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ポリフェーズフィルタの基本を知るFIRフィルタの効率的な実装手法 (2/3 ページ)

» 2010年09月01日 00時00分 公開
[Ron Warner (米Lattice Semiconductor社),EDN]

リサンプリング

 上述した間引き係数と補間係数は、基本的には整数値のみをとる。つまり、間引きや補間の処理では整数の係数のみを扱い、小数の係数には簡素な方法では対応できない。例えば、間引きの場合、捨てることが可能なのは整数個のサンプルである。つまり、2個のうちの1個、3個のうちの1個、3個のうちの2個、4個のうちの3個などとなる。

 異なるサンプリングレートで動作する2つのサブシステム間で信号を送受するために、信号のサンプリングレートを変更したいとする。両者のサンプリングレートの比が整数値である場合、間引きか補間の一方のみを行えばよい。しかし、サンプリングレートの比が小数値である場合には、間引きと補間の組み合わせである「リサンプリング」を行わなければならない。

図8 リサンプリングの概念 図8 リサンプリングの概念 補間係数Lを5、間引き係数Mを2として処理を行い、2.5のリサンプリング係数を実現する。

 例えば、2.5の補間係数に相当するリサンプリングが必要な場合、まず係数5で補間してから、係数2で間引きする。それにより、入力サンプリングレートの5/2=2.5倍の出力サンプリングレートを実現することができる。実際には、図8のように補間フィルタと間引きフィルタを組み合わせることになる。

 出力サンプリングレートと入力サンプリングレートの比のことを「リサンプリング係数(Resampling Factor)」と呼ぶ。両サンプリングレートの値にかかわらず、この値は補間係数と間引き係数の比L/Mで表せる。上の例の場合、L/M=5/2=2.5ということである。

図9 リサンプリングの具体例 図9 リサンプリングの具体例 サンプリングレート48kHzから同44.1kHzへのリサンプリングは、補間係数L=147、間引き係数M=160で実現できる。

 もう1つ、非常に現実的な例として、48kHzのサンプリングレートで取得したプロ用オーディオ信号を、44.1kHzのサンプリングレートの民生オーディオ機器で使用するためにリサンプリングするケースを考える。この場合、リサンプリング係数は、入力サンプリングレートに対する出力サンプリングレートの比なので、44.1kHz/48kHz=0.91875となる。44100Hz/48000Hz=441/480=147/160であり、147と160には公約数がないため、ここであきらめて、補間係数L=147で補間してから、間引き係数M=160で間引きすることになる(図9)。

通常のFIRフィルタ

 通常、デジタルフィルタはFIR型かIIR(無限インパルス応答)型のいずれかとして構成する。IIRフィルタは、フィードバックループを用いて実現され、一般的なアナログフィルタに近い特性を示す。フィードバックを使用するため、インパルス応答は再帰的になり、無限に持続する。FIRフィルタよりも必要な演算量は少ないのだが、安定性の確保の面で注意が必要となる。総合的に見ると、FIRフィルタよりも性能が劣ると言える。一方、FIRフィルタにはフィードバックループはなく、インパルス応答は有限となる。FIRフィルタには、フィルタのタップ数などにかかわらず、すべての周波数範囲において、群遅延が完全に一定であることや安定性が高いことなど、IIRフィルタに勝る利点がある。

図10 FIRフィルタの構成 図10 FIRフィルタの構成 

 通常のFIRフィルタでは、入力サンプルXNは、遅延要素のZ変換表現に相当するレジスタZ−1の列を通過することになる(図10)。フィルタの動作は、最も新しいN個のデータサンプルに対して定数の配列(タップ係数)を乗算し、得られた配列の要素をすべて加算するというものになる。係数の重み(値)とフィルタのタップ数を変更することにより、FIRフィルタは実質的に任意の周波数応答特性を実現することができる。

 FIRフィルタを利用する際に問題となるのは、求める結果によっては、膨大な数のタップが必要になる可能性があることだ。使用するアーキテクチャにもよるが、例えばFPGAを用い、極めてシンプルな考え方で実装すると、ロジック回路のリソースを大きく消費することになる。また、各タップは、すべてのクロックごとに乗算と加算を実行するので、消費電力が多くなる。

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