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磁気/電気誘導式エンコーダの動作原理と特徴 〜移動/回転を磁界変化で捉える〜エンコーダの基礎から応用(3)(3/3 ページ)

» 2012年05月28日 16時00分 公開
[堀田智章,アバゴ・テクノロジー ]
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さらに細かく分類できる「磁気/電気誘導式エンコーダ」

 永久磁石を使用した磁石型と、誘導コイルを使用したコイル型も、それぞれ幾つかの方式に細かく分類することができます。具体的には、永久磁石を使用した磁石型は、「永久磁石とホール素子」、「永久磁石とMR素子」、「永久磁石と磁歪線」というタイプに、一方の誘導コイルを使用したコイル型は、「電磁誘導コイルを組み合わせて利用したレゾルバ」と、「電磁誘導コイルと高透磁率材料を組み合わせたVR型レゾルバ」というタイプに分かれます。最後に、それぞれの方式の動作原理の概略や特徴を紹介しましょう。

永久磁石とホール素子

 磁石の磁束密度/方向が変化すると、半導体素子の内部を流れる電流の磁界に外部からの磁界が作用してある方向へローレンツ力が発生します。ホール素子は、その結果発生する逆起電圧を出力するデバイスです。永久磁石とホール素子を使ったエンコーダのセンサー部分はシンプルで、1極以上の永久磁石とホール素子だけで構成します。そのため、動作原理上、小型化、薄型化できますが、磁界変化による起電圧は一般に小さいため、温度変動によって素子特性が大きく変化し、その結果出力特性も変化しやすい側面もあります。

 ホール素子は数種類の素子組成が利用されています。例えば、広く使用されている「InSb(アンチモン化インジウム)」は出力電圧は大きい反面、温度による特性変化も大きくなってしまいます。「GaAs(ガリウムヒ素)」は半導体材料として広く利用されており、温度による特性変化が小さく安定していますが、出力電圧も小さくなります。

 一般に永久磁石とホール素子を使ったエンコーダは、検出できる磁界強度の範囲は広く、磁石の種類も豊富に選択出来ます。ただし、出力電圧をそのまま使用できるほど大きな出力は得られないため、アンプやコンパレータまたは、A-Dコンバータ、温度補正回路などで、出力にさまざまな信号処理を施す必要があります。そのためセンサー部分はシンプルでも、後段の処理回路をしっかりと作り込む必要があります。

 当社(アバゴ・テクノロジー)も、ホール素子を使用した磁気式ロータリー・エンコーダを提供しています。回転を検出するホール素子とアンプ、コンパレータ、補正回路、シリアル出力回路などをチップ化したタイプや、このチップと磁石を1つのパッケージに納めて取り付けを容易にしたタイプなどがあります。ホール素子と周辺回路を1チップ化したことで、温度や機械的な変動に対する出力信号の変動を抑えられ、従来品よりも取り付けやすさが格段に向上しています。

永久磁石とMR素子

 MR素子の「MR」とはMagnetic Resistance(磁気抵抗)の略です。ホール素子と原理は似ていますが、大きな違いは磁界強度によって抵抗値が変化するMR素子は、磁界の向き(磁極方向)を検出できません。また、磁界が弱いときの抵抗変化率が小さいため、その特性改善のためにバイアス磁石を加えて抵抗変化率を大きくする工夫をします。

 MR素子もホール素子と同様に、出力はそのまま使用できるほど大きくないため、後段の処理回路が必要です。永久磁石とMR素子を組み合わせたエンコーダを使うユーザーは、温度変化やセンサーと磁石の間隔の変化といった機械的な位置変化による特性変動に気を配る必要があります。

永久磁石と磁歪線

一般に「磁歪計(じわいけい)」と呼ばれている変位センサーです。構造は単純で、非接触、完全密閉という状況で利用できるため、各種プラントの溶剤タンクの残量検出や水中/油中の変位計測、高真空環境下での変位計測に使われています。

 磁歪線(主にNi合金線)に電流パルスを流すと、磁歪線の円周方向に磁界が発生します。この状態で磁歪線に永久磁石を近づけると、磁歪線の円周方向の磁界に永久磁石の磁界が加わり、元の磁界とは違う方向の合成磁界が発生します。この結果、磁歪線をひねる方向に物理的なねじり力が発生しますが、電流はパルス状に加えられているので、ねじりは直ぐに解消されて元の状態に戻ります。その結果、磁石の位置から磁歪線のひずみ振動が振動検出部へ届く時間と、磁歪線に加えた時のパルス信号の時間を比較演算することで、磁歪線の端部から永久磁石までの距離を算出することができます。

電磁誘導コイルを組み合わせたレゾルバ

 レゾルバとは、2組のコイルを組み合わせた角度変位検出センサーのこと。基本原理は、電磁誘導を利用したトランスと同じです。例えば、回転部分と回転しない部分にそれぞれ同じ巻き数のコイルがあり、回転部分のコイルに交流電圧を加えると、固定側のコイルに同じ交流電圧が発生します。これはトランスと同じ現象です。

 ここで、回転部分のコイルを回転させながら交流電圧を加えると、回転するコイルと回転しないコイルの距離が変化しますので、回転しないコイルに周期は同じですが振幅が変化した交流電圧が発生します。この電圧変化を処理することで、回転角度位置や回転速度を検出することができます。ただし、1組のコイルだけでは回転方向を読み取る事が出来ないので、通常は回転しない側にもう1つのコイルを追加します。このコイルの配置角度を90度変えることで、回転しないコイル側には位相が90度ずれた波形(サイン波とコサイン波)が発生しますので、これらから三角関数を使って計算することで角度を算出できます。

 電磁誘導コイルを組み合わせたレゾルバは、検出部分がコイルだけですので非常に簡単に設置できます。検出部は非接触であることから環境的に劣悪な状況でも使用できます。ただし、出力電圧を機器制御用信号に変えるための処理回路が必須です。アンプ回路やコンパレータ回路、周波数-電圧(F-V)コンバータやA-Dコンバータ、温度補正回路などが必要となります。これらの機能を1チップ化した品種も販売されています。

電磁誘導コイルと高透磁率材料を組み合わせたVR型レゾルバ

 前の項目で述べたレゾルバは、基本的に電磁誘導コイルを組み合わせて、振幅の変化を検出するデバイスでした。そのため、回転する物体に誘導コイル(励時コイル)を配置する場合、ブラシ付きモーターで使用されているようにブラシを使った給電方法が採用されます。その結果、検出部分は接触していないのですが、給電部分がブラシで接触しているため、回転速度や使用環境、耐ノイズ性、耐久性などに影響が出てくることがあります。

 その解決策として考え出されたのが、「VR(Variable Reactance)型」で、回転部分のコイルと固定部分のコイルを一緒に巻きます(励時コイルと検出コイルを一緒に巻く)。2つのコイルの位置に磁路長の変化がなければ、励時コイルに印加した交流電圧はそのまま検出コイルに誘導されます。ところが、高透磁率材料で形成したおむすび型のローターを回転部分に取り付けた状態で、この回転部が変化すると、おむすび型の形状により、コイルとローター間のギャップが変化します。このギャップ変化に伴って磁路長が変化しますので、回転を交流電圧の振幅の変化として取り出すことができます。


Profile

堀田智章(ほった ともあき)

1999年に日本国内のエンコーダメーカーに開発として入社し、エンコーダの機構設計を担当する。その後、小型エンコーダの機構設計および、電気設計に携わる。開発に携わったエンコーダ製品の量産立ち上げに向けた生産技術も担当した。2007年にアバゴ・テクノロジーに転職。フィールド・アプリケーション・エンジニアとして全国各地の顧客へ提案営業を行うとともに、エンコーダを活用するための技術アドバイスや図面作成、新製品の販促のための動作デモ機や販促キットの作成なども手掛ける。



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