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抵抗器(4) ―― 固定抵抗器の信頼性設計中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(18)(1/3 ページ)

抵抗器の使い方、特にディレーティングと故障率の関係について説明をしていきます。

» 2018年04月25日 11時00分 公開

 前回までは抵抗器の種類とその注意点について説明してきました。
 今回は抵抗器の使い方、特にディレーティングと故障率の関係について説明をしていきます。

MILーHDBKー217Fによる故障率の計算

 MIL-HDBK-217は第二次世界大戦、朝鮮戦争を通じたアメリカ軍の兵器の品質問題に端を発し、追跡可能な範囲で部品の使われ方と故障の関係を調査、分類したものです。これらの分析結果としての各種電子部品の故障率と計算式が掲載され、現在では信頼性設計の基準書になっています。今日現在で入手可能な版は217F-Notes2ですが、ここではこの版の9.1項に従って炭素被膜抵抗器の故障率の計算を行った例を説明します。

【使用条件】
 Ta=50℃  T=100℃(抵抗体温度)  使用環境:GB(地上・温和)
 固定抵抗器、被膜型、絶縁型、信頼性未確認 Type RL
 故障率モデル λ=λb×πT×πP×πS×πQ×πE

図1:抵抗器の電力軽減曲線

(事前計算)
 Ta=50℃時に抵抗器温度を100℃で使うためには許容できる温度上昇ΔTは50℃までです。
 この抵抗器の電力軽減曲線は図1に示すように155℃まで使えて70℃以上で軽減が必要となっています。
 図1から電力比は−1.176%/℃で減少しますので、ΔT=50℃では50×1.176=58.8%で使用できます。

 これらの値を使ってMIL-HDBK-217Fでは故障率に影響を与える係数は次のように計算できます。ただし、この計算式はType RLに適用できるもので型式が異なる場合は都度、資料の計算式を確認してください。

表1
λb 基本故障率 固定抵抗器、被膜型、絶縁型 λb=0.0037×10-6/Hr
πT 温度係数 T=100℃ πT=1.9
πP パワー係数 πP=P0.39 実使用電力は0.25×0.588=0.147W πP=0.1470.39=0.473
πS ディレーティング係数 πS=0.71×e(1.1×S) S:ディレーティング率(<1) πS=0.71×e(1.1×0.588)=1.36
πQ 品質係数 信頼性未確認レベル*) πQ=3.0
πE 環境係数 GB環境(地上, 温和:一般事務所環境など) πQ=1.0
*):MILの品質レベルはこの他にも一般民生用のレベルがありますが生産工程での検査体制が抜き取り検査用ですので全数検査を行っている場合は軍用品レベルの信頼性未確認型としました。

 これらの係数から総合の故障率λは次の表2のようになります。

表2:使用条件別故障率の計算表
条件 λb× πT× πP× πS× πQ× πE λ(1/106Hr)
T=100℃ 0.0037 1.9 0.473 1.36 3 1 0.0136
T= 80℃ 1.6 0.388 1.0 0.0069

(参考)
 日本ではJEITAが「RCR-9102B スイッチング電源の部品点数法による信頼度予測基準」として発行している資料があります。
 この資料によれば被膜、絶縁型の固定抵抗器の市場故障率は、
  λ=0.016/106(Hr)
とされており、MIL-HDBKー217Fから求めた値と大差がない値になっています。

 JEITAの資料には使用条件が明記されていませんが一般的な常識に沿った設計が前提ですからここで取り上げた条件と大きく変わるものではないことが裏付けられたといえるでしょう。ただし、JEITAの値には使用条件の影響が含まれていませんのでどちらの計算手法を使用するかを事前に顧客と取り交わしておく必要があります。また両者の間で“換算”することはできませんので必要に応じて計算し直す必要があります。
*故障率の逆数がMTTFですが、残存率はe(-t/MTTF)ですのでMTTF経過時の残存率はe-1=約37%です。

デイレーティングと故障率

 表2には同じ抵抗器をT=80℃で使用した場合の推定故障率も計算してあります。
 T=80℃(Ta=50℃)まで電力を軽減すればΔT=30℃、S=0.353、P=0.088Wですから故障率λは表2に示すように1/2に減少し、いかにディレーティングが故障率に影響を与えているかが分かります。高信頼性機器を設計される時はこのような点にも配慮が必要です。

 次に前述のT=100℃の例で抵抗器のディレーティングを確保するために抵抗器を2つに分けて負荷を分担した時の故障率を考えます。
 ストレス比S=0.588/2=0.294(πS=0.981)
 温度上昇Δ=0.294/1.176=25℃、T=75℃(πT=1.58)
 電力P=0.0735W(πP=0.361)
 λ=0.0037×1.58×0.361×0.981×3×1=0.0062

 この故障率λの抵抗器を2個使用するわけですから直列形故障モデルのλは0.0124/106Hrとなり、単体使用と比べてほとんど下がりませんし、接続点の故障率も考慮すれば逆に劣化することもあり得ます。
 基本的にディレーティングは部品点数を減らし、かつ消費電力を下げることに尽きるといえます。

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