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DCモーターの性能線図を理解して高効率駆動について考えてみようめざせ高効率! モーター駆動入門講座(3)(3/3 ページ)

» 2016年05月25日 11時30分 公開
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高効率駆動と印加電圧位相について

 さて、前回に、誘起電圧の最大相と最小相のコイル間に電流を流すことが高効率駆動になることを解説した。ところが、最適なタイミングで半導体素子をスイッチできるかというと、そんなに簡単ではない。実は、さらに考慮しなければいけない問題としてコイル電流の位相遅れがある。なぜなら導線にもコイルのインダクタンス成分があり、電圧を印加してもすぐに電流は流れない。そして、回転数が速くなれば、位相遅れは相対的に発生する。高効率駆動を実現するには、必要な時に必要な電流をタイミングよく流す必要がある。(図4参照)

図4:印加電圧と回転数、位相遅れの関係

 このため、コイル電流の位相遅れを見越して印加電圧の位相を進める必要がある。これを進角制御(その角度を進角度)と呼ぶ。この進角度を決定する方法として、簡易的には[1]入力条件での調整(例えば、入力のPWM−Duty)、[2]回転数での調整(FG検知)、[3]出力電流での調整がある。これらは、負荷条件が回転数に合わせて一定であると考えて、Feed-backなしで比例的に進角度を決める方法である。小型モーターについては、この方法でも十分効果が見込めるが、最近では、ゼロクロスポイントで電流方向を検知する技術を使ったモータードライバICも登場してきている。

 また、さらに高度な技術として、コンプレッサーやACサーボなどで使われる中型以上のモーターでは、ベクトル制御のように各相(U, V, W相)の電流位相を検知してマイコンの高速演算処理により、フィードバック(Feed-Back)をかける方法もある。そう、このベクトル制御は、回転数や負荷の変動に応じて、この誘起電圧とコイル電流の位相を逐次制御している。各相に最適な電流値と位相を制御し、高効率を達成しているのだ。

 なお、このベクトル制御理論が進化し、d軸電流Id=0制御(電流位相を合わせる)から、弱め界磁制御(電流位相を誘起電圧より前位相にする)により誘起電圧を抑えることで、高速回転領域を伸ばすことが可能になるため、電気自動車(EV)に応用されている。このベクトル制御に最適なマグネットトルクとリラクタンストルクを利用可能な高効率の磁石埋め込み型同期モーター(IPMSM)も多く種類が開発されている。詳しい説明は、またの機会とするが、ここではキーワードとして覚えていてほしい。

左=図5:進角制御なし / 右=図6:進角制御あり

まとめ

 常々進化してきたモーターに求められる性能は、突き詰めれば効率と静音性(低振動)である。その技術進歩の中で、前段の進角制御と正弦波駆動が、モーター駆動の技術トレンドとなっている。従来の矩形(くけい)波120°駆動の場合は位相遅れが発生しても無通電期間があるため、効率が大きくは落ちない。一方で、正弦波駆動は3相分を合成した発生トルクがフラットになるため低振動を実現しやすいが、無通電期間がないため、高効率駆動を実現するためには、正確に印加電圧の位相を調整し、誘起電圧とコイル電流の位相を合わせる必要がある。そう、正弦波駆動と進角制御はセットで使用するべき技術なのである。

 最後にモーターの高効率駆動の基本として、前章に繰り返し、もう一度よく頭に入れてほしいことがある。

 それは、巻線磁界と磁石磁界の角度差が90°位置で1番大きなトルクを発生でき、その位置関係において、誘起電圧とコイル電流位相が合わさることで、高効率駆動を実現することである。


めざせ高効率! モーター駆動入門講座【第4回】:中国の最新市場動向から誘導モーターの高効率化について考えよう


筆者 Profile

ローム シンセンデザインセンター所長
吉冨 哲也

 前職で、数十年にわたりモータードライバ回路設計、マーケティングに従事。

 現在は、ロームシンセンデザインセンター長として家電、産業機器、車載分野を中心に、新規顧客開拓やソリューションの提案、顧客サポート、FAEの人材育成に励んでいる。


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