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DC-DCコンバーターの安全性(1) 感電保護DC-DCコンバーター活用講座(26)(4/5 ページ)

» 2019年03月27日 12時24分 公開

感電保護

 安全規格では、感電保護に関して次の3つの主要な仕様が考慮されます。

  • 絶縁耐力
  • 空間距離
  • 沿面距離

 安全性に関する絶縁耐力テストは、DCまたはACのテスト電圧を使って行います(ピークAC電圧は定常状態のDC電圧に等しい)。この電圧に、絶縁破壊することなく60秒間耐えなければなりません。ACテストの長所は、正負両方の電圧ストレスがコンバーターの両端に印加されることです。短所は、EMCコンデンサーを絶縁バリアの両端に接続した場合、無効AC電流の発生が絶縁破壊と誤解される可能性があることです。迷うときは、DC電圧を使用します。

絶縁グレード テスト電圧(DC) テスト電圧(AC)
機能 1000V/60秒 707VACRMS
基礎 1000V/60秒 707VACRMS
強化 2000V/60秒 1414VACRMS
表3:DC-DCコンバーターの安全絶縁耐力テスト(医療アプリケーション以外)

 空間距離は、入力側と出力側を「直線で」分離した場合の最小距離です。アーク距離と呼ばれることもあります。沿面距離は、入力側と出力側を表面に沿って分離した場合の最小距離です。トラッキング距離と呼ばれることもあります。図4に、これらの距離をダイヤグラム形式で表します。

図4:空間距離と沿面距離

 安全規格では、最小の空間距離と沿面距離をコンバーター両端の電圧、使用材料、動作環境に基づいて定義しています。

 空間距離は、「標高2000m以下の空気中」という基準で定義され、コンバーターの入力電圧と絶縁分類によって異なります。完全に樹脂充填されたDC-DCコンバーターには空気が存在しないので、空間距離は単にコンバーターの入出力端子間の距離になります。オープンフレームのDC-DCコンバーターの場合、内部トランスの巻線分離は空間距離の計算には含まれません。ただし、トランスの一次巻線と二次巻線の端子間の空間距離、または一次巻線と近接する二次巻線側の部品との間の空間距離は、いずれもPCB上での入出力端子間の空間距離より小さい場合に使用されます。

DC(AC)電圧
絶縁グレード 12
(12)
36
(30)
75
(60)
150
(125)
300
(250)
450
(400)
600
(500)
800
(66)
VDC
(VAC)
機能 0.4 0.5 0.7 1.0 1.6 2.4 3 4 mm
基礎 0.8 1 1.2 1.6 2.5 3.5 4.5 6 mm
強化 1.6 2 2.4 3.2 5 7 9 13 mm
表4:各種絶縁グレードにおける空気中での最小空間距離

 最小沿面距離は、動作電圧、使用材料の表面伝導率、汚染度により定義されます。沿面距離は、PCB上の一次配線と二次配線間の最近点で測定されます。

図5:最小の沿面距離と空間距離を示すDC-DCコンバーターのPCBレイアウト
絶縁材I 600≦CTI
絶縁材II 400≦CTI<600
絶縁材IIIa 175≦CTI<400
絶縁材IIIb 100≦CTI<175
表5:材料クラスの定義

 比較トラッキング指数(CTI)は、入力と出力を分離する絶縁材料(通常はコンバーターのPCB)の表面伝導率に応じて、沿面距離に1つの要素を追加します。

 標準のFR4 PCBボードの一般的なCTIは200〜250で、ハンダの抵抗により400に増加します(クラスIIIa)。ただし、ボードにPTFEコーティングが施されている場合は、CTIが600を超える可能性があります(クラスI)。汚染環境、産業環境、または屋外環境では、比較トラッキング指数(CTI)の変化を補償するために距離を大きくする必要があるので、最小沿面距離の計算時に表面の湿度や汚染物質の要素が、汚染度(PD)により追加されます。

汚染度 汚染度1 汚染度2 汚染度3 汚染度4
環境状態 汚損なし、または乾燥した非導電体による汚損のみ。伝導率には影響しない。 通常は非導電体による汚損のみ。一時的に結露が生じる可能性がある。 導電的汚損と結露が頻繁に発生している。 導電的汚損と結露が永続的に発生している。
環境例 封止された部品 オフィス環境 産業環境 屋外環境
表6:汚染度

 下の表7に、動作電圧、材料グループ、汚染度に応じた最小沿面距離を示します。

最小沿面距離
ピーク
電圧
(V)
汚染度
1 2 3
全材料
グループ
材料グループ
I II III I II III
mm mm mm mm mm mm mm
25 0.125 0.500 0.500 0.500 1.250 1.250 1.250
32 0.14 0.53 0.53 0.53 1.30 1.30 1.30
40 0.16 0.56 0.80 1.10 1.40 1.60 1.80
50 0.18 0.60 0.85 1.20 1.50 1.70 1.90
63 0.20 0.63 0.90 1.25 1.60 1.80 2.00
80 0.22 0.67 0.95 1.30 1.70 1.90 2.10
100 0.25 0.71 1.00 1.40 1.80 2.00 2.20
125 0.28 0.75 1.05 1.50 1.90 2.10 2.40
160 0.32 0.80 1.10 1.60 2.00 2.20 2.50
200 0.42 1.00 1.40 2.00 2.50 2.80 3.20
250 0.56 1.25 1.80 2.50 3.20 3.60 4.00
320 0.75 1.60 2.20 3.20 4.00 4.50 5.00
400 1.0 2.00 2.80 4.00 5.0 5.6 6.3
500 1.3 2.50 3.60 5.00 6.3 7.1 8.0
630 1.8 3.20 4.50 6.30 8.0 9.0 10.0
800 2.4 4.00 5.60 8.0 10.0 11.0 12.5
1000 3.2 5.00 7.10 10.0 12.5 14.0 16.0
表7:沿面距離

 ところで、上述の表が実際の要件にどのようにつながるのでしょうか? 通常の動作条件では、動作電圧がコンバーター両端への最大印加電圧なので、公称で48V入力、24V出力の入力電圧範囲2:1のコンバーターは、最大入力電圧72Vに出力電圧24Vを加えた96Vdcの沿面要件を満たす必要があります。したがって、上記の表7では、それに最も近い上の電圧である100Vを使用します(表7のハイライト領域を参照)。

 完全に樹脂充塡(じゅうてん)されたDC-DCコンバーターは、ホコリ、湿気、汚染の侵入に対して封止されているので、アプリケーション環境にかかわらずPD1に分類されます。このため、入力配線と出力配線の分離に最小限必要な沿面距離は0.25mmです。コンバーターがオープン・フレーム・デザインの場合、その距離はオフィス環境では1.4mm、産業環境では2.2mmに増加します。オープン・フレーム・コンバーターは屋外アプリケーションには適さないので、最小沿面距離は指定されていません。

 戻って表4を参照すると、この埋め込みコンバーターの端子間の最小空間距離は、機能絶縁では1mm、基礎絶縁では1.6mm、強化絶縁では3.2mmになります。実際には、コンバーターをハンダ付けするPCBパッド間の最小距離も考慮に入れる必要があります。その結果、樹脂充填の低電圧DC-DCコンバーターを機能絶縁のコンバーターとして産業環境で使用する場合、入出力間には最小1mmの沿面距離と空間距離が必要です。このとき、沿面距離は必ず空間距離以上になります。オープンフレームの同じ低電圧コンバーターの場合も空間距離が1mm必要ですが、沿面距離は2.2mmに増加します。

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