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POLコンバータ選択の指針ハイエンドLSIの電源が満たすべき要件(4/4 ページ)

» 2011年03月01日 00時00分 公開
[石川 隆之 (ベルニクス)/福田 光治(PALTEK),EDN]
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実装上の注意点

 ここまで、ハイエンドLSIに用いるPOLコンバータそのものの特性について述べてきた。POLコンバータのいくつかの仕様が検討事項になることがご理解いただけたと思うが、それ以外に、実装における注意点も存在する。

 まず、POLコンバータから負荷であるLSIまでの配線による電圧降下に注意しなければならない。大抵の場合、この配線はプリント基板のパターンで構成されるが、この配線には、抵抗成分が存在するため、出力電流が流れることにより電圧降下が生じる。その結果、実際にLSIに給電される電圧が低下してしまうことになる(逆に言えば、この電圧降下を考慮して、高精度のPOLコンバータを選択しなければならないということでもある)。さらに、配線にはインダクタンス成分も存在する。インダクタンスは電流変化に対応した電圧を発生するので、負荷の電流が急変したときには実際に給電される電圧が変動することになる。これらの問題を解決するためには、できるだけパターン幅を広くとり、パターン長が短くなるようにPOLコンバータを負荷に対して最短距離で配置する必要がある。

 ただし、負荷であるLSIもPOLコンバータも熱を発する部品であるため、あまり距離が近いと、熱の影響を受けかねない。また、ハイエンドLSIの中には、端子数が2000近くにも上るBGAパッケージ品も存在し、さまざまな機能を持った周辺のICと複数の信号線で接続される。加えて、ほとんどのケースで、そうしたLSIの周辺にはDRAMやSRAMといった外部記憶装置が配置される。そのため、LSIの周囲は、基板上において非常に“ビジー”なエリアになると言える。接続する信号線の数が多く、かつ高速通信を行うハイエンドLSIの周辺に、POLコンバータなどの電源部品をレイアウトするというのは、かつての設計思想に鑑みると、非常に困難かつ複雑な検討が必要な作業となる。しかし、このことは、LSIの性能を引き出してシステムの効率を向上させ、さらに安定な動作を実現するためには乗り越えなければならない課題だと言えるだろう。

■POLコンバータの実装面積

 電源配線のパターン長を短くするための最も容易な手法の1つは、上述したように、LSIの近傍にPOLコンバータを配置することだ。しかし、そのためには、そもそもPOLコンバータとその周辺部品を含めた実装面積が小さいことが必須の条件となる。POLコンバータ単体のパッケージサイズ(SMDやDIP など)だけではなく、利用において必要不可欠となる入出力コンデンサ、出力電圧の設定に用いる抵抗などの実装面積も含めて検討する必要がある。

 表1に示したように、この実装面積も製品によって大きく異なる。こうした違いは、端子配置の制約による実装面積への影響、出力電流値に依存する外部部品の増加などによって発生する。

 ここまでに述べたとおり、ハイエンドLSI向けのPOLコンバータとしては、効率が高く、応答性能が良好で、なおかつ外部部品を含めた実装面積の小さい製品が最適だということである。

複数のコンバータ間の干渉

 POLコンバータに限らず、スイッチング方式のレギュレータを複数個使用する場合に、レギュレータ相互の干渉の問題が発生するケースがある。通常、レギュレータは高い周波数でスイッチングしているが、その周波数は発振回路の設定によって決定される。同一種類のレギュレータは同一の周波数でスイッチングすることになるが、実際のスイッチング周波数には、部品のばらつきなどに起因して偏差が生じる。通常、公称発振周波数の±10%程度の偏差があると考えられる。

 2種類のレギュレータがスイッチングした場合、2つの発振周波数の差の周波数でビートが発生する。このビートは、レギュレータ内部のフィルタでは取り除くことができない場合がある。また、スイッチング方式のレギュレータは、フィードバックループによって出力電圧を安定化する。そのループゲインは、周波数が高くなると低下するため、ビートの影響を排除することは困難な場合がある。


高速トランシーバにもスイッチングレギュレータ?

 数ギガビット/秒(Gbps)のデータ転送を実現する高速トランシーバについては、これまでLDO(低ドロップアウト)レギュレータなどドロッパ方式のものを使用した電源設計が常識とされてきた。その理由は、数Gbpsというレベルの場合、シグナルインテグリティ(信号品質)の確保がデータ伝送の正確性を実現する上で最も重要であり、その信号品質を確保するためには、電源ノイズを最小限に抑えることが必要不可欠になるからだ。

 しかし、昨今のシステムには、USBやSATA(Serial Advanced Technology Attachment)、PCI Expressなど、Gbpsクラスの伝送をサポートするプロトコルが当たり前のように使われている。それに対応するためのものとして、数十チャンネルのトランシーバを内蔵しているLSI製品まである。

 トランシーバのチャンネル数の増大や動作周波数の向上によって、トランシーバのために必要な電力量も同様に増大した。その結果、これまでのドロッパ方式のレギュレータではカバーしきれないほどの電力が必要となってきている。本編で説明したとおり、通常、ドロッパ方式のレギュレータは損失の大部分を熱として放出するため、大容量の電流を扱うことに適していない。また、ハイエンドLSIの複数チャンネルのトランシーバを同時に動作させる場合、消費電流には500mA〜5A程度の幅があるが、1つのLDOでこれに対応するのは難しくなってきている。LDO単体でカバーできるのは、大まかに言えば3A未満の消費電流に限られるため、大規模なシステムで複数チャンネルのトランシーバが必要な場合には、複数のLDOを並列または分離して搭載する必要がある。

 こうした問題に対応するために、効率の面でドロッパ方式よりも優れるスイッチング方式のレギュレータを高速トランシーバの電源として用いることができないものか検証してみることにした。すなわち、スイッチング方式のレギュレータを使っても、信号品質に問題が起きなければ、高速トランシーバ用のものとして、スイッチング方式のレギュレータを利用できるのではないかということである。

 筆者らは、ドロッパ方式のレギュレータとスイッチング方式のレギュレータを用いて、高速トランシーバを駆動する実験/評価を行った。使用したのは、スイッチング方式のレギュレータ「EN6337QI」(米ENPIRION社製)と大手電源ICメーカーの代表的なLDO製品である。EN6337QIは、効率は90%以上、オーバーシュート/アンダーシュート(過渡応答特性)は±100mV以下であり、本編で説明したように、ハイエンドLSI向けのPOLコンバータとして十分に利用可能な製品として選択した。インダクタも内蔵したモジュールタイプの製品であることから、LDOと同じように、入出力のコンデンサと電圧設定用の抵抗といった基本的な受動部品のみで電源回路を構成できる。その意味で、電源回路の設計上も大きな差はないと言える。また、実装面積についても、必要な外付け部品に大きな差がないことから、LDOが17.2mm×9.6mm=165.1mm2であるのに対し、EN6337QIは 13.7mm×9.4mm=128.8mm2と、こちらにも大きな差は生じない(表1に示した3製品と比べても小型である)。

 筆者らは、両製品について、過渡応答特性、効率、効率に起因する熱放射の比較評価も行った。これらについては、本編で述べたとおり、LDOのほうがリップル/ノイズ量が少ないが、効率/熱放射の面では劣るという一般的な結果となったので、詳細な測定結果の紹介は割愛する。

 これらの単体評価を実施した上で、本題である高速トランシーバに両製品を用いた場合に、信号品質がどのようになるのかを観測した。条件は以下のとおりである。

  • 使用したLSI:米Xilinx社の高速トランシーバ内蔵FPGA「Virtex-6」
  • 伝送速度:5Gbps
  • 送信データストリーミング:PRBS(Pseudo Random Binary Sequence)-7
図A 信号品質の評価結果 図A 信号品質の評価結果 

 その結果は図Aのようになった。どちらの電源を用いた場合でも、トータルジッターや位相ノイズともに大きな違いがないことがわかる。すなわち、一般的に言われているスイッチング方式のレギュレータのノイズが信号品質に与える影響について、本評価によればLDOを使う場合と大きな差はなかった。

 もちろん、信号品質については、放熱設計や基板レイアウトなどに起因する部分も多いため、必ずしもすべての条件下で同様の結果が得られるとは限らない。しかし、製品によっては、高速トランシーバを動作させる上で十分な性能を発揮するということもわかった。高速トランシーバの電源は、必ずドロッパ方式のものでなければならないという考え方から、一歩違った視点で電源の選択が行えるということは、大規模化/高速化するハイエンドLSIを有効に活用する上で、1つのメリットになると筆者は考える。 


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