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電源回路設計の手順と勘所(7) 熱特性を評価する【ビデオ講座】アナログ設計の新潮流を基礎から学ぶ

» 2011年01月01日 00時00分 公開
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【ビデオ講座】電源回路設計の手順と勘所(7) 熱特性を評価する (クリックで動画再生)


 一般に電源回路は、ある電圧の入力電力を、異なる電圧に変換して出力する役割を果たす。このときの変換効率は100%ではない。変換時には、必ず電力損失が発生する。例えば、出力電力が5Wで変換効率が80%であれば、1Wの電力損失が発生することになる。この電力損失が熱源となる。

 この熱源がどのような悪影響を与えるのか。通常、電源ICには動作接合部(ジャンクション)温度の上限値が定められており、熱源による温度上昇でこの上限値を超えると、電源ICは破壊されてしまうのだ。従って、この上限値を超えないように電源回路を設計する必要がある。実際には、電子機器メーカー各社は、上限値に対して10〜15℃程度のマージン(余裕度)を確保して設計している。つまり動作接合部温度が125℃であれば、電源ICの温度は105〜115℃に抑えなければならない。さもないと、電源ICは壊れてしまう。

 試作した電源回路の温度を確認するには、サーモ・カメラなどを使って実測するしかほかに方法はない。ただし、試作した電源回路を実際に動作させて、電源ICが上限値を超えたかどうか突き止める方法では、電源ICが破壊されてしまう可能性が高い。これでは、試作した電源回路が台無しになってしまう。

 そこで、電源回路を試作する前に、熱解析(シミュレーション)によって温度上昇の様子を把握する必要がある。米ナショナル セミコンダクター社は、WEBENCH®オンライン設計支援ツールの中で熱解析ツールも用意している。今回は、このツールを使って設計した電源回路の熱特性を評価する。

簡単な設定で熱特性を把握可能

図1 図1 まずは電源回路を設計
オンライン設計支援ツール「WEBENCH® Power Designer」を使って電源回路を設計する。今回は、入力電圧を24V、出力電圧を12V、出力電流を3A、周囲温度を30℃と設定した。

 今回は、産業機器やFA機器、通信機器などの用途を想定して、12Vの中間バスに対応した電源回路を設計してみる。「WEBENCH Power Designer」の設定画面で、入力電圧を24V、出力電圧を12V、出力電流を5A、周囲温度を30℃とする(図1)。「Start Design」のボタンをクリックすると、まずは電源ICの選択画面が表示される。ここでは、第5世代の「SIMPLE SWITCHER®」製品である降圧型DC-DCコンバータIC「LM22678-ADJ」を選択する。スイッチング素子を集積したICで、パッケージに工夫を施すことで放熱特性を高めた品種である。動作接合部温度の上限値は125℃である。

 次に、電源回路の設計を最適化する。今回は、オプティマイザ・ダイヤルを「5」番に合わせて、変換効率が最も高くなるようにする。設計結果は、変換効率が94%、電源占有面積が1345mm2、部品コストが6.21米ドルである。

図2 図2 熱解析を始める
電源回路の設計が終わった後に、熱解析を始める。熱解析は、画面右上部の「熱特性」をクリックすると始められる。

 この電源回路を使って熱解析を実行する。熱解析を行うには、画面右上の熱特性ボタンを押す(図2)。すると、図3のような画面が表示される。画面左側は各種設定部(熱特性シミュレーション・パラメータ)で、画面右側には、プリント基板が表示されている。このプリント基板は、設計した電源回路を実装したものである。実装した状態で、プリント基板の放熱特性を考慮しながら、電源ICなどの温度がどの程度に達するのかを求めることができる。「実使用の状態にかなり近いかたちで解析できる」(ナショナル セミコンダクター ジャパンの山田浩二氏)という。なお、プリント基板は、2枚表示されているように見えるが、これは1つの基板の表面と裏面を表示したものである。


図3 図3 熱解析の初期画面
画面左側は各種設定部(熱特性シミュレーション・パラメータ)、画面右側は熱解析の結果表示部である。結果表示部には、2枚のプリント基板が表示されている。設計した電源回路を載せたプリント基板の表面と裏面である。

 ここで、画面左側の熱特性シミュレーション・パラメータについて説明しよう。「動作条件」と「周囲温度」はいずれも、WEBENCH Power Designerの設定画面に入力した値がそのまま表示される。ただし、ここで数値を変更することも可能である。「ボード条件」では銅箔重量、すなわち金属配線の厚さと、プリント基板の向きを設定する。部品を実装した面を上に、もしくは下に向けるかを選択できる。「エアー・フロー」では、冷却ファンの有無や風向き、風速を設定する。左の画面で風向き、右の画面で冷却ファンの有無と、風速を設定できる。「エッジ温度」では、基板の端部(エッジ)の温度を設定する。Insulatedを選ぶと、外部とは熱的に遮断された条件で解析できる。つまりプリント基板上の熱源だけで、温度がどのように上昇するかを求められる。チェックボックスを外して温度を入力すると、プリント基板の単部に隣接したところにその温度の熱源が存在することを想定した解析を実行できる。つまり、電源回路の横に、大きな熱源となるプロセッサ・ボードを置いた状態などを模した解析が実行できるわけだ。

冷却ファンの効果を実感できる

 それでは、実際に熱解析を実行する。熱特性シミュレーション・パラメータは以下の通りに設定した。動作条件と周囲温度は、初期入力値のままとする。銅箔重量は、最も一般的な1オンス(OZ.)とする。金属配線の厚さは約35μmとなる。プリント基板の向きは、部品を実装した面を上。エアー・フローはなし。エッジ温度はいずれもInsulatedとし、熱的に遮断された状態とする。

図4 図4 周囲温度が30℃のときの熱解析結果
プリント基板全体が青く、温度は比較的低い。「IC-Die」の温度は69℃で、動作接合部温度である125℃を大きく下回る。

 熱解析を実行する場合は、画面上部の「Run Simulation」ボタンを押す。解析結果は図4である。温度が低い領域は青色で、高い領域はオレンジ色や赤色で表示される。全体的に青い。従って、温度上昇はほとんどないことが分かる。電源ICの温度は、パッケージ表面の温度である「IC-Top」が68℃、パッケージ内に収められたチップ(ダイ)の温度である「IC-Die」が69℃である。電源ICの動作接合部温度の上限値に達する恐れはない。このため、熱特性の評価だけではあるが、実際のアプリケーションにそのまま適用することが可能と判断できる。

 それでは、電源回路の周囲温度が上昇した場合はどうなるのか。「Create New Simulation」ボタンを押し、新たな解析に向けて熱特性シミュレーション・パラメータを設定する。今回は、周囲温度を85℃に高めた状態で解析する。この周囲温度は、通信インフラ装置などに求められる値だ。前回の設定から、周囲温度のみを変える。プリント基板の底部と上部ともに85℃にし、「Run Simulation」ボタンを押して解析する。

図5 図5 周囲温度が85℃のときの熱解析結果
プリント基板の一部が赤く、温度が高い。「IC-Die」の温度は120℃で、動作接合部温度である125℃にかなり近く余裕度が無い事が分かる。

 解析結果が図5である。ところどころに赤く表示された領域がある。かなり温度が上昇しているようだ。「IC-Top」は119℃、「IC-Die」は120℃である。前述のように使用した電源ICの動作接合部温度は125℃。シミュレーション上殆ど余裕度が無い状態である事がわかる。そこで冷却ファンを使って、冷やしてみる。再度、「Create New Simulation」ボタンを押す。今回は、前回の設定からエアー・フローの部分のみ変更する。具体的には、電源ICに近いエッジ4の方向から200LFM(Linear Feet per Minute)の速さの風を与える。つまり、エッジ4のボックスにチェックを入れて、さらにファンのボックスにチェックを入れ、その横のボックスに200を入力する。なお、200LFMは1m/sの風速に相当する。

図6 図6 冷却ファンで電源回路を冷やす
周囲温度が85℃の場合に、冷却ファンを使って冷やした際の熱解析結果である。赤い領域がなくなっており、温度がだいぶ低くなっていることが分かる。「IC-Die」の温度は113℃である。動作接合部温度である125℃に対して10℃以上のマージンが確保できている。従って、実際のアプリケーションに適用することが可能である。

 「Run Simulation」ボタンを押して解析した結果が図6である。赤い領域がほとんどなくなり、温度がだいぶ下がっている。「IC-Die」の温度は113℃である。これで125℃の動作接合部温度の上限値に対して10℃を超えるマージンを確保できたことになる。ナショナル セミコンダクター ジャパンの山田氏は、「この設計であれば、熱特性の観点で見た場合、実際のアプリケーションに十分に適用できるといえる」という。

 今回は、前々回と前回の電気特性の評価/検証に引き続き、熱特性の評価/検証について解説した。電源回路にとって、電気特性と熱特性の検証は欠かせないものだ。どちらかの特性に何らかの問題を存在すれば、実際のアプリケーションでは使えない。ただし、電気特性と熱特性の評価/検証はいずれも難しい上に手間が掛かる。今後、電源回路の設計者は、今回紹介したようなオンライン設計支援ツールやシミュレーション・ツールなどを利用して、「賢く」評価/検証していくことが求められるだろう。

注:WEBENCH®オンライン設計支援ツールのデータは日々更新されています。このため、表示結果が変る可能性があります。



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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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