メディア

オペアンプのダイナミック応答の検討(2) タイプ2補償回路の伝達関数アナログ回路設計(4/8 ページ)

» 2018年02月20日 11時00分 公開

タイプ2の応答と開ループゲインのプロット

 オペアンプの内部仕様が補償回路の応答に影響を及ぼしていないか確認するために従来から用いている推奨事項は、理論的なタイプ2の振幅とオペアンプの開ループゲイン応答を同じプロットに重ね合わせることです(参考資料2)。図11で、左側のプロットは、10kHzの地点で65度の位相ブーストと20dBのゲインを実現するタイプ2の補償回路を構築しようとした最初の試みに対応しています。このプロットで、オペアンプの振幅はタイプ2の補償回路の振幅と交差しており、一致しないと最終的に必要な特性が実現されない結果になります(最終的に60度近い位相誤差)。一見するだけで、この交差はこのアンプが用途に適合していなかったか、タイプ2の補償回路に設定した目標が過度に高かったことを示しています。

図11:左側で応答の交差と性能劣化の両方が発生していることが明白である。右側の振幅プロットに交差はないが最終結果は同じく歪んでいる

 図11の右側は、タイプ2の回路を設計する時に、10kHzのクロスオーバー周波数の地点でゲインではなく減衰をターゲットとするのが適切であることを示しているように思えます。著者の計算は、最終的な17度の位相誤差によって想定の誤りが指摘されています。

 参考資料2で推奨されている1つのアプローチは、採用するタイプ3の補償回路におけるクロスオーバー周波数でゲイン帯域幅(GBW)積が0dBを上回っているオペアンプを選択することです。残念ながら、この推奨事項は図11に適用できないことが分かります。左側でタイプ2の0dBクロスオーバー周波数は400kHz付近であるのに対し、右側ではゲインではなく減衰をターゲットとしています。これとはある程度異なる大雑把な解決策を提案します。オペアンプの開ループ応答は20fcの地点でタイプ2の補償回路を20dB「上回っている」必要があるという規則です。この解決策を図12に示します。この図によるアプローチにより、ターゲットの位相ブーストとゲインを受け入れ可能な限度内に維持するために、オペアンプが達成する必要があるGBW積を推論することができます。

図12:タイプ2の補償回路で勾配が−1である2番目の線を20dB上回る開ループ応答を持つオペアンプを選択する必要がある

 最初に、20fcの地点でタイプ2の振幅をdB単位で計算します。これに対して20dBを追加します。次に、その値に対応するオペアンプの開ループゲイン・クロスオーバー周波数、つまりGBW積を計算します。

式8

 図11の左側で、式8は4.4MHz時のGBW積を表しており、2番目の状況における150kHz時のGBW積を示唆しています。この方針を最初の例に適用すると、150Hzに位置する低周波の極で90dBの開ループゲイン、または450Hzに位置する低周波の極で80dBの開ループゲインを達成しているオペアンプを選択するという結論につながります。安定状態の誤差を許容限度内に維持するために、開ループゲインを70dB以下にしないようにしてください。この方針を適用すると、中域ゲインは19.5dB、位相ブーストは約60度になります。2番目の例で、式8は140kHzの地点で80dBの開ループゲインを達成するGBWと15Hzに位置する低周波の極を持つオペアンプを推奨することになります。中域ゲインの離散は0.4dB、位相ブーストは56度、つまり理想値に比べて9度の偏差です。低周波の極を30Hzまで押しやると、ゲインの離散は0.2dBに減少し、位相ブーストの誤差は4.4度に縮小します。

 式8は、適切なオペアンプのGBW積を推論するための基礎として提示したものです。この式は、いくつかのケースで適切なGBW積を見つけようとしたときの観察と反復に基づきます。式6から利用可能なGBW積を抽出しようとする方法もできたはずです。例えば、本来の理想的なタイプ2からの偏差範囲に適合するために、高周波の極による寄与を無視する方法です。しかし、有効な式を見つけることができたかどうかは確実ではありません。推奨されるGBWを確定した時点で、候補となる複数のオペアンプのデータシートを参照し、適切な部品を見つけてください。AOLと低周波の極をMathcadシートに入力し(参考資料3)、ターゲットとの偏差を確認します。最悪条件下でも偏差が許容範囲内に収まるように、各パラメーターの最小値も確認してください。

高周波電流モード降圧コンバーターを使用した補償回路例

 3.7Vのバッテリー出力電圧を1.5Vに降圧変換し、1MHzの周波数でスイッチングを行う5Aの降圧レギュレーターを設計したとしましょう。出力コンデンサーは180μFで等価直列抵抗(ESR)rCは3mΩです。負荷が1.5Aから5Aに変化した場合の出力降下を50mVにとどめたいとします。その結果、電源電圧の出力インピーダンスは次の値に等しくなります。

式9

クロスオーバー周波数fcにおける小信号の閉ループ出力インピーダンスで、コンデンサーの容量性リアクタンスが支配的であり、ESRによる寄与が十分小さいという事実を示すことも可能です。

式10

 上記の出力降下に基づき、180μFのコンデンサーと希望の14.3mΩの出力インピーダンスを考慮した時に、必要なクロスオーバー周波数の値を推定できます。

式11

 これは小信号分析による近似であり、大信号応答はこれとは異なるという反論もあります。その可能性もありますが、経験を通じて、最終的な結果は上記の計算と極端に異なるものではないことが分かっています。もちろん、ESRとESL(寄生インダクタンス)を全体像に含めると結果は大きく変化しますが、この1次アプローチは妥当な出発点と考えられます。さらに、この手法はクロスオーバー周波数を解析的に示唆することになります。従来はFsw/5またはFsw/10という値が推奨されてきましたが、多くの場合これらの数値に明確な根拠はありません。

 ここではクロスオーバー周波数fcとして62kHzを選択しました。このようなコンバーターを補償するために、最初に電力段のダイナミック応答が必要になり、これが分析の出発点です。この応答を求める方針には次のものがあります。

(a)出力伝達関数H(s)に対する制御を使用し、そこからボード線図を描く。
(b)平均モデルを使用してシミュレーションのセットアップを構築する。
(c)ラボでプロトタイプを構築し、ネットワークアナライザーを使用して応答を抽出する。
(d)スイッチングモデルを構築し、SimplisまたはPSIMを使用してAC応答を抽出する。

 図13に示すように、筆者は(b)の方針を選択しました。

図13:平均モデルは電流モードのコンバーターを迅速に構築するのに役立つ

 振幅プロットから、クロスオーバーを62kHzに配置する場合、中域ゲインを25.5dBにする必要があることが分かります。クロスオーバー(pfc)で約86度の位相ラグが読み取られるので、70度の位相マージン(pm)をターゲットとする場合、次の値の位相ブーストが必要になります。

式12

 Mathcadシートによる計算は、291kHzへの極の配置を推奨し、ゼロは13.2kHzに配置されます。式8によると、50MHzのGBWを持つアンプを選択する必要があります。各種オペアンプのデータシートを参照すると、「LT1208」は開ループゲインの代表値が7k(約77dB)で、最小値として2k(66dB)の降下をもたらすことが分かりました。この製品の代表的なゲイン帯域幅積は45MHzで、±5V電源電圧の使用時には34MHzに低下します。したがって、低周波の極は34MHz/7k≈4.8kHzに配置されます。

図14:開ループゲインの離散は最終的な位相ブーストに影響を及ぼす

 図14に2種類の開ループゲインから求めたタイプ2のボード線図を示します。ゲインが77dBの場合、45MHzのGBWになり離散は小規模です。AOLが66dB(仕様の最小値)に低下しても、ゲインの離散は許容範囲にとどまりますが、位相マージンはターゲットから10.7度遠ざかります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.