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サーミスタ(1) ―― NTCサーミスタとPTCサーミスタ中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(11)(2/4 ページ)

» 2017年09月28日 11時00分 公開

NTCサーミスタの用途

 NTCサーミスタの主な用途としては次のように分けることができます。

表2:NTCサーミスタの分類
用途 概要 A形*) B形 C形 D形
小信号自立
ビス止め
小信号自立
リード型
チップ
SMD
自立
ディスク型
温度検出用 家電、事務機器、計測器などの部品、機器内温度、周囲温度の検出用  
突入電流抑制用 家電、事務機器などの突入電流の抑制用      
温度補正用 各種電子機器の温度特性補正用  
*)形状記号はJEITA発行の“EMAJ-R037 NTCサーミスタの安全アプリケーションガイド”の分類記号です。

 このような用途の中で、特に設計に当たって注意が必要な突入電流抑制用途と、汎用用途の温度検出用途について数回に分けて説明したいと思います。
 また、PTCサーミスタについてはPPTCによる過電流保護回路について説明する予定です。

NTCサーミスタによる突入電流制限回路

 多くのSW電源ではキャパシター入力型の平滑回路を採用していますが、この回路での電源投入時はキャパシターの蓄積電荷は0です。つまり充電電圧=0Vからスタートするわけですので、電流を制限するインピーダンスとしてはAC電源の配線網インピーダンス、ノイズフィルターのインピーダンス、ダイオードのインピーダンス、等が主要成分となります。

 つまり、最悪の場合、1式で計算される突入電流IRUSHが流れます。

式1

 ここで、Zinは前述した“配線網+ノイズフィルター+ダイオード”のインピーダンスです。配線網インピーダンスの下限値については100V系68mΩ、220V系0.23Ω程度と言われており、その他のインピーダンスは主に次の2式の成分が該当します。

式2

 2式の各成分に経験的な近似式を適用すると、ノイズフィルターにトロイダルタイプを使った100V系であれば、3式で近似でき、例えば50W時→1.76Ω、 100W時→0.48Ω程度となります。

式3

 これらの値を1式に代入すれば、上記電力別の突入電流は次のように計算できます。

50W時→√2×132/(0.068+1.76)=102.1Ap 100W時→340.7Ap(入力電圧132VMAX時)

*)ノイズフィルターにボビンタイプを使用した場合はフィルター成分を(Vac/P)2Ω程度に置き換えてください。
  230V系に換算するためには得られたZ(LF+D)を2.32=5.3倍してください。

 この突入電流と配線網のインピーダンスによって生じた瞬時電圧降下は配線網を通じて周辺機器に伝搬されますので周辺機器に誤動作などの障害を生じる可能性があり、また、自機や周辺機器のヒューズにもダメージを与えかねません。このため、一般的には20〜40Ap程度に突入電流を抑える必要があるのです。

抵抗を用いた突入電流制限回路と課題

 対策としては充電電流の経路に直列にインピーダンスを挿入する必要がありますが、ただ単に抵抗を挿入しただけではIac2×Rの損失が発生し、効率的ではありません。

:132Vac時に40Apに抑制するにはR=√2×132/40=4.7Ω程度の抵抗Rを電流経路に挿入しなければなりませんが、抵抗Rの損失は最大電流が流れた時に発生します。最悪条件として力率Φ=0.7で90V入力時を考えると、

50W時→50/(90×0.7)=0.79ARMS、100W時→100/(90×0.7)=1.59ARMS程度です。したがって抵抗Rの損失は、

50W時→3.0W、100W時→11.8Wとなり、現実的ではありません。

 大型電源では電源投入時には抵抗による電流制限を有効にし、充電完了後は抵抗を短絡するサイリスタやトライアックを用いた回路が用いられますが電源の価格自体が低い100W以下の電源では電流制限回路に割ける原価がないのが実情です。


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