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バッテリ管理システムでのシンプルな温度モニターアナログ回路設計講座(13)

電気自動車やハイブリッド車に搭載されるリチウムイオンバッテリは効率的な動作、長いバッテリ寿命を保つために、バッテリセルの監視が不可欠であり、その際、セルの温度もモニタリングしなければなりません。そこで、今回はシンプルな温度モニター回路を紹介します。

» 2017年08月29日 10時00分 公開
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はじめに

 環境問題が、クリーンな代替輸送手段の開発を促進しています。最も人気があるのは、電源としてリチウムイオン・バッテリ・セルのスタックを使用する完全な電気自動車およびハイブリッド電気自動車です。効率的な動作および長いバッテリ寿命を保証するために、セルの使用可能な電荷(充電状態(SOC)と呼ばれる)が継続的にモニターされます。セルの温度は、SOC計算の重要な要因です。また、自動車の動作環境は、多くの異常状態の可能性がある過酷な環境です。バッテリ・パックの過剰な負荷(最悪の場合、短絡状態を伴う)は、危険な過熱状態を生み出す可能性があり、絶えず注意を要します。精度はそれほど求められませんが、異常状態の温度検出は、安全上の理由によりしばしば必要になります。

12ビット精度の温度検出

 アナログ・デバイセズのLTC6802は、チップ上の完全なバッテリ・モニター・システムです。このデバイスの主な機能は、1つのスタックの最大12セルの電圧を測定し、基本的な安全動作条件に加えて充電状態計算に関するデータをホスト・コントローラに提供することです。任意の数のこれらのデバイスを積み重ねて、電気自動車の電源用の完全なバッテリ・モニター・システムを提供することができます。

 このデバイスの核になるのは、12ビット・デルタ・シグマ型A/Dコンバータです。このA/Dコンバータの前には、15チャネル・マルチプレクサがあります。15チャネルは、12セルの電圧と3つの温度測定用です。温度チャネルのうちの1つはデバイス自体のダイ温度の測定専用であり、他の2つのチャネルは外部温度センサ用です。図1-1および図1-2は、LTC6802を使用して温度を測定するための回路の例です。図1-1は、SOC計算用の高精度なサーミスタベースのセンサであり、図1-2は、異常状態検出用の非常にシンプルなダイオードベースの「ホットスポット」検出器を示しています。

図1-1:SOC計算用の高精度なサーミスタ温度センサ
図1-2:ダイオードベースの「ホットスポット」検出器

高精度なサーミスタ・パック・センサ

 低温では、リチウムイオン・セルは抵抗が大きくなり、最大の状態(標準で4.2VのVcell)と空の状態(わずか2.5VのVcell)の間で、電荷の供給が少なくなります。高い動作温度ではセルの自己放電電流が増加し、SOC計算の重要な要因になります。標準的なシステムでは、温度に対する性能に関して、セルの特性評価が徹底的に行われます。この情報はルックアップ・テーブルに格納されます。セル電圧の読み取り値とパックの温度で、SOC計算のためのセルの特性情報をテーブルから検索します。サーミスタをバッテリ・パックに接続するのは、安価ですが、温度をモニターするためのかなり正確な方法です。

 図1-1では、負温度係数(NTC)サーミスタが、温度に伴う抵抗の変化を平坦化するために、固定抵抗と並列に接続されています。サーミスタは非常に非線形であり、温度に対する抵抗値の指数関数的な変化(数式1参照)を示します。ここで、Roは基準温度To(ケルビン温度)での公称抵抗値、Bパラメータは特定のサーミスタで規定されています。ただし多くの場合、シンプルな近似を行うことができます。例えば、NTCサーミスタの抵抗値は、限定された温度範囲内で、1℃当たり約−4%変化します。

数式1
図2-1:図1-1における温度に対するA/Dコンバータの入力電圧

 LT6001は、デュアル13µAマイクロパワー・オペアンプであり、1つはサーミスタ用のバイアスを提供するため、もう1つはLTC6802のA/Dコンバータへの温度入力に加えられる電圧をスケール調整してレベル・シフトするために使用されます。リファレンス電圧(3.072V)およびレギュレータ電圧(5V)が、LTC6802デバイスに含まれています。出力範囲は、−20℃〜60℃の温度範囲(ほとんどのリチウム・セルの標準的な動作範囲)にわたって約0.2V〜4.2Vに設定されます。出力電圧の平均スロープは50mV/℃であり、1℃の温度変化当たり30 ADCカウント以上を与えます。示された回路値に対する正確な温度の決定を図2-1に示します。

シンプルなホットスポット検出器

 ダイオード列をバッテリ・システム全体に分散して、ホットスポット警告表示を生成するためのシンプルかつ安価な手段にすることができます。これを図1-2に示します。この警告は、システム内のどこかに過熱の問題が生じている可能性があることのみを示します。問題の正確な位置は不明ですが、詳細な診断を行うことができるまで、安全のためにシステムを機能停止することができます。

図2-2:図1-2における温度に対するA/Dコンバータの入力電圧

 各ダイオードは、同じ電源からバイアスされ、標準的な−2mV/℃の温度係数を持ちます。列の両端で測定される電圧は、順方向電圧降下が最低の最も熱いダイオードによって決定されます。任意の数のダイオードを使用することができます。内蔵A/Dコンバータの分解能は、1カウント当たり1.5mVです。通常動作からのADCコード測定における150カウントの電圧降下は、温度が75℃上昇しているホットスポットを示しています。図2-2に示したデータは、1つのダイオードの温度だけが変化したダイオード列の両端の電圧です。他の3つのダイオードは、20℃のままです。

まとめ

 LTC6802デバイスの便利な入力を使用したシンプルな温度モニター回路の例を2つだけ示しました。セル電圧モニターに使用された同じ正確なA/Dコンバータを活用するために、さらに高精度な検出を実装することができます。個々のセル温度センサに対応するために、LTC6802の汎用I/Oピンを使用して外部マルチプレクサ回路を制御することもできます。詳細については、www.linear-tech.co.jpでLTC6802のデータシートを参照してください。

【著:Tim Regan/アナログ・デバイセズ シグナル・コンディショニング製品 アプリケーション・マネージャ】

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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月28日














































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