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大切なことは(全部じゃないけどある程度)ピン情報が教えてくれる英文データシートを“読まずに”活用するコツ(3)(2/2 ページ)

» 2012年08月06日 09時30分 公開
[赤羽 一馬,マキシム・ジャパン]
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眠くならないように、まず分かるところから

 さあ、次に見るべきは、このICが内蔵するDC-DCコンバータ回路の構造……といきたいところですが、その前にまず、このICのイネーブルを外部からどうやって制御するかを見ていきましょう。だって、分かりやすいところから把握していった方が、眠くならないですからね。

 このICのイネーブル制御は、ピンの名称から読み取れる通り、「ON /  ̄OFF」のピンに割り当てられています(ここで、OFFの手前にある「  ̄ 」は、負論理を示すオーバーバーです。実際のデータシートでは、OFFの上にありますが、ここではWeb表現の制約からこうしました)。Pin Descriptionの記述には、親切なことに次のように書いてあります。

Pull ON /  ̄OFF low to put the device in shutdown mode. Drive ON /  ̄OFF high for normal operation.

 ここでは、「low」「high」というキーワードに着目し、ON /  ̄OFFピンのこれら2つの状態のうちどちらがシャットダウンでどちらが通常動作なのかが分かればOKですね。英文の1つ目にはlowとshutdownという単語が並び、2つ目にはhighとnormal operationと書かれているので、これは簡単に分かります。ON /  ̄OFFピンの論理レベルをlowにすればシャットダウン、highにすれば通常動作ということです。

 Pin Descriptionの表を眺めると、ロジック制御用のピンはこれだけで、他にはなさそうです。後は、残る信号系のピンについて見ていきましょう。「BST」、「VD」、「LX」の各ピンは、それぞれ機能と必要な外付け部品がごく短い英文で記述されているので、問題なく読み取れると思います。例えばBSTピンの説明は下記の通りです。機能としては昇圧用コンデンサの接続端子であり、外付け部品はLXピンとの間に0.1μFのセラミックコンデンサを接続せよとのこと。

Boost Capacitor Connection. Connect a 0.1μF ceramic capacitor from BST to LX.

 最後は「FB」ピンで、機能としては出力検出のフィードバック接続用端子ですね。このピンは、説明が少し細かく(つまり長い英文で)書かれています。

For fixed output voltage (MAX5035A, MAX5035B, MAX5035C), connect FB to VOUT. For adjustable output voltage (MAX5035D, MAX5035E), use an external resistive voltage-divider to set VOUT. VFB regulating set point is 1.22V.

 これを見ると、どうやらこのICは、「MAX5035」という品名の後に付くサフィックス(接尾語)ごとに出力電圧が違っているようです。つまり、「MAX5035A」と「同B」、「同C」の3つは出力電圧が固定の品種で、FBピンは単純に出力電圧(VOUT)に接続すればよい。「MAX5035D」と「同E」の2つは可変出力品で、抵抗分圧器を外付けしてVOUTの値を調整できる。このように説明されています。

で、A/B/Cは何が違うの?

 さて、MAX5035A/B/Cの3品種ですが、Pin Descriptionの説明によれば、VOUT設定用の外付け部品は不要のようです。それは良かった……で、3品種の違いは何? という疑問が自然に湧きますよね。

 これを確認するのに一番手っ取り早いのは、Ordering Information(発注情報)の項目です。通常はデータシートの最初のページか、そうでなければ最後のページ、あるいはその両方にまたがって掲載されています。MAX5035の場合は3つ目のパターンで、最初のページに途中まで掲載があり、残りが最後のページ(厳密には、PDFの最後はデータシートの来歴情報のページなので、その手前です)に続いています。品名のサフィックスごとに出力電圧と動作温度範囲、パッケージが異なる品種が、ずらっと記載されていますね。

発注情報の記載例 発注情報の記載例 MAX5035の発注情報(Ordering Information)です。品名がずらりと並んでおり、品種ごとの特性の違いが一覧表で確認できるようになっています。ただし、落とし穴もあるのでご注意を! (クリックで画像を拡大します)

 ただ、実はここに、見過ごしがちな落とし穴があるので注意してください。果たして各品種の違いは、このOrdering Informationに示されている点だけなのか? これを、データシートに多くのページを割いて掲載されているElectrical Characteristics(電気的特性)の項目を見て確かめる必要があります。

 例えばこのMAX5035の例で確認してみると……あらら、Input Voltage Range(入力電圧範囲)がA/B品は7.5Vなのに対し、C品は15Vになっています。危ない、危ない。これでは、設計仕様によっては、このICは検討の“対象外”になってしまいますね。

 こうしたサフィックスによる品種の違いは、ほとんどのデータシートでは分かりやすい一覧表として記載されています。しかしこの例のように、まれにではありますが、そうした一覧表に示されていない品種ごとの違いが隠れていることもありますので、ご注意ください。

 残ったMAX5035D/Eの2品種についても、違いは何か確かめてみましょう。Pin Descriptionの説明ではフィードバック電圧(VFB)が1.22Vと同じですし、Ordering Informationの一覧表からも両者の差異は全く見えません。やはり、Electrical Characteristicsをチェックする必要がありそうです。

 よく見てみると、消費電流(Quiescent Supply Current)がD品とE品で違います。ただ、これは誤差といえるほど小さな違いです。他には……あった! E品のみで規定されている「ON /  ̄OFF Input-Voltage Threshold」という項目が見つかりました。きっとこの仕様がD品と異なっているがために、このE品が作られたのだと推察することができます。



 今回はここまでです。ピン配置・ピン機能の情報を軸に、長々とした英文を読み込むことなく、その半導体製品に必要な外付け部品や、品種のバリエーションを把握することができたと思います。

Profile

赤羽 一馬(あかばね かずま)

1995年に日系半導体メーカーに入社。5年間にわたって、アナログ技術のサポート/マーケティングに従事した。2000年に外資系アナログ半導体メーカーのマキシム・ジャパンに転職。現在は、フィールドアプリケーション担当の技術スタッフ部門でシニアメンバーを務めている。



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