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AC-DC電源の設計ポイントスイッチング方式が抱える課題を整理する(1/4 ページ)

スイッチング方式のAC-DC電源は、旧来型のリニア方式では得られない高い効率を実現するものとして急速に普及した。しかし、スイッチング方式は、従来は存在しなかった新たな課題ももたらした。結果として、AC-DC電源の設計は、従来よりもはるかに複雑なものとなった。では、その課題とはどのようなもので、それを解決するためには、どのような工夫を盛り込む必要があるのだろうか。

» 2011年06月01日 00時04分 公開
[Paul Rako,EDN]

メリットだけではない

 あらゆる電気/電子機器では、高い効率が得られる電源が求められている。特に商用電源(AC電源)から、実際に機器を駆動するためのDC電源を生成する AC-DC電源については、省エネに対する気運の高まりなどもあり、効率に対してより厳しい目で見ることが要求されている。この要求を満たすための解の1 つがスイッチング方式のAC-DC電源である。コントローラICを使わず、大型のトランスを搭載する従来のリニア電源より、スイッチング方式のAC-DC 電源であればコストも抑えられる。

 しかし、スイッチング方式のAC-DC電源の設計には、従来のリニア電源には存在しない問題が伴うこととなった。例えば、EMI(電磁干渉)、突入電流、ユニバーサル入力といった事柄に対応しなければならないのである。そして、これらの問題については、さまざまな対処法が考案されている。

AC-DC電源の一般的な課題

 まずはAC-DC電源の設計における一般的な問題とその対処法について、ひととおり俯瞰してみる。

 AC-DC電源の入力となる商用電源は、電源のコードをはじめとする周囲の環境に対して放射性のEMIの問題を生じさせる。そのため、AC-DC電源の入力部には、差動(ディファレンシャル)フィルタとコモンモードフィルタが配置されることが多い。

AC入力の両端には、Xコンデンサを使用する。このコンデンサが故障しても感電することはないが、高いライン電圧が印加されている状態で電源を切断すると、安全性の問題が生じる可能性がある。

 この問題に対しては、並列に接続した抵抗によってコンデンサを放電することで対処できる。ただし、この方法では、電源の稼働中に電力を無駄に消費してしまう。代替策として、米Power Integrations(以下、PI)社が供給しているXコンデンサ用自動放電ICファミリ「CAPZero」のような部品を使用する方法がある。この ICを利用すれば、安全性に関する規格を満たしつつ、電源での電力の浪費を回避することができる。

 電源ラインとグラウンドの間には、Yコンデンサも必要になるかもしれない。このYコンデンサが故障すると、感電につながる可能性がある。Yコンデンサは、電力コードに対する伝導性のEMIの問題を低減するが、容量の大きなコンデンサは、電源回路のブレーカ機能やコンセントの漏電防止機能を誤作動させる可能性がある。

 EMIの問題は、プリント基板上のレイアウトの工夫や、回路における急激な電流変化を抑えることによって解決することができる*1)。最後の手段としてシールドを利用する方法があるが、これにはコスト増という欠点が伴う。

 AC-DC電源の設計時に生じ得るもう1つの問題は、大きな入力コンデンサが必要になることに起因する。電源回路の起動時には、このコンデンサを充電するために、大きな突入電流が流れてしまうのだ。

 入力コンデンサとして大きなものを使用することにより、スイッチング段への入力リップルは小さくなる。しかしながら、突入電流が大きくなることで、入力部分の整流ダイオードが破損したり、ヒューズが切れたりする可能性がある。

 このような問題を緩和するために、NTC(負温度係数)サーミスタを用いた突入電流の制限回路を付加する方法がある。この構成の回路では、低温時にはサーミスタの抵抗値が高いことを利用して急激な突入電流を防ぐ。通常の稼働状態では電流が流れることで高温になるため、サーミスタの抵抗値が下がり、電源に本来の電力が供給される。

 入力電力が断続的となるAC-DC電源を設計しなければならないことがある。その場合、入力電力が途切れると、入力コンデンサの電荷が100ms程度の時間で放電される。そして、NTCサーミスタを用いた制限回路の温度がまだ高いうちに入力電力が回復すると、許容範囲を超える突入電流が流れる恐れがある。この問題に対処するには、UVLO(Undervoltage Lockout:低電圧ロックアウト)機能付きのコントローラICを使用するとよい。この機能を備えるコントローラICは、ある閾(しきい)値に電圧が達したら、入力コンデンサの電荷が放電されないように働く。このレベルから電源ラインのレベルまで入力コンデンサを充電するのに必要なエネルギーによって、 NTCサーミスタによる制限回路が高温の状態でも、電源が破損したり、ブレーカ機能が働いたりしないように、回路を設計するとよい。ただし、NTCサーミスタを利用した電流制限回路は、周囲の温度に応じて動作するので、電源の使用温度範囲が広い場合には、すべての要件のバランスをとりつつ、突入電流を低く抑えるという難しい問題に対処しなければならないことになる。

 突入電流の問題に対処するためのもう1つの方法は、FETなどのトランジスタを入力段に直列に配置することだ*2)。適切なサイズのFETを選択し、ゆっくりとオンの状態にして線形領域で動作させることで、電力を消費させる。この方法では、オン、オフの繰り返しにより、FETが過熱しないように注意する必要がある(『スイッチング電源の課題と対策』も参照されたい)。

 また、入力コンデンサが故障した場合、コンデンサ自身が燃えたり、ほかの部品を燃やしたりすることがないよう、ヒューズが切れるか、配線が溶けるようにする必要がある。米UL(Underwriters Laboratories)は、火災の防止を主な目的とした試験を提供している。このULの試験を利用すれば、故障モードを調べたり、電源の出力を短絡しても火災などが生じないことを確認したりすることができる。

 上述したように、UVLO機能を利用すれば、突入電流が生じないように入力コンデンサの電荷を保つことができる。しかし、コンデンサを充電したままにすると、保守作業などの際に安全性の問題が生じる可能性がある。この問題については、コンデンサの両端に高抵抗を接続するという対処法が考えられる。だが、それだと常に電力が無駄になり、効率が損なわれる。効率の低下を防ぐには、抵抗と直列にFETを接続し、電源の稼働中には、抵抗の電流パスを遮断するように構成すればよい。

 突入電流の問題を解決したら、電源をユニバーサル入力に対応させるかどうかを決める必要がある。ここで言うユニバーサル入力への対応とは、世界中で使われているAC電圧/周波数で動作するようにするという意味だ。つまり、100V〜240Vの電圧、50Hzまたは60Hzの周波数に対応するといった具合になる。

 広範な入力電圧に対応しようとすると、1つの問題が生じる。通常のPWM(パルス幅変調)方式のスイッチング電源の場合、入力電圧が高いほど、パルス幅が狭くなる。パルス幅があるレベル以上に狭くなると、スイッチング素子として使用するトランジスタは、多大な電圧と多大な電流の両方にさらされて過熱することになる。

 このユニバーサル入力の問題への対処策としては、フロントエンド部分としてブリッジ整流器ではなくトランジスタを用いたプッシュプル型のものを使用する方法がある。あるいは、立ち上がり/降下時間の短いコントローラICを使用する方法も効果的だ。ただし、この高速な遷移によって、過熱の問題は解決するかもしれないが、EMIが大きくなるという代償が伴う。ほかには、PFM(パルス周波数変調)などの異なる構成を採用することでも、広い入力範囲の問題に対処することができる。

図1 コントローラICへの給電方法 図1 コントローラICへの給電方法 この回路の抵抗RSTARTは、電源の効率を低下させる。コントローラICを停止してかまわないときには、抵抗を切り離すよう制御することで、無駄な電力消費を削減できる。

 次に、コントローラICへの電力供給の方法を検討しなければならない。これについては、コントローラICとその入力となるDCバスとの間に抵抗を配置するのが一般的な方法となる。図1で言えば、抵抗RSTARTがそれに当たる。この方法は、実現は簡単だが、抵抗においてかなりの電力を浪費するという問題を抱えている。この抵抗で浪費される電力を削減するためのものとして、PI社はICファミリ「SENZero」を製品化している。コントローラICを停止させてもかまわないときに、 SENZeroを外部からの信号で制御することで、給電ラインを遮断するというものだ。

 制御機能のみを備えるコントローラICを使用する場合、スイッチング素子を選択する必要がある。コントローラ機能とパワーFETを搭載するIC製品(以下、レギュレータIC)もあるが、大電力を扱う用途などをターゲットとするコントローラICの場合、パワーFETは外付けで使用することになる。扱う電力が1kW以上の場合には、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使う設計者もいる。また、低コスト化、低消費電力化を目的として、従来型のバイポーラトランジスタを使用する方法もある。例えば、英CamSemi社のコントローラIC「C2471」を使えば、安価なバイポーラトランジスタを制御することができる。

 PI社のレギュレータICファミリ「TOPSwitch」は、725Vという高電圧に対応するパワーMOSFETとコントローラ回路を1チップ上に集積している。それに対し、米Fairchild Semiconductor社のレギュレータICファミリ「FPS」では、1つのパッケージにコントローラとパワーMOSFETそれぞれのチップを収容する構成としている。

 Fairchild社は、米Texas Instruments(以下、TI)社やスイスSTMicroelectronics(以下、ST)社らと同様に、制御機能のみを備えるコントローラICの製品ラインも持っている。コントローラICを使用する場合には、米Vishay Intertechnology社、米ON Semiconductor社、米International Rectifier(以下、IR)社、米IXYS社、ルネサス エレクトロニクス、TI社、ST社らが提供しているようなスイッチング素子を選択する必要がある。Fairchild社自身も、高いブレークダウン電圧に対応しつつ、チップサイズを抑えることでコスト低減を実現したスーパージャンクションMOSFET「SupreMOS」を発表している。

 電源のソフトスタートを可能にするための回路を設けたいと考えるケースもあるだろう。その場合、入力電力が断続的であってもソフトスタート機能が適切に動作するようにしなければならない。コントローラICには、ソフトスタート機能も提供しているものが多い。また、多くのレギュレータIC/コントローラIC は、過熱/過電流に対する保護機能も内蔵している。かつては外付けで実現しなければならなかった各種の保護機能が、現在ではIC上に実装されているということである。


脚注

※1…Rako, Paul, "Circulating currents: The warnings are out," EDN Europe, November 2006

※2…Castro-Miguens, JB, and C Castro- Miguens, "Limit inrush current in lowto medium-power applications," EDN, Nov 4, 2010, p.44

EDN060101A_BK.pdf


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