することによって、接合部の間に熱流束を形成する。つまり、電気エネルギーを用いることによって、熱を一方の側から他方の側へ伝達することができるわけだ。ペルチェ効果を利用した熱伝達は、受動的な冷却システムとは異なり、低温側から高温側に熱を伝達することも可能である。図1は、このTECによって得られる熱の排出と温度制御のプロセスを簡単に示したものだ。

図2TECのロードライン 図2 TECのロードライン 

 図2には、TECの動作条件を表すロードラインを示した。ロードラインとは、素子の動作条件を定義し、その性能を表すために用いる手法の1つだ。TECのロードラインは、その最大動作電流において排出することのできる最大熱量QMAXと、TECが許容し得る上下のプレート間の最大温度差ΔTMAXから得ることが可能である。そして、このロードラインから、ある動作電流において、どのようなΔT(温度変化)とQPUMPED(除去された熱)が得られるかを理解することができる。

 ΔTMAXの条件は、TECの熱量Qがゼロになった場合、つまりデバイスを流れる熱がなくなった場合に生じる。理論的には、以下の方程式でその値を算出することができる。


 ここで、αはTECのゼーベック係数、kは熱伝導率、ρは抵抗率、TCは冷却接合部の温度、Kは熱コンダクタンス、Rは抵抗値である。

 また、QMAXの条件は、TECの上下のプレートに温度差がない場合に生じる。理論的には、以下の方程式でその値を算出することが可能だ。


 この式において、AはTECの面積、Lは厚さである。

 TECの欠点の1つは、冷却時に電力を消費することである。つまり、TECを搭載する機器は、搭載しない機器と比べてより多くの熱を放散していることになる。そのため、チップの冷却にTECを使用することで解決したばかりのチップレベルの問題よりも、さらに大きな問題が機器レベルで生じてしまう可能性がある。

 以下の方程式は、TECの性能指標として知られるCOP(成績係数)を表すものである。


 この式において、PINは入力電力を表している。

 TECは、ある熱量Qを排出するときに、Q×COPという熱量を発生してしまう。このように余分な熱量が発生する問題に対応するために、TECのベンダーは、TECデバイス本体と、冷却ファン、ヒートシンク、ヒートパイプなどの熱伝達デバイスをパッケージしたTECシステムを販売することが多い。この場合、TECによって、冷却対象を周辺温度より低い温度まで冷却することはもちろん、能動的に温度を制御したりすることも可能である。ただし、先述したように、TECシステムを機器内に組み込むことによって、機器レベルで熱の問題が発生してしまう可能性がある。

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