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「ミックスド・シグナルからミックスド・ドメインへ」――Tektronixがスペアナ搭載オシロを発表(1/2 ページ)

» 2011年08月31日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 Tektronixは2011年8月30日、高周波スペクトラムアナライザを搭載するオシロスコープの新製品群「MDO4000シリーズ」を発表した。「ここ20年で最も画期的なオシロスコープだ」(同社のオシロスコープ事業部でジェネラル・マネージャを務めるRoy Sigel氏)と主張する(図1)。


図1 新型オシロを発表するRoy Sigel氏 図1 新型オシロを発表するRoy Sigel氏 Tektronixのオシロスコープ事業部でジェネラル・マネージャを務めている。

 同社が「ミックスド・シグナル・オシロスコープ(MSO)」と呼んで販売している従来機「MSO4000Bシリーズ」を基に、その筐(きょう)体に高周波(RF)スペアナの専用モジュールを内蔵した機種である(図2)。アナログ信号とデジタル信号の入力をそれぞれ複数チャンネルずつ備え、両信号を時間領域で観測できる上に、シリアルインタフェースのプロトコル解析にも対応するというMSOの特徴をそのまま継承しつつ、RF信号を周波数領域で観測するというスペアナの機能も1台に取り込んだ。そのため同社はこの新製品群を「ミックスド・ドメイン・オシロスコープ(MDO)」と呼ぶ。

無線の爆発的な普及で設計課題が変化

図2 「MDO4000シリーズ」の外観(提供:Tektronix) 図2 「MDO4000シリーズ」の外観(提供:Tektronix) ミックスド・シグナル・オシロとして定評がある「MSO4000Bシリーズ」を元に、同サイズの筐体にスペアナの専用モジュールを内蔵した。筐体の奥行き15cmと薄い。

 Tektronixがこのミックスド・ドメイン・オシロを投入した背景は、電子機器の「設計課題の変化」にあるという。

 同社のSigel氏は次のように語る。「かつて真空管の時代、機器の中で扱う信号はほとんどがアナログだった。その後、1990年代から2000年代までは、単一の機器の中でアナログ信号とデジタル信号、それにシリアルインタフェースの信号を扱うようになり、その複雑な設計に対応するためにミックスド・シグナル・オシロが登場した。そして現在、無線アプリケーションの普及が進み、あらゆる種類の機器に無線機能が組み込まれるようになった。無線組み込み機器の出荷規模は2011年に10億台に達する見込みである。いまや、ZigBeeの無線モジュールは2.5米ドルで手に入る時代だ。組み込み機器の38%に無線機能が搭載されているというデータもあり、今後さらにこの数字は伸びる」という。

 こうした背景から同社は、「電子機器の設計に携わる現代の技術者が直面する最大の課題は、RF混在のデバッグだ」(Sigel氏)と判断し、それに対応すべく今回のMDOを開発した。

オシロ部とスペアナ部で時間相関がとれた観測が可能

 MDOの最大のメリットは、前述のミックスド・ドメインの各種信号を、互いの時間相関をとりながら観測できる点にある。別の言い方をすれば、アナログ信号とデジタル信号、シリアルインタフェースのプロトコル、そしてRF信号のすべてを同じ時間軸上で観測し、それぞれがどのように変化するかを追い掛けて、それらの信号の相互の影響を正確に把握することが可能だ。ディスプレイを上下の2画面に分割し、上側にオシロ部で取り込んだ時間軸の波形を表示し、下側にスペアナ部で捕捉した周波数領域のスペクトラムを表示する。

 もちろん従来も、既存のミックスド・シグナル・オシロのほかに単体のスペアナを用意すれば、一方の観測結果で他方にトリガーをかけるといった使い方は不可能ではなかった。ただし、Tektronixによれば、その場合は「まず複数の計測器を用意する手間が掛かる。さらに、そうして用意したオシロとスペアナ両者の時間相関がとれるようなトリガーを、ユーザー自身が設定する必要があった。両者の動作タイミングは異なっており、誤差があるので、この作業は簡単ではない。セットアップに1日、2日といった時間を要することもあった」という。

図3 RF信号が混在するシステムの挙動を1台で把握(提供:Tektronix) 図3 RF信号が混在するシステムの挙動を1台で把握(提供:Tektronix) PLL方式の周波数シンセサイザの挙動を評価する例である。チャンネル1は、VCOのイネーブル信号、チャンネル2はVCOの制御電圧、チャンネル3はマイコンからコマンドを受けるシリアルインタフェース(SPI)、チャンネル4はシンセサイザのRF出力である。これらの全チャンネルの挙動を、互いの時間相関をとりながら同時に観測できる。

 MDOを使えば、こうしたセットアップは一切不要である。ユーザーが特別な設定をしなくても、オシロ部で取り込んだ時間軸の波形と、スペアナ部で捕捉した周波数軸のスペクトラムは、時間相関がとれている。

 こうした特徴を最大限に生かせる用途を1つ紹介しよう。PLL(Phase Locked Loop)方式のRFシンセサイザの動作を1台で詳しく調べられるのだ(図3)。この用途では、オシロ部で、RFシンセサイザの主要な構成部品であるVCO(電圧制御型発振器)を起動するイネーブル信号と、VCOに周波数調整用に印加される制御電圧を、アナログ入力チャンネルを2つ使ってそれぞれ観測する。それと同時に、RFシンセサイザを制御するマイコンのシリアルインタフェースを流れる信号を、デジタル入力チャンネルを3つ使って取り込んで、そのプロトコルをリアルタイムに解析する。一方、スペアナ部では、RFシンセサイザの最終的な出力であるRF信号を観測する。

 そして、オシロ部でイネーブル信号の特定の状態や、シリアルインタフェースの特定のコマンドを検出したら、それをトリガーとしてスペアナ部の測定を止める。いったん測定を止めたら、ディスプレイの上側に表示された時間軸の画面上でマーカーを移動させると、下側にある周波数軸の画面に、そのマーカーが指し示す時刻のスペクトラムが表示される仕組みだ。PLLのロック時間を測定したり、RF出力がロック状態に到達するまでの挙動を観測したりすることが可能である。これにより、PLLを起動したり制御を加えたりした際にRF出力に生じる突発的なノイズも捉えられるという。

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