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特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

メッシュネットワーク技術「TSCH」とは産業用IoTで注目を集める(2/5 ページ)

» 2016年03月28日 11時30分 公開

WSNにおける一般的なアプローチ

 さまざまなWSNがこうした問題にどのように対応するのかを理解するため、いくつかのワイヤレス・メッシュ・ネットワークでよく使われる手法が、周波数ダイバーシティーと低消費電力の両立の面で、実際どうなっているのかみていきましょう。

 シングルチャンネルWSNとチャネンルアジリティー:単純なWSNにおいてよく使われる手法は、すべてのノードをシングルチャンネル上で動作させてしまうというものです。使用される無線チャネルが1つだけのため、原理的に1度に1つのデバイスしか送信することができません。ネットワークスタック開発者は、実装が比較的シンプルになることから、今でもシングルチャンネル方式を採用することがありますが、その場合、周波数ダイバーシティーのないWSNになります。

 チャンネル内にアクティブな無線干渉が発生した場合に対処できるよう、いくつかのシングルチャンネルWSNには、「チャンネルアジリティー」と呼ばれる仕組みがあります。それは、ネットワークが全ノードに対し、動作チャネルを変更するメッセージをブロードキャストできるというものです。チャンネルアジリティーを備えたネットワークでも、ある一時点において、ネットワークは単一のチャンネル上で動作しています。チャネル・アジリティーの使用は、ネットワーク全体にわたって良好なチャネルが少なくとも1つ存在することを前提としています。

 しかしながら、現実のデータによれば、マルチパスフェージングの影響が避けられないネットワークの動作期間において、すべての無線チャネルで厳しい通信経路の品質低下が起こり、数分間、もしくは数時間にもわたってノードが脱落します(本記事末の補足記事「無線通信に対するマルチパスフェージングの影響」参照)。チャンネルアジリティーを備えたネットワークは、アクティブな干渉電波から離れたチャネルに変更はできるものの、単一のチャンネルで動作している以上、依然としてマルチパスフェージングの深刻な影響からは逃れられません。

ネットワーク全体のスリープによるデューティーサイクリング

 低消費電力を実現するために、WSNは、何らかの形でデューティーサイクリングを行い、アクティブな動作(送信、受信など、通常数mAを消費する動作)に費やす時間の割合を最小にし、消費電力の少ないスリープモード(通常1mA以下)に費やす時間の割合を最大にしようとします。なかには、ネットワーク内のすべてのノードが長い時間、低消費電力のスリープ状態になり、おおよそ同じ時刻に起動して送信/受信/転送を再開するネットワーク全体のスリープ機構(「スリーピー」メッシュとも呼ぶ)を備えたWSNもあります。このような機構では、スリープ期間中、ネットワークがまったく利用できなくなります。

 例えば、WSNが通信のために1時間に1回だけ起動する場合、ネットワークはその間、警告メッセージを送信することも、警告インジケーターを点灯するよう指示するコントローラからのメッセージを受信することもできません。また、ネットワーク全体がスリープしてしまうことが、そのWSNの無線環境の能力に対して与える影響について検討することも重要です。長いスリープ期間中、周囲の無線環境は動的に変化し続けます。スリープ中に使用できなくなった信号経路があっても、ネットワークは起動後にしか修復できません。さらに問題になるのは、「スリーピー」ネットワークは多くの場合シングルチャンネルネットワークであるため、アクティブ期間にネットワーク上のトラフィックが集中しストレスがかかり、通信安定性のリスクが増えるということです。

 ネットワーク全体をスリープさせる方式を使った場合のもう1つの問題点は、消費電力に目を奪われた結果、本来アプリケーションが必要とするデータレートやデータ量が得られなくなるということです。WSNの主な目的は、データを高い信頼性で伝達することであり、動作傾向や効率向上の可能性を示すことです。

 例えばユーザーは、老朽化したモーターの性能劣化や、小売店での古い冷蔵装置の電力使用量の増加などの情報をもとに、状況を把握して対処します。ネットワークの制約によってWSNが伝達できるデータ量が少なくなると、WSNがもたらす効用が制限され、モニタリング/制御システムそのものが持つ価値を下げてしまう可能性があります。

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