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電池動作機器の電源オンを確実にするDesign Ideas パワー関連と電源

2個のトランジスタによるラッチが、電源オンの押しボタンスイッチとして動作する回路を紹介する。これによって、電池で動作する携帯機器の電源オンが確実になる。

» 2012年12月28日 10時55分 公開
[Eugene Palatnik,SIMS-BCI]

 図1は、電池動作機器でよく使われる電源オン/オフ回路の例である。pチャンネルMOSFETであるQ1が電源のスイッチとして動作する。電源オンのボタンであるS1を押すと、Q1のゲート電位が低下する。Q1がオンに転じるので、電池の出力電圧がDC-DCコンバーターに入力される。


図1 よく使われる電源オン/オフ回路
電源オン用のボタン・スイッチをある程度長く押し続けないと、電源が投入されないことがある。

 電池の出力電圧によって、DC-DCコンバーターは電圧を高く、あるいは低くする。いずれにせよ、マイクロコントローラーに電源電圧VCCを供給する。マイクロコントローラーは電源投入のソフトウエア・シーケンスを経て、汎用入出力ピン(I/Oピン)の1つを論理レベル1に設定する。するとnpnトランジスタQ2が飽和し、電源の投入状態が「確定」する。その後、マイクロコントローラーは電源をオフにする。すなわちマイクロコントローラーはI/Oピンの出力を論理レベル0に変化させる。するとトランジスタQ1はオフ状態に戻る。

 この回路は簡単で信頼性が高い。しかし重大な欠点がある。通常、DC-DCコンバーターの出力電圧が安定になるまでには、何分の1秒かを要する。それからマイクロコントローラーのリセット・パルスが50ms〜200ms程度続く。リセット・パルスのリリース後、マイクロコントローラーは「ハウスキーピング」スタートアップ・コードを実施する必要がある。マイクロコントローラーがI/Oピンを論理レベル1に設定する前にである。この遅延時間は、携帯型機器のユーザーにとって使いづらい。電源オンのボタンを十分長い時間にわたって押し続けないと、電源が入らないからだ。

 図2は、こういった不安定さを取り除く回路である。この回路には、2個のトランジスタによる簡単なラッチを組み込んでいる。このラッチが、電源オンの押しボタン・スイッチへの入力をオン状態へと切り換える。図1と同様、pチャンネルMOSFETであるQ1は電源のスイッチとして機能する。

図2 ラッチを組み込んだ電源オン/オフ回路
電源オン用のボタンを押すと、ラッチがその状態を保つ。

 電源オン用のボタンS1を押すと、npnトランジスタQ4が飽和状態になる。Q4のコレクター電流がR1およびpnpトランジスタQ3のベース‐エミッター接合を通じて流れる。このためQ3が飽和状態になる。Q3がQ4のベース‐エミッター接合に電流の一部を転送し、ラッチ動作を完了させる。

 この時点でQ3とQ4の両方が飽和している。Q1のゲート電圧は、Q3のベース‐エミッター間電圧とQ4の飽和電圧によって決まる。この電圧は約0.9Vである。マイクロコントローラーは、ラッチの状態を確認する必要はない。電源が投入されてハウスキーピング・スタートアップ・コードを完了した時点で、I/Oピンを論理レベル0にする。

 後になってマイクロコントローラーが電源をオフにすると決めた場合、I/Oピンを論理レベル1に変化させてから動作を停止する。Q2がQ4をオフに転じ、ラッチを最初のオフ状態にリセットする。R4はQ3の等価入力インピーダンスを下げる働きをする。

 この回路は、不要な電磁波や静電気放電に対する耐性を向上させる。すなわち強い電磁界が加わっても回路がオンしないようにしている。コンデンサーC1と抵抗R5は、押しボタンから静電気放電が入ってきたときにトランジスタQ4とQ2を保護する。

 携帯型機器の一部は、過放電検出回路を備えている。通常、この回路には基準電圧を備えた電圧比較器を使う。電池の電圧がしきい値を割り込んだ場合に、比較器(通常はオープン・ドレイン型)の出力が低レベルに切り換わる。このタイプの回路を使っている場合は、比較器のオープン・ドレイン出力をQ2と並列に接続できる。こうして、電池の電圧が低すぎてラッチがオンしてしまうのを防ぐ。


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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。

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