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SiC/GaNデバイスは離陸間近待望の次世代パワー半導体(2/2 ページ)

» 2011年10月25日 16時46分 公開
[Margery Conner,EDN]
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GaNデバイスは低耐圧品から実用化

 実用化という意味では、SiCよりもGaN材料を用いた半導体の方が進んでいる。ただし、その用途は低電圧領域で用いるRFパワートランジスタであった。GaNベースのRFデバイスを手掛けるメーカーは当初、サファイヤ基板上に成長させたGaNを用いて製造していたためコストが高くついていた。GaNがパワー半導体の材料として注目され始めたのは、シリコン基板上にGaNを成長させる技術が開発されて、低コスト化を実現しやすくなってからだ。とはいえ、初期のシリコン基板上に成長させたGaNから製造した素子の耐圧は全て100V以下だったため、その用途はもっぱら通信機器の電源向けに限られていた。

 GaNベースのパワー半導体は、SiCベースのものよりも高速のスイッチングが可能である。DC-DCコンバータに適用すればメガヘルツレベルの速度で動作させられるので、電源の小型化や高効率化を実現できる。International Rectifier(以下、IR)は、2010年初頭に出荷したDC-DCコンバータモジュール「iP2010」にGaN-HEMT(高電子移動度トランジスタ)を搭載したことにより、GaNパワー半導体を市場に出荷した世界初の企業となった。このGaN-HEMTは耐圧が20V〜40Vであり、モジュールのiP2010はPOL(Point of Load)コンバータへの適用を目指していた。IRのGaN-HEMTはノーマリーオン型のデバイスだが、同社はドライバICも組み込んだ上でモジュールを提供しているので設計者の目からはノーマリーオンであることを気にする必要はなくなっている。同社はGaN-HEMTのSi-MOSFETに対する優位性よりも、入力電圧範囲が7V〜13.2V、出力電圧範囲が0.6V〜5.5V、出力電流が30A、そしてスイッチング周波数が最高で3MHzといったDC-DCコンバータモジュールとしての性能をアピールしている。

 Efficient Power Conversion(EPC)も、「eGaN(enhanced-mode GaN)」というブランド名でGaNデバイスを展開している。EPCは2011年6月、ドレイン-ソース間電圧が200V、ゲートに5Vの電圧を印加したときのオン抵抗が最大で25mΩ、パルス電流が定格で60Aで、ノーマリーオフ型のGaN-FET「EPC2010」を発表した。モジュールで提供しているIRとは異なり、EPC2010はIC単体で入手することが可能である。

 EPC2010は、Si-MOSFETよりも高い特性を備えているものの、機器に組み込む場合にはさまざまな制約条件を考慮する必要がある。例えば、高いスイッチング周波数で利用する場合には、EPC2010の位置をはじめ電源回路の設計を検討しなければならない。また、狭い範囲のゲート電圧でしか動作しないこともSi-MOSFETと異なる点だ。オン状態を保証するためには4.5V以上の電圧を印加する必要であるが、最大動作電圧は6Vまでとなっている。DC-DCコンバータの動作環境で予測される電源の過渡的変化を考えると、1.5Vという動作電圧範囲は極めて狭い。また、閾(しきい)値電圧は、一般的なSi-MOSFETの2.5Vよりもかなり小さい1.4Vとなっている。このため、電圧の制御はより厳密に行わなければならない。EPCのCEO(最高経営責任者)を務めるAlex Lidow氏は、「GaN-FETにはボディダイオードが存在しないし、逆回復損失もない。これらの特性は、Si-MOSFETに対して性能面で有利に働く。しかし、GaN-FETをオン状態のままにすると、1.5V以上の順方向電圧降下が残るため、電源回路には適切なデッドタイムを設ける必要がある。こういった欠点は十分に克服できるが、注意を払っておかねばならない」と説明する。

図2 「eGaN」の効率を高める「LM5113」の特性 図2 「eGaN」の効率を高める「LM5113」の特性  LM5113を用いて動作させたeGaN(GaN-FET)の効率は、一般的なSi-MOSFETの効率よりも高い。

 EPCによるeGaNの市場投入に併せて次世代パワー半導体関連市場への参入を果たしたのがNational Semiconductor(2011年9月にTexas Instrumentsによる買収が完了)である。同社は2011年6月、高耐圧のDC-DCコンバータにおいてeGaNを効率良く駆動させることができるハーフブリッジ構成のゲートドライバIC「LM5113」を発表した(図2)。LM5113は、100Vまでのフローティングバイアス電圧に対応しており、ハイサイドとローサイドのMOSFETを駆動する回路を集積している。また、ハイサイドから出力するブートストラップ電圧を約5.25Vに調整する機能も備えている。この機能により、6Vというゲート電圧の最大値を超えることなくeGaNを駆動することができるのだ。さらに、スイッチングのターンオフ時とターンオン時の状態を調節できるようにシンク出力とソース出力を別々に備えている。0.5Ωという低インピーダンスのプルダウンパスにより、閾値電圧が低いeGaNに対しても高速で信頼できるターンオフを行えるようにしている。他にも、ハイサイドのブートストラップダイオードを集積しているので、部品点数を減らして省スペースの電源回路を実現することも可能だ。

Si-MOSFETとの組み合わせ

図3 IRが開発中の高耐圧GaNデバイスの構造 図3 IRが開発中の高耐圧GaNデバイスの構造 

 IRとEPCの両社は、耐圧が600VのGaNベースのスイッチング素子を2011年末までにリリースすると予告している。IRの新製品は、これまでDC-DCコンバータモジュール向けに製造してきたGaN-HEMTとは異なり、高耐圧のGaN HEMTと低電圧のSi-MOSFETをカスコード接続したものとなる(図3)。同社で新技術開発担当のバイスプレジデントを務めるTim McDonald氏は、「このような構造を採ることにより、ノーマリーオフ型のGaNスイッチング素子を容易に実現できるようになった」と語る。

 GaNパワー半導体のメーカーであるTransphormは、2011年2月に開催されたパワーエレクトロニクスの学会「Applied Power Electronics Conference」において初めて公式発表を行った。同社は2011年末までに、耐圧が600Vでオン抵抗が180mΩのGaNスイッチング素子を市場投入する計画である。また、GaN素子を量産する際には、シリコン基板とSiC基板の両方を使用するとしている。初期の量産では、GaNと結晶構造が近いSiC基板から成長させたGaNを用いて素子を製造する計画である。そして、SiC基板を用いて量産する際に発生したプロセスの課題を解決した後、シリコン基板上で成長させたGaNを用いた製造に移行する予定だ。また、すなわち高耐圧のGaN HEMTと低耐圧のSi-MOSFETをカスコード接続する、IRと同じような構成の製品を提供する方針だ。

 Transphormでマーケティング担当のバイスプレジデントを務めるCarl Blake氏は、「我々はGaN材料を用いてノーマリーオフ型の素子を製造するときに、ゲート電圧を最大6Vに制限した。この制限は、高耐圧のGaNスイッチング素子の実用化を制約する深刻な問題となる。そこで、電流コントローラとして実績あるSi-MOSFETと耐圧を向上したGaNスイッチング素子、これら2つのチップを1パッケージに組み込むことにした」と述べている。

 EPCも耐圧600VのeGaNをリリースする方針を明らかにしている。さらに、「GaNパワー半導体の耐圧をさらに向上することは可能だ。より高い耐圧を実現すれば、GaNはSiCの直接のライバルになるかもしれない。なぜなら、SiCの最大の課題であるコストの低減では、GaNの方が有利だからだ」(EPCのLidow氏)という。

 これらの取り組みがあるとはいえ、実際にGaNデバイスを量産品に利用しているのは、携帯電話基地局向けのパワーアンプに限られる。その代表的な用途の1つが、エンベロープトラッキング方式を用いたパワーアンプである。Lidow氏は、「この方式では、入力信号の振幅に応じてGaNベースのRFトランジスタに印加する電源電圧を制御する。その値は、出力信号の生成に必要な値より数V高くなるようにする。従来のパワーアンプは、一定の電源電圧をRFトランジスタに印加して出力信号を生成していたので、入力信号の振幅が小さいときにはエネルギー効率が低くなるという問題があった」と説明する。

 同氏は、この他のGaNデバイスの有望な用途として太陽光発電システムのマイクロインバータ(関連記事)を挙げている。電力容量が250W程度のマイクロインバータは、住宅向け以外に事業者向けでも需要がある。1ユニット当たりの電力容量が小さいマイクロインバータは、現時点において効率に優れる3kWクラスのパワーコンディショナと競合関係にある。スイッチング周波数や電力容量の向上を同時に実現したいというマイクロインバータにとって、GaNスイッチング素子は魅力ある選択肢となっている。

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