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2012年期待のエレクトロニクス技術(省エネ編)EDN/EE Times編集部が展望する(3/4 ページ)

» 2012年01月24日 16時58分 公開
[EDN]

胎動する“超”省電力無線

 「高齢化が進む中、より多くの医療の選択肢が必要だ」、「ソーシャルネットワーキングが盛んになっているから、友人とコミュニケーションするための創造的な新しい方法はないだろうか」、「ホームオートメーションやセキュリティは市場が成熟期に入っているので、イノベーションが求められている」、「もっと運動をしたいが、毎日欠かさずできるようにモチベーションを上げることはできないだろうか」……。これらの要求に応えるのに必須の技術となるのが省電力無線である。

 これまで無線通信技術の中では重視されずにまま子扱いだった省電力無線が、今ではさまざまなところで利用されるようになっている。特にAppleの「iPhone 4S」がBluetooth 4.0に対応したことにより、省電力無線がよりいっそう注目を集めるのは間違いない。

 しかし一言で省電力無線と言っても、実際には2つのカテゴリーに分かれる。一つは、ZigBee(IEEE 802.15.4)やBluetooth 4.0に代表される通常の省電力無線である。もう一つは、Bluetooth SmartやANTなどの“超”省電力無線だ。前者の省電力無線は平均消費電流がmA単位である。これに対し、後者の省電力無線は平均消費電流がμA単位であり、コイン電池でも長時間の動作が可能だ。これが超省電力無線と呼ばれるゆえんである。

 通常の省電力無線は、スマートメーター市場などでの利用が進んでいる。例えばZigBeeの場合、2010年の1年間で3600万個以上の通信モジュール/チップセットが出荷されたという。2012年を展望するのであれば、既に市場導入が広がっている通常の省電力無線ではなく、新たな無線通信市場の開拓の原動力として期待されている超省電力無線に注目すべきだろう。

 Dynastream Innovations の一部門であるANT Wirelessが開発したANTとANT+は、スポーツ機器やフィットネス機器などで広く利用されている超省電力無線だ。既にスマートフォンで利用可能な技術になっており、Sony Ericsson Mobile Communicationsの数機種に採用されている。調査会社のIMS Researchは、現在までに累計で1600万個のANT/ANT+用ICが出荷されたと報告している。また、2010年から2015年にかけて、スポーツ、フィットネス、ヘルスケア分野で利用されるセンサーデバイス向けのANT/ANT+用ICは市場規模が3倍になると予測している。これは後述するBluetooth Smartの超省電力無線市場への参入も考慮した数字だ。

 超省電力無線市場を注視しているのがBluetooth SIGである。同団体が策定したBluetooth 4.0に含まれる低消費電力の仕様は、超省電力無線市場を席巻するかもしれない。このBluetooth Low Energyという名称の仕様は、最近ではBluetooth Smartと呼ばれている。現時点でBluetooth Smartは、搭載機器や組み込みソフトウェアの開発に必要なプロファイルの整備が、ANTなどの先行する超省電力無線と比べて遅れをとっている。とはいえ、既に無数の機器に搭載されているBluetoothが持つ充実した設計エコシステムがあれば、その遅れを挽回するのはたやすいだろう。Bluetooth Smartの導入に向けた取り組みも着実に進んでおり、医療機器やヘルスケア機器、3Dテレビと専用メガネの無線通信などに使われ始めている。Bluetooth Smartにより、多くのイノベーションが生まれることを期待したい。

 Nordic Semiconductorは、ANT、Bluetooth Smartに加えて、自社開発の2.4GHz帯と1GHz以下のISM(Industry Science Medical)バンドを用いる超省電力無線向けにICを供給している(図2)。超省電力無線分野のパイオニアと言えるNordicは、何世代にもわたって超省電力無線対応ICを開発しており、同市場における牙城を固めつつあるように見える。

図2 Nordic Semiconductorが自社開発した2.4GHz帯の超省電力無線用ICを搭載する製品 図2 Nordic Semiconductorが自社開発した2.4GHz帯の超省電力無線用ICを搭載する製品 Emotivの脳波コントローラ「EPOC」(a)や、Discus Dental(2010年10月にPhilipsが買収)のコードレス電動歯ブラシ「ZEN Cordless Prophy」(b)などに採用されている。

 Dialog Semiconductorは、1.9GHz帯を利用するデジタルコードレス電話機用の無線通信規格DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)を、超省電力無線市場で展開する方針である。DECTは、もともと業務用電話機のために開発された古い規格だ(筆者は、1990年代後半に研究所でDECT対応機器の試作品を見た記憶がある)。通信波に専用スペクトルを使用するので他の無線通信との干渉が少なく、スター型、メッシュ型、ツリー型といったネットワーク構成にも対応している。また、音声通信とデータ通信の両方を扱うこともできる。DECTを超省電力無線として運用するには、消費電力が極めて少ない「ディープスリープ」モードを対応ICで利用できるように高速スイッチを組み込むだけで良い。筆者は、この技術に多くの可能性があると考えており、今後の展開に期待している。

(Janine Love:Editor, EE Times' RF/Microwave Designline)

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