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“対症療法”の限界Tales from the Cube

センサーの不具合に対して、“対症療法”を施した著者。この場当たり的な対策で得た著者の教訓とは?

» 2010年07月01日 00時00分 公開
[Harold Stiltner (米Ingersoll Rand Climate Solutions社),EDN]

 センサーを専門に扱う会社で働いていたとき、あるプリント基板において経験したことを紹介したい。その基板は、モーターのハブに直接ボルト止めされるセンサー(歪ゲージ式のトルク変換器)の信号コンディショニング用モジュールを構成するものだった。そして、その基板は、小型化と低コスト化を実現することを最重点の目標として設計されていた。350Ωの歪ゲージ4個から成り、それらがホイートストンブリッジを構成している。等価的には、175Ωのソース抵抗を持つテブナンソースとして働くものであり、プリアンプ部にオペアンプを1個備えていた。


 基板の試験では、特に問題は見当たらなかった。すなわち、設定したトルク値に対応してアナログ出力信号が正しく変化することを確認できた。

 ところが、機構試験の担当者が校正を進めているうちに問題点が見つかった。60秒間の安定性試験として、センサーの出力を1サンプル/秒でサンプリングし、ノイズやドリフトの問題がないことを確認しようとしたのだが、これにパスしなかったのである。

 原因を究明すべく、オシロスコープを使って出力をモニターしてみることにした。表示された波形には、確かに乱れが見て取れたが、ランダムなノイズではなさそうだった。つまり、その乱れは意味のある信号のように思えた。試しに、アナログ出力を圧電スピーカにつないでみると、近くのAMラジオ局からのニュース放送が聞こえてきた。そこで、基板の見直しを行ったところ、キャリブレーション系のグラウンド配線に問題があることに気付いた。その問題を回避するよう修正を施すと、ラジオ放送を受信してしまう現象は現れなくなった。ただ、このときに行った処置が、より悪い結果となってはね返ってくるとは思いもしなかった。

 会社の販売部長から、このセンサーを可変周波数制御方式の駆動モーターに組み込み、近く開催予定の展示会に出品したいとの話があった。そこで、駆動系の能力をアップしたところ、出力波形に大きな乱れが生じた。変動幅が本来の信号出力範囲の75%にも及ぶノイズとなっており、まったく使いものにならない状態であった。

 そこで、詳しく調べてみたところ、センサーの金属筐体と歪ゲージ/配線との間は、数GΩのレベルで絶縁されていた。しかし、それらの間には寄生容量が140pFもあり、それによってオペアンプの入力と金属筺体およびモーターハウジングとの間にリーク(カップリング)が生じていた。このことから、カップリングによるスパイク状の入力がオペアンプのコモンモード範囲を超えてしまったり、カップリングゲインが周波数とともに増大してしまったりすることが考えられた。

 筆者は、高速過渡応答やRFI(無線周波数干渉)を防止するために、アンプの入力部に100μHのチョークコイルを直列に挿入することにした。その結果、ノイズが40dB以上減少した。また、駆動系のグラウンド配線を見直すことにより、さらにノイズを低減させることができた。

 このように、“対症療法”的な対策をいくつか施すことにより、展示会を乗り切ることはできた。しかし、その後、モジュールは全面的に再設計することになった。新たな設計では、計装アンプが使用され、その入力端子にはコモンモード/ノーマルモード入力の周波数成分を所要帯域内に制限するために、RCフィルタが挿入された。このフィルタにより、過渡入力は飽和の起こらないレベルにまで吸収されることになる。

 この一件を振り返ってみると、ポイントとなることが2つあった。1つは、コストを最小化し、部品点数を最少化する設計が最良であるとは言えないということだ。もう1つは、ラジオの信号を受信してしまう問題は、確かに簡単な対策で解決したが、そのときにまずなすべきだったのは、その問題がなぜ発生するのか、もっと深く考えるべきだったということである。

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