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» 2010年08月01日 00時00分 公開

車載システムを変える“スマートパワーSoC”低コスト化の鍵としての可能性を探る(2/2 ページ)

[ 城間 真/マルニック タック(オン・セミコンダクタ),EDN]
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1チップでECUの機能を実現

 続いて、スマートパワーSoCの適用事例を紹介する。

 図7は、ヘッドライトの配光制御を行うAFS(Adapting Front Lighting System)用のモーターを1チップで駆動することができる、スマートパワーSoCの周辺回路図である。このICは、2006年ごろから量産されている。外部への結線は、Vs(電源電圧)、GND(グラウンド)、そして自動車内のほかのECUと通信するために用いられるLINインターフェースだけだ。LINを用いることによって、動作時の条件などを設定したり、故障診断情報を出力したりすることができる。スマートパワーSoCを用いることで、ほとんどのECUの機能を1チップで実現できることから、ノイズ対策も容易である。

図7 AFS向けスマートパワーSoCの周辺回路図 図7 AFS向けスマートパワーSoCの周辺回路図 端子数は20本。マイコンを内蔵しており、LINのノードとしてモーターを制御する。
写真2 ドイツAudi社のLEDヘッドライト 写真2 ドイツAudi社のLEDヘッドライト アイラインを想起させる特徴的な設計により、差異化を図っている。
図8 LEDヘッドライト向けスマートパワーSoCの周辺回路図 図8 LEDヘッドライト向けスマートパワーSoCの周辺回路図 2本の独立したLEDストリングを駆動することが可能である。電源、制御ロジック、ROMを内蔵する。OTPメモリーにより組み立て工程でトリミングし、目的に応じた特性に合わせ込む。

■LED照明での利用

 次に、LEDヘッドライトの制御への適用例を紹介する。

 LED照明は、消費電力が少ない“環境に優しいテクノロジー”として着実に自動車への採用が増加している*4)。また、LED照明は、白熱電球や蛍光灯などと異なり、点光源であるLEDデバイスを用いることで、形状と光束(明るさ)を自由に調整できる。このため、自動車のエクステリア(外形)のデザイン性に優れていると言われている(写真2)。さらに、瞬時に照度を変化させられるLEDがもたらす幻想美は、流線型の車体が持つ機能美とは異なる新しい次元の魅力を自動車にもたらすことができる。

 このような特徴を持つLED照明を制御するのにもスマートパワーSoCを活用することができる。図8は、LEDヘッドライト向けスマートパワーSoCの周辺回路図である。このICは、昇圧回路と降圧回路を両方備えているので、1本のLEDストリングに必要な入力電圧が、電源電圧より低い場合でも高い場合でも、LEDを駆動することができる。ここで重要なのは、1本のLEDストリングを駆動するのに必要な入力電圧が、LEDストリングに直列で接続されるLEDの個数に比例することと、LEDヘッドライトのデザイン性が、使用するLEDの個数に左右されることである。つまり、このICを使用することで、LEDの個数を気にすることなく、ヘッドライトをデザインすることが可能になるのだ。また、スマートパワーSoCでは、OTPメモリーによるパラメータの最適化が可能である。すなわち、LEDの個数にある程度、プログラマブルに対応できる。照度と点灯方法の変更に必要なPWM(パルス幅変調)駆動方式におけるデューティと周波数の増減も、スマートパワーSoCでは自由に設定することが可能である。

 さらに、LEDは、ほかの光源に比べて低電圧/低電流で動作するので、スマートパワーSoCを用いた駆動に特に適している。白色LEDは、1個当たりの順電圧が4V弱である。ヘッドライトなどに用いるLED照明は、何個かの白色LEDを直列につないだLEDストリングによって構成されている。例えば、10個の白色LEDを接続したLEDストリングには約40Vの入力電圧が必要になる。そして、これらのLEDストリングに流れる電流は1A〜2Aである。これらの電圧/電流の値は、前述したように、スマートパワーSoCの製造に用いるBCDプロセスの条件と一致する。

パラメータ変更による最適化

 次に、LED照明を例にとり、スマートパワーSoCを用いて制御可能なパラメータについて触れる。

 ドライバーの視覚を助ける役目をするヘッドライトでは、安全性と機能性の観点から、光束とカラーバランスを調整する必要がある。しかし、LEDにかかる電圧と電流の関係は直線的ではなく、さらにLEDの色度は流れる電流値によって変化してしまう。ここで、内部のレギュレーションループを最適化して所望の電圧と電流の値を得られるようにすれば、適切な光束と色度の明るさを持つLEDヘッドライトを構成できる。スマートパワーSoCを利用すれば、このようなことを容易に実現可能である。

画面1 スマートパワーSoCのパラメータ設定画面 画面1 スマートパワーSoCのパラメータ設定画面 

 スマートパワーSoCのパラメータを、パソコンなどを用いて設定できるような形で提供されることが一般的となるだろう。画面1のように、スマートパワーSoCやLEDを基板に実装する際、OTPメモリーを用いてパラメータのトリミングが行える。これにより、LEDデバイスの特性の個体ばらつきを吸収できるので、特性値の低いLEDデバイスも無駄にすることなく利用可能だし、システム全体としてのコスト低減にも貢献できる。さらに、スマートパワーSoCは、フラッシュメモリーの書き換えによって制御ループを最適化することができるので、性能が向上した新たなLEDを用いる製品を開発する際にも、設計の大幅な変更を行う必要がない。

設計コストの低減

 今後、0.35μm〜0.25μmのBCDプロセスで製造されたスマートパワーSoCが、自動車のセンサー、モーター、LEDなどを制御する用途に広く適用されるようになるだろう。そこで重要なのは、スマートパワーSoCを製品化する際に、最終的な採用を目指す自動車システムにおいて利用されるときのモデルを明確化し、システム全体として所望の精度を実現できるようにパラメータを調整することである。スマートパワーSoCは、バイポーラ、CMOS、DMOSを1チップに集積したものとなるが、それらを1つのモデルによって取り扱うことで、システム全体を最適化することが容易になる。つまり、BCDプロセスを採用したICの特徴である抵抗分割比の正確さ、あるいはICを用いることによる配線の短さといったメリットを生かし、それらを表現したモデルを利用することにより、ECUが必要とする制御の精度を容易に得ることが可能なのだ。このとき、個別部品によってECUの機能を構成する際に用いていた方法論は捨てることになる。

 スマートパワーSoCを用いたECUの場合、その製造工程も大幅に簡素化されるだろう。個別部品を用いる場合、部品の誤差が累積されるため、所望の最終精度を得るために誤差の少ない部品を選別し、実装する必要がある。これに対して、スマートパワーSoCを使う場合は、1つのICのパラメータを調節するだけでよい。

 また、スマートパワーSoCは、1チップでシステムのさまざまなバリエーションに対応できることも大きな特徴とする。例えば、LEDヘッドライトなどであれば、車種によって使用するLEDストリングの本数が異なることがある。さらに、点灯パターンが異なることもある。こうした場合、従来であれば新たにLEDコントローラのシステムを作り直す必要があった。スマートパワーSoCは、このようなさまざまな要件変更に、パラメータの設定変更だけで対応できるのである。

 今、この瞬間にも、スマートパワーSoCの製造に用いるBCDプロセスは進化を続けており、車載用途への適合性を高めている。現在、AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)やJasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)によりECUのソフトウエアの標準化が進められているが、ソフトウエアのみならず、ハードウエアも含めて業界全体にわたる標準化を推進することが、大幅なコストダウンの鍵になるだろう。スマートパワーSoCは、ハードウエア領域での標準化を進める上で鍵となるデバイスに位置付けられる可能性もある。


脚注

※4…『輝き放つ車載LED』(Automotive Electronics 2010年春号、p.18)


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