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安川のEV用モーターシステム、SiCパワーモジュールを採用

» 2011年04月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 安川電機は2011年1月、電気自動車(EV)用のモーターシステム「SiC-QMET」を開発したと発表した。同システムは、ロームのSiC(シリコンカーバイド)デバイスと高温動作モジュール技術を用いたパワーモジュールを採用しており、従来品と比べて大幅な小型化と損失の低減を実現したことを特徴とする。

 安川電機は、2010年1月から、独自の電子式巻線切り替え技術を採用したモーターシステム「QMET(Qualified Magneto-Electronics Transmission)ドライブ」を、EVやハイブリッド車(HEV)向けに展開している。SiC-QMETは、このQMETドライブをベースとしたものである。QMETドライブは、モーター側に内蔵されている巻線切り替えの制御回路と、モーターとは別の部品であるインバータの制御回路にSi(シリコン)デバイスを用いたパワーモジュールを採用していた。一方、SiC-QMETは、このパワーモジュールに替えて、ロームのSiCパワーモジュールを採用している。これによって、SiC-QMETは、従来のQMETドライブと比べて、モーターの制御回路部(写真1)とインバータ(写真2)の容積がそれぞれ 1/2以下になり、変換効率も94%から96%に向上した。

写真1「SiC-QMET」のモーター 写真1 「SiC-QMET」のモーター 手前側にあるのが、モーターの制御回路部。
写真2「SiC-QMET」のインバータ 写真2 「SiC-QMET」のインバータ 右側がSiC-QMETのインバータで、左側が「QMETドライブ」のインバータ。

 SiC-QMETは、東京ビッグサイトで2011年1月に開催された『第3回国際カーエレクトロニクス技術展/第2回 EV・HEV駆動システム技術展』で披露された。展示されたSiC-QMETの仕様は、最大トルクが200Nm、最大出力が60kW、最高回転数が1万2000回転/分である。安川電機は、SiC-QMETを、モーター出力が60kW〜80kWとなるコンパクトカーやセダンタイプのEV向けに展開する方針だ。

 ロームのSiCパワーモジュールは、同社が開発したSiC-MOSFETとSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を用いている。ただし、モーター制御回路部とインバータでは、適用したSiC-MOSFETの種類が異なる。モーター制御回路部にはSiC−トレンチMOSFETが、インバータには SiC-DMOSFET(Double-Diffusion MOSFET)が用いられているのだ。

 SiC‐トレンチMOSFETは、同社が独自に開発したデバイス構造を採用しており、一般的なプレーナ構造を用いているSiC-DMOSFETと比べてオン抵抗を1/3以下に低減できることを特徴としている。ロームは、2010年12月から量産を開始したSiC-DMOSFETの次世代品として、数年後の実用化に向けてSiC−トレンチMOSFETの開発を進めている。

 安川電機は、「モーター制御回路部は、スイッチングの頻度は少ないものの、高熱を発するモーターに隣接している。このことから、高温動作時でもオン抵抗が小さいSiC‐トレンチMOSFETが適している。一方、インバータは、スイッチングの頻度が多く、巻線切り替えの制御回路ほど高温にはならないので、量産実績のあるSiC-DMOSFETのほうが有利だ」と説明する。

 また、SiCデバイスは、動作温度の上限が約170℃のSiデバイスと異なり、200℃以上でも動作が可能なことを特徴としている。つまり、SiCデバイスを用いたシステムの冷却は簡素なもので済ますことが可能だ。そこで、安川電機は、SiC-QMETのモーター制御回路部の冷却方式について、QMETドライブの水冷から空冷に変更した。このことによって、モーター制御回路部の容積の大幅な削減が可能になった。このSiCパワーモジュールには、ロームの高温動作モジュール技術が適用されているので、SiCデバイス以外の基板やはんだの部分が200℃以上になった場合でも問題なく動作する。

 なお、モーター制御回路部には、SiCデバイスを駆動するためのゲートドライバICも組み込まれている。このゲートドライバICはSiデバイスだが、「パワーモジュールはモーターに隣接した部分に組み付けているので200℃以上の高温になることがある。一方、ゲートドライバICを搭載した基板は、パワーモジュールのモーターとは逆側の面に設置しているので、Siデバイスでも問題なく動作する温度まで冷却されている」(安川電機)という。

(朴 尚洙)

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