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ハード志向のモノづくり復権へ、新奇な設計手法を提案するWired, Weird(1/3 ページ)

電子システムの設計といえば、かつてはハードが中心だった。設計作業の重点は、回路基板そのものにあった。今ではマイコンやFPGAの活用が進み、すっかりソフト志向になっている。PC上でファームやロジックを設計し、デバッグまで完結する。非常に便利だ。半面、モノづくりの実感を持てる機会が減ってはいないだろうか。

» 2012年07月04日 09時30分 公開
[山平 豊内外テック]

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 最近のモノづくりはすっかりソフトウェア志向になった。簡単な仕様のボードでもマイコンを採用し、その周辺に実世界との入出力を追加して作る場合が多くなっている。設計作業の重点は、ハードウェア設計からファームウェア設計に移った。

 FPGAの活用も進んでいる。FPGAの周辺に、入出力を組み合わせて回路を設計する機会が増えた。設計作業の重点は、やはりボードではなく、FPGAに実装するロジック回路の方にある。

 これらの設計手法は、パソコンを使ってファームウェアやロジックを設計し、その仮想環境でシミュレーションとデバッグまでを完結させることが可能だ。ボードが組み上がった後でも、ソフトウェアや設計データを手直しすれば仕様の変更に対応できることが多い。ハードウェアだけの設計手法に比べて、とても便利になったと感じる。

 その半面、ハードウェアの設計者はモノづくりの実感を持てる機会が少なくなり、自分の力を発揮できる場所が減ってしまったのではないかと思う。もっとハードウェア設計者の意欲を駆り立てる設計手法がないだろうか?

 そこで筆者は、ソフトウェア志向の手法の良さを取り込みつつも、簡単な機能の製品をハードウェアだけで作り上げられる“新奇”な手法を考案した。「2端子機能部品」と呼ぶコンセプトだ。

 単機能を備える2端子の小型基板を設計・製作し、機能が異なるバリエーションをとりそろえておく。それらを複数つなぎ合わせることで、求められる仕様や機能を実現するという手法である。

 複雑な仕様や高度な機能が求められる製品には適用できないが、簡素な製品であれば、短い設計期間で実現できる上、顧客が求める仕様に変更があった場合でも、簡単かつ手早くそれに対応することが可能になる。どうだろう、興味を持っていただけただろうか? 詳しく説明しよう。

2端子機能部品とは?

 まず、2端子機能部品の実態について説明する。概念としては、その名の通り、「端子が2個」だけしかない「単機能」の部品である。機能としては、例えば発振器やタイマー、ラッチ、アンプなどが挙げられる。

 これら2端子機能部品の実態は、受動部品や半導体素子を組み合わせた電子回路で、小型基板に実装する。その小型基板を「部品」として使い、複数を簡単につないで機能を拡張できるように工夫した点に大きな特徴がある。具体的には、各部品は電源専用の端子を持たず、負荷から微小な電流を得て動力源とし、特定の動作を実行する。

 機能の例として挙げたもの以外にも、抵抗やコンデンサ、インダクタのような受動部品や、ダイオードやLEDのような半導体素子も、2端子機能部品の一種として利用できる。これらはもともと端子が2個だけしかなく、例えば抵抗であれば電流の流れを制限するというように、「単機能」を備えた部品だ。

 2端子機能部品の活用イメージを具体的につかんでいただくため、簡単な作品例を紹介しよう。図1は、30秒タイマー回路である。青色の押しボタンスイッチを押すと、赤色LEDが約30秒間にわたって点滅するというものだ。2端子機能部品を2つ使って実現した。発振器とタイマーである。

図1 新奇コンセプト「2端子機能部品」の回路例 図1 新奇コンセプト「2端子機能部品」の回路例 青色のボタンを押すと、30秒間にわたって赤色LEDが点滅する。「タイマー」と「発振器」という2つの2端子機能部品を使って構成した。(クリックで画像を拡大)

 図1の左下側にある小型基板が発振器で、点滅の周期を作り出す。中央上側の小型基板がタイマーで、およそ30秒の時間を計測する役割を果たしている。ご覧の通り、2個の小型基板は、いずれも端子が2個しかない。

 この作品の回路全体はどう接続されているのだろうか? 図を見ながら追ってみよう。[電池のプラス端子]→[LED]→[抵抗]→[発振器]→[タイマー]→[電池のマイナス端子]という順番に、直列につながっている。これだけで、30秒間にわたってLEDを点滅させるという複合的な機能を簡単に構成できた。

手早く設計・製作、仕様変更も柔軟

 このような2端子機能部品のバリエーションをあらかじめ設計・製作しておき、それらを組み合わせるという手法を使えば、簡単な製品なら短期間で実現できるという効果がある。バリエーションとしては、機能に加えて、動作時間や駆動能力などのパラメータが異なるものを準備しておく。

 この設計手法のもう1つの狙いは、製品の納期を短縮することだ。特に、少量多品種型で、顧客ごとに個別の仕様に応じる形態の製品に向く。具体的には次のように適用する。あらかじめ、想定する製品の仕様に合わせて2端子機能部品を準備しておく。次に、製品を据え付ける現場に出向いて仮接続して、動作を確かめる。これで顧客の希望を確認できる。

 後は、その仕様に応じた2端子機能部品を設計すれば、製品そのものの設計が完了する。残る作業は、最終的な仕様に沿った2端子部品を製作し、再び現場でそれらを接続するだけだ。これで、顧客の要求に合った製品を納品できる。顧客の求める仕様に変更があっても、2端子機能部品をその仕様に応じたものに交換するだけで、簡単に対応可能である。

 この手法を採用すると、設計作業の重点は次のようになる。つまり、顧客の仕様を分析して、新たな要件に出くわしたらそれを2端子機能部品に落とし込めないかどうか検討し、2端子機能部品化できる回路と基板を新たに設計することが重要である。顧客の仕様の中で、2端子機能部品では対応できない残りの部分だけを、旧来の手法で個別に設計する。

 こうすれば、設計や製造の時間を短縮できる。新規仕様に対応するための設計作業と、2端子機能部品を組み合わせる作業は、並行して進めることができるので、製品の納期はほぼ新規仕様の設計・製造作業で決まる。最終目標は、いろいろな仕様に合わせて2端子機能部品を準備しておき、それらを組み合わせるだけで製品を実現できるようにすることだ。

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