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4Gの時代はもう来たのか、モバイルで1Gビット/秒実現へ無線通信技術(4/4 ページ)

» 2012年07月03日 09時30分 公開
[Janine Love,EDN]
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4Gシステム構築の前に横たわる壁とは

 4Gのシステム構築には多くの設計課題が残っており、その中には、マルチチャネルに対する帯域の他、アップリンクとダウンリンクそれぞれの伝送スキーム、周波数領域と時間領域での伝送モード、電池寿命の管理、2Gや3Gの技術との後方互換性などへの対処策が含まれる。限られた帯域幅への対処としてキャリアアグリゲーションやMIMOが開発されたが、同時に、これらの技術が新たな課題をもたらしている。

 全世界で合わせて20ものLTEバンドが利用される可能性が出てくるとともに、共存性という問題が生じる。これらのバンドが共存することになると、多くの問題が起きてしまう。ルネサス モバイルのSchlett氏は、例として、基板サイズやアンテナ設計、感度、設計変更自由度、コストなどの問題を挙げた。これらの課題に向けてルネサス モバイルは、LTEの7バンドとHSPAの5バンド、GSMの4バンドに対応するRFプラットフォームを設計した。こうした製品の登場によって、設計シミュレーションツールやロバストな仮想プロトタイピングを使って、プロトコルスタックとモデムのリアルタイムの相互作用を解析することの必要性が、あらためて示されている。

 キャリアアグリゲーションの開発では、コントロールチャネルやセル境界、電力管理、妨害信号(スプリアス)管理、セルフブロッキングなどのコントロールに注意を要する。AgilentのSuh氏は、「MIMOの設計では、特に端末側での干渉問題に注意が必要だ」と指摘する。ユーザー端末側に関しては、複数規格に対応できる無線回路が検討されつつある。これは、1チップで複数の無線方式をサポートすることにより、RF部品数を削減しようとするものだ。

専用ツールの利用が望ましい

 さらにSuh氏は、「4Gの設計には前世代の設計とは異なる多くの複雑な検討課題があり、プロトタイプに移行するまでに対処すべき課題が多い」と述べる。同氏は、Agilentの「SystemVue」のようなツールを利用すれば、仕様が確定する以前に、4G対応ユーザー機器の設計課題への対処策を得ることが可能だと説明する。このツールでは電池消費試験のような機能試験が可能であり、その結果をもとに、端末のスリープやスタンバイ、通話といったモードをうまく使って電池問題の対処策を得ることができるという。

 消費電力の課題は放熱の問題にもつながる。4G基幹部分にかかわる課題の多くは、RFセクションにマルチCPUコアを必要とし、ベースバンド用チップの熱を管理する必要性から生じる。消費電力問題に対応するため、新しいプロセス技術を採用しようとする設計者もいるだろう。例えば、現在のプロセス技術は28nmであるが、20nmが見えてきている。Willems氏によれば、新たなアーキテクチャの設計においては、従来のような表計算ベースの解析は不十分であることが分かるという。なぜなら、もはや動的なユースケースシナリオを得ることができないからだ。「あるシナリオが発生したらどうなるか」というwhat-ifシナリオをシミュレーション分析することが不可欠なのだ。

 Willems氏は、「ハードウェアとソフトウェアを開発するエンジニアは、極力早い時期にプロトタイピングに移行しようとしており、3G設計でシステムの進展とともに効果が確かめられた仮想プロトタイピングが、今では主流になっている」と述べる。また、高性能なシミュレーションもモデムのアルゴリズムの設計に必須であり、それにより、標準規格に適合する代替案の開発が可能になる。SynopsysはIPの他、アーキテクチャからチップ実装までを扱うシミュレーションとプロトタイピングのツールを提供中だ(図4)。

図4 Synopsysの設計ソフトウェア 同社のLTE-A物理層シミュレーションライブラリは、3GPP標準が規定する各種テストをシミュレーション可能である。

LTE-Aの先はどうなる?

 いまだ数多くの開発課題が残っているが、真の4Gパフォーマンスを実現する道筋は見えている。スマートフォンやタブレットの人気が高まるにつれて改善を求める市場要求が非常に強くなっている。当面、無線業界はHSPA+の改善や、LTEのLTE-Aへの移行に注力しつつ、IMT-Advancedのゴールを目指して着実に進んでいくだろう。

 8×8MIMOに見られるように理論性能と実現可能な性能の間には隔たりがあるが、今日の無線ネットワークは前世代よりもはるかに高性能になった。次の2年間でのドラマチックな改善を期待しよう。周波数帯域幅の不足に対しては、マクロセルとマイクロセルを組み合わせて設置するヘテロジニアスネットワークへの関心が続くだろう。

 とはいえ、連続的な周波数帯域が利用可能になるまでは、次世代モバイルフォンでの伝送速度の高速化、より長い電池寿命の実現を目指して、一層創造的なアプローチが続いていくものと期待できる。


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