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スペクトラム拡散で電源回路のEMIを低減Design Ideas パワー関連と電源(1/2 ページ)

スイッチング電源は雑音の発生源として悪名が高い。いわゆるスイッチング雑音を発生するからだ。この雑音は配線パターンなどを介して放射電磁雑音(EMI)となり、電源回路の外部の周辺回路などに飛び込む。対策としては、EMIフィルターを使う方法が考えられるが、実装に要する基板面積が大きくなり、部品コストも増えてしまうため難しい。そこで、今回は、スイッチング電源のスイッチング周波数を変調することで、EMIを低減する方法を紹介する。

» 2016年08月30日 11時30分 公開

スイッチング周波数を変調してEMIを低減

 スイッチング電源は雑音の発生源として悪名が高い。いわゆるスイッチング雑音を発生するからだ。この雑音は配線パターンなどを介して放射電磁雑音(EMI)となり、電源回路の外部の周辺回路などに飛び込む。このためスイッチング電源を設計する際には、スイッチング雑音が周囲に影響を与えないように対策を施しておく必要がある。同じ電源供給源から電源を得て動作する回路全てに雑音をまき散らすのを防ぐのである。

 実際の対策としては、EMIフィルターを使う方法がある。EMIフィルターを電源回路に挿入することで、雑音が外部に漏れ出すのを阻止するとともに、雑音を雑音発生源に戻すための低インピーダンス経路を作り出す。ところがこの手法には問題がある。すなわち雑音が大きくなるに従って、EMIフィルターの実装に要する基板面積が大きくなり、部品コストも増えて雑音対策が大幅に難しくなってしまうのだ。

 そこで、スイッチング電源のスイッチング周波数を変調することでEMIを低減する方法を提案する。スイッチング周波数が固定された電源回路は、スイッチング周波数に最大のピークを持つEMIが発生する。スイッチング周波数の高調波周波数にもEMIのピークは生じるが、その大きさは高調波の次数が高まるにつれて減少する。スイッチング周波数を固定せずに常に変化させ続ければ、EMIの周波数分布(スペクトラム)は広帯域に拡散し、ピーク値は低減される。ある周波数におけるEMIの時間的な平均値を低く抑えるのだ。

発振器に使用する部品の定数に注意

 図1は、簡単な構成でEMIのスペクトラム拡散を実現できる回路である。点線で囲んだ部分は周波数が約500Hzの発振器として機能する。この発振器の出力でスイッチング周波数を変調する仕組みである。この回路をスイッチング電源に組み込めば、EMIの低減をわずかなコストで実現できる。対策に要する基板面積も小さくて済む。

図1:スイッチング周波数を変調する (クリックで拡大)
点線で囲んだ部分が発振器として機能する。この発振器の出力信号で、スイッチング電源に使うPWMコントローラーICのスイッチング周波数を変調する。

 図1の発振器部分は、電源(5V)を投入すると自動的に発振を開始する。まずコンデンサーC3の端子電圧が0Vから上昇し始める。コンパレーターIC「TL331」(IC1)の反転入力端子(1番ピン)の電圧はC3の正極端子電圧に等しい。また非反転入力端子(3番ピン)に印加する基準電圧(VREFH)は、R1とR6から成る抵抗分圧器と電源電圧によって決まる。電源投入直後は、VREFHはコンパレーターICの反転入力端子の電圧よりも高い。従ってコンパレーターICの出力端子(4番ピン)はハイインピーダンス状態である。

 時間の経過とともにC3の正極端子電圧が高まると、反転入力端子の電圧も高まってVREFHを超える。すると直ちに、コンパレーターICの出力端子の電圧は接地電位まで降下する。この状態は、R5がR6に並列接続されたのと等価である。また、R3はC3と並列接続された状態になる。従って、R1とR6、R5が抵抗分圧器を形成し、非反転入力端子の基準電圧を下げる。このときの基準電圧をVREFLとする。一方C3は放電を始め、正極端子電圧がVREFLに等しくなるまで低下し続ける。

 C3の正極端子電圧がVREFLまで低下すると、コンパレーターICの出力端子は再びハイインピーダンス状態に戻る。コンパレーターICの基準電圧はVREFHに高まり、C3は充電を始める。この一連の動作を繰り返すことで、発振状態を作り出す仕組みである。なお発振を維持させるためには、発振器に使用する部品の定数に注意する必要がある。

 つまり、C3が充電されたときに、正極端子電圧がコンパレーターICの基準電圧VREFHよりも高くなるように、またC3が放電したときに正極端子電圧が基準電圧VREFLよりも低くなるように部品定数を選ぶ。

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