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市場が広がるSDI(2) 規格内容と対応チップの詳細に迫る【ビデオ講座】アナログ設計の新潮流を基礎から学ぶ

» 2011年08月15日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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【ビデオ講座】市場が広がるSDI(2) 規格内容と対応チップの詳細に迫る (クリックで動画再生)


 SDI(Serial Digital Interface)は、テレビ・スタジオやテレビ中継現場、劇場などで映像信号を伝送する用途に向けて策定された高速シリアル・インターフェース規格である。しかし最近になって、その適用範囲が急速に広がってきた。すでに、セキュリティ機器やメディカル機器、デジタル・サイネージ、テレビ会議システム、シアター(映画館)などの市場でも採用が始まっている。このため従来は、一部の限られたエンジニアだけが知っていればよかった規格だったが、最近では知っておかなければならないエンジニアの数が急増しているわけだ。

 前編では、SDI規格の概要を紹介した。後編となる本稿では、SDI規格の内容を解説すると同時に、対応する半導体チップを紹介する。

アナログの遺産をそのまま使える

図1 図1 SDIで使用する伝送媒体
伝送媒体は、特性インピーダンスが75Ωの同軸ケーブル。コネクタは、BNCコネクタである。

 SDI規格で使用する伝送媒体は、LVDSやHDMI、DisplayPortなどが利用するツイスト・ペア線(より対線)ではない。特性インピーダンスが75Ωの同軸ケーブルを使う(図1)。この理由について、ナショナル セミコンダクター ジャパンでSDI関連製品のマーケティングを担当する三田喜久夫(みた きくお)氏は、「アナログの映像信号を伝送していたときに使っていた伝送媒体をそのまま利用できるようにしたため」と説明する。コネクタは、同軸ケーブルでは一般的なBNCコネクタを使う。

 SDI規格では、この同軸ケーブルを使って伝送するデジタル信号波形に対して、いくつかの規定を定めている(図2)。伝送信号はシングルエンド形式で、電圧振幅は800mVである。信号波形の立ち上がり時間と立ち下がり時間については、SDTV向けとHDTV向け、プログレッシブHDTV向け(以下、3G向け)のそれぞれに対して、最小値や最大値を規定している。「SDI規格で採用されている立ち上がり時間と立ち下がり時間の定義は一般的なものと異なるため注意が必要だ。一般には、信号振幅の10%から90%に達するまでの時間を立ち上がりとするが、SDI規格では20%から80%に達するまでの時間と定義している」(同氏)。

図2 図2 SDI規格で規定された信号波形
信号の立ち上がり時間と立ち下がり時間のほか、オーバーシュートや振幅、直流(DC)オフセットなどが規定されている。

 SDTV向け規格では、立ち上がり/立ち下がり時間が400psより長く、1.5nsより短い範囲に収めることが求められている。HDTV向け規格は、データ伝送速度がSDTV向け規格より高いため、立ち上がり/立ち下がり時間は270psよりも短くする必要がある。最小値は規定されていない。短い分には、いくら短くても構わない。3G向け規格については、135psよりも短くしなければならない。HDTV向け規格と同様に最小値は規定されていない。

 信号波形のアンダーシュートとオーバーシュートにも規定が設けられている。この規定は3つの規格に共通している。アンダーシュートとオーバーシュートとも振幅の10%以下に抑えることが必要だ。さらに、SDI規格では交流(AC)結合を採用しているため、グラウンド電位に対する規定もある。許容範囲は±0.5V以内である。

リターン・ロスやジッタについても規定

 信号波形のほかで規定されている仕様としては、リターン・ロス(反射損失)ジッタがある。

図3 図3 SDI規格で規定されたリターン・ロス特性
SDTVとHDTV、3Gの各規格に対して、リターン・ロスの大きさが規定されている。

 リターン・ロスに対する規定が図3である。SDTVとHDTV、3Gに向けた3つの規格それぞれに対して許容値が定められている。SDTV向け規格は、270MHzもしくは540MHzよりも低い周波数において、リターン・ロスが−15dB以上。HDTV向け規格は1.485GHzよりも低い周波数において、SDTV向け規格と同様に−15dB以上と規定されている。3G向け規格については、1.485GHzよりも低い周波数では−15dB以上が求められているが、1.485G〜2.97GHzの周波数範囲では−10dB以下と規定が緩められている。

 ジッタについても、リターン・ロスと同様に、SDTVとHDTV、3Gに向けた3つの規格に対してそれぞれ許容値が定められている。ただしジッタの規定には、SDI規格特有の方法が用いられているので注意が必要だ。具体的には、ジッタを分類する際に、周期ジッタやデターミニスティック・ジッタ、ランダム・ジッタといった一般的な分類方法を使うのではなく、タイミング・ジッタとアライメント・ジッタという2つに分類する方法を採用している。

 アライメント・ジッタとは、受信器のPLL回路が追従できない周波数領域のジッタ。タイミング・ジッタとは、PLL回路が追従できる周波数領域を含めた、すべての周波数帯域のジッタである。例えば、HDTV向け規格「SMPTE292」では、アライメント・ジッタが対象とする周波数領域は100kHz以上であり、この領域ではジッタを0.2UI(ユニット・インターバル)以下に抑えることを求めている(図4)。タイミング・ジッタが対象とする周波数領域は100kHz以下で、ジッタの許容量は1.0UIである。

 このほかSDI規格で採用しているエンコード/デコード方式についても言及しておこう。SDI規格のエンコード/デコード方式は、さまざまなシリアル・インターフェース規格で採用されている8B10B方式ではない。スクランブルドNRZIと呼ぶ方式を採用している。図5に示した多項式を利用してスクランブルをかける方式である。

図4 図4 SDI規格で規定されたジッタ特性
ジッタは、アライメント・ジッタとタイミング・ジッタの2つに分類して規定されている。SDTVとHDTV、3Gの各規格に対して規定値が用意されている。図は、HDTV向け規格「SMPTE292」の規定値である。
図5 図5 SDI規格のエンコード/デコード方式
SDI規格のエンコード/デコード方式は、スクランブルドNRZIである。良好な直流(DC)バランスを実現できる上に、同一符号の連続を回避可能だ。さらに、100%のコード効率が得られる。

 この方式の特徴は2つある。1つは、8B10B方式などと同様に、良好なDC(直流)バランス特性と、同一符号の連続を回避できることだ。もう1つは、コード効率が100%と高いことである。8B10B方式では、DCバランスを確保するために20%のオーバーヘッドが必要だった。スクランブルドNRZI方式では、オーバーヘッドが一切ない。

5種類の半導体チップで伝送システムを構成

 SDI規格に対応した伝送システムを構築するには、どのような半導体チップを使えばいいのか。ナショナル セミコンダクター ジャパンの三田氏によると、「SDI規格に対応した半導体チップは大きく分けると5品種ある」という。具体的には、アダプティブ・ケーブル・イコライザとリクロッカ、ケーブル・ドライバ、シリアライザ、デシリアライザの5つだ(図6)。「当社では、SDTV向けとHDTV向け、3G向けの各規格に対して、この5品種のチップをすべて製品化している」(同氏)。

 5つのチップの使い方を具体的に説明したのが図7である。テレビ・カメラの内部で、シリアライザを使ってパラレルの映像信号をシリアル化し、ケーブル・ドライバを使ってビデオ信号を同軸ケーブルに送出する。分配機では、ケーブル・イコライザを使って受信信号の高周波損失分を補償し、リクロッカでジッタを取り除いた後にケーブル・ドライバで再送する。そして表示デバイスでは再度、受信信号の高周波損失分をケーブル・イコライザで補償した後に、デシリアライザでシリアル信号をパラレルの映像信号に直すという処理が実行される。

図6 図6 SDI規格に対応した半導体チップ
SDI規格に対応した伝送システムを構築するには、アダプティブ・ケーブル・イコライザやリクロッカ、ケーブル・ドライバ、シリアライザ、デシリアライザという5つの半導体チップが必要になる。米ナショナル セミコンダクター社では、この5つの半導体チップからなどチップセットを、3G向け規格とHDTV向け規格、SDTV向け規格のそれぞれに用意している。
図7 図7 5つの半導体チップを使ったSDI伝送システム
ビデオ・カメラと分配機、表示デバイスからなる伝送システムの場合である。ビデオ・カメラにはシリアライザ、分配機にはケーブル・イコライザとリクロッカ、ケーブル・ドライバ、表示デバイスにはケーブル・イコライザとデシリアライザが搭載されている。

最新SiGeプロセスで高性能かつ低消費電力を実現

図8 図8 ケーブル・イコライザで高周波成分を補償
米ナショナル セミコンダクター社のアダプティブ・ケーブル・イコライザ「LMH0394」を使って、長距離のケーブル伝送で失った高周波成分を補償した。補償しないと左端の波形のようにアイが閉じている。しかし、補償を実行すると、右端の波形のように大きく開いたアイが得られる。この結果、伝送距離は3G規格の場合に200m、HDTV規格の場合に220m、SDTV規格の場合に400mに達する。

 米ナショナル セミコンダクター社が製品化しているSDI規格対応チップを2つ紹介しよう。

 1つは、アダプティブ・ケーブル・イコライザ「LMH0394」である。このチップは、映像信号が長い距離の同軸ケーブルを通過する際に失ってしまった高周波成分を、受信側で補償(ブースト)するものだ。図8の左端の波形のように、映像信号が100mの同軸ケーブルを通過するとアイは完全に閉じてしまう。そこで、ケーブル・イコライザを使って高周波成分をブースとする。すると、右端の波形のように開口部が大きく開いたjアイ・パターンが得られるようになる。

 LMH0394の特徴は、ブースト量が33dB以上と非常に大きい点にある。3G信号であれば200m、HDTV信号であれば220m、SDTV信号であれば400mの伝送が可能だ。しかも、消費電力は115mWと極めて低い。「競合他社品を大きく上回る性能が得られる」(三田氏)。

 こうした高い性能が得られた理由は、半導体製造技術にある。同社の最新SiGeバイポーラCMOS技術を適用することで実現した。この製造技術を使えば、入力等価雑音が非常に低く、消費電力は極めて低いICを実現できる。具体的には、「1Gbpsあたりの消費電力は競合他社品の1/4と低い上に、高いブースト量と低いジッタを同時に実現できる」(同氏)という(図9)。

図9 図9 SiGeバイポーラCMOS製造技術
米ナショナル セミコンダクター社の最新SiGeバイポーラCMOS製造技術である。微細加工ルールは0.13μm。消費電力は競合他社の1/4と低い。さらに入力等価雑音が小さいため、ケーブル・イコライザの利得(ブースト量)を33dB以上高めることが可能になった。しかも、トータル・ジッタは競合他社品の1/2と小さい。
図10 図10 送信と受信が可能なコンフィギュラブルI/Oチップ
ケーブル・イコライザとケーブル・ドライバを1チップに集積した。このため映像信号の送信と受信の両方に対応できる。さらに、リターン・ロスを最小化するリターン・ロス・ネットワーク回路も集積している。

図11 図11 コンフィギュラブルI/Oチップで基板の共通化が可能に
放送機器では、入出力の構成が異なるさまざまな機器が存在する。従来は、それぞれに機器に向けて、プリント基板を開発する必要があった。しかし、コンフィギュラブルI/Oチップを利用すれば、1つのプリント基板を設計するだけでさまざまな放送機器に対応できるようになる。

 もう1つのチップは、コンフィギュラブルI/Oチップ「LMH0387」である。このチップは、イコライザとケーブル・ドライバを集積したものだ。つまり、1つのチップで、映像信号の送信と受信の両方を実行できる。さらに、リターン・ロスの最小化を図るリターン・ロス・ネットワーク回路を集積した点も特徴である(図10)。

 このチップを使えば、映像信号用I/Oカードの共通化が可能になる(図11)。さらに面積の都合上、複数のコネクタを用意できない場合でも、1つのコネクタを使って送信と受信の両方を実行できるようになる。さらに、リターン・ロス・ネットワーク回路が集積してあるため、リターン・ロスに関するSDI規格の規定を満足できずにプリント基板を何度も作り直すという事態を回避できる。


ナショナル セミコンダクターのSDI/業務用放送ビデオ・ソリューションの詳細は:

http://www.national.com/jp/interface/sdi/index.html



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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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