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リレー(5) ―― 使用上の注意点 〜その2〜中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(30)(3/3 ページ)

» 2019年04月23日 13時00分 公開
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設計確認項目

 スイッチ、リレー、サーモスタット、サーキットブレーカーに代表される接点部品の注意事項はその都度説明してきたために各ページに分散してしまい、分かりにくくなってしまいました。
 接点部品のまとめとして確認事項の要点を次の表1に示しますので必要な項目はディレーテングを採ってください。また要求された安全規格の用語の意味などが分からない時は必ずメーカーに確認してください。

表1:接点部品の注意事項
項目 内容
接点 ・許容開閉電流には最大許容値と参照値としての最少開閉値があります。
・接点のAC定格とDC定格は大幅に異なりますので必要に応じて確認してください。
・接点にはジュール損が発生します。接点損失は定格内に設定してください。
・接点圧力は接触抵抗を確保できる値以上であることをメーカーに確認してください。
・バウンスがひどいと突入電流が短時間に複数回流れ、溶着することがあります。
・接点不良には溶着とロッキング不良があります。
・リレーの未使用の端子を切断すると衝撃で特性が変化したり、ロッキング不良になったりすることがあります。
・接点材質によって発生しやすい錆や汚染物質、環境があり、材質ごとに確認が必要です。
・開閉頻度には上限値、下限値があります。
・多回路形では1つの回路の接点異状が隣接接点に影響することがあります。
・高信頼度が必要ならツイン接点やクロスバー型を検討してください。
・接点間には寄生容量があります。OFF時の漏れ電流が問題になる場合には低容量品を使用してください。
回路設計 ・ON/OFFモードのどちらが寿命時間の多数なのかを考慮して回路を設計してください。
・シーケンス回路の短絡開放試験対策や回り込みを防ぐために設計ルールを統一してください。
・バウンス改善や特性安定化のために時間の遅延は受動素子でなく能動部品で回路を構成してください。
・ラッチングリレーなどにおいて自己接点で自己電源を切る自殺回路は使用しないでください。
・ラッチングリレーなどでは初回電源投入や誤投入に対する対策をしてください。
・リレー接点回路やコイル駆動回路の配線が長い場合は線間の浮遊容量のため、突入電流や誘起電圧が問題になることがあります。
・動作(励磁)前のリレーはインピーダンスが低いので多数個の同時投入は突入電流を考慮してください。
・誘導性負荷などで接点にアークが発生する場合には消弧回路を付加してください。
駆動電圧 ・駆動素子の残留飽和電圧を考慮してください(TRIAC、SCRなど)。
・コイルには偏差や温度特性があり、動作時間/復帰時間/バウンス/最低動作電圧などが変化します。
・DC駆動波形は矩形波状とし、立ち上がり時間<バウンス時間、平坦性は定格電範囲内、としてください。
・負荷ON時の瞬時電圧低下でも動作条件内であることを確認してください。
・リードリレーは動作時間が1ミリ秒程度ですから商用リップルによる誤動作を確認してください。
・パルス通電ではコイルの過渡的な最高温度を確認してください。
・AC駆動では歪率を確認してください。高次高調波が含まれると異音や異状発熱の原因になります。
・AC駆動で駆動電圧の減定格をするとうなり音が発生し、接点損失の増加や溶着の原因になります。
・AC駆動では投入位相でバウンスの様子が異なります。位相制御ができる環境で評価してください。
・SCR駆動などでは回路の投入位相がACの位相と同期していないか確認してください。
安全規格 ・安全規格認可品には使用条件があります。各特性の項目は認可条件内で使用してください。
・安全規格認定マークは取り付け後も確認できるように部品を配置してください。
操作性 ・感温タイプの動作温度・復帰温度、ヒステリシス温度巾は仕様の範囲内であることを確認してください。
・レバー強度/操作荷重/ストローク量は仕様の範囲内で使用してください。
はんだ付け条件 ・自動はんだのフラックス塗布や温度条件はメーカーの指定範囲内とし、手はんだの時は異物(はんだカス、フラックスなど)がリレー内部に入らないよう作業条件、作業方法を検討してください。
・大型部品の陰など温度ムラが発生しやすい場所は温度プロファイルを作業ロット前後で確認してください。
・SMD部品では歪んだままリフローを行うと界面に隙間が開く可能性があります。
・無洗浄はんだ付けやはんだ付け後のフラックス洗浄で水及び水溶性洗浄剤を使う場合は事前に品質を確認してください。特に、水溶性フラックスは腐食性成分の含有に注意してください。
洗浄 ・耐フラックス型は洗浄不可ですがプラシール型でも洗浄できないものがあります。
・洗浄対応品でも超音波洗浄は不可です。加えて洗浄液、洗浄方法などの指定条件を守り、常温(40℃以下)で行ってください。
温湿度 ・天吊り使用などの最終設置条件において部品の温度を確認してください。
・機器内の温度分布や季節的な温度変動も考慮してください。
・温湿度は許容範囲内にしてください。
使用環境 ・シリコーン雰囲気ではシロキサン評価が必要です。(固着剤などシリコーンゴムなどの使用の有無)
・プラシール型は常圧での使用が前提です。加圧、減圧条件下では使用できません。
・塵埃や有害ガス、高湿度の環境などではプラシール型を検討してください。
・接触不良になる可能性がありますのでリレー搭載基板に絶縁用塗料を塗布しないでください。
・リレー動作による電磁ノイズの影響および、ラッチングリレーやリードリレーでの磁気的相互干渉の影響などを検討し、必要に応じて磁気シールドも検討してください。
・プリント基板が著しく反るとリレー端子に力が加わり、リレーの特性が変化する可能性があります。
振動
および、
衝撃
・振動/衝撃は機器全体の共振の有無を確認の上、仕様書の限度内としてください。
・接触が悪くなることがありますのでリレーソケットは使用しないでください。
・異物の落下方向や外部応力の方向を考慮してリレーの内部構造を選択してください。
・電磁SWなどの動作時の振動や外力によるチャタリングを防止するため動作時の接点圧力を規定してください。
落下品の再使用 ・落下した部品は、既に品質が損なわれ故障率が高くなりますので落下品は使用しないでください。
部品の
保管&輸送
・MSLが定められている場合は保管条件に反映してください
・次の環境はできる限り避け、必要に応じて対策を取ってください。
  (1)有機ガス、硫化ガスなどの腐食性ガスの雰囲気。
  (2)微少なゴミ、ほこりが発生する場所。
  (3)油、水などの雰囲気。
・保管期限を超えると端子のはんだ付け性が劣化しますので事前に品質を再度確認してください。
その他 ・機械接点なので信頼性は極めて低いです。
・部品の組み立てには準クリーンルームに匹敵する環境中に設けられた、ゴミ、クズが出ないライン上での作業が必要です。
・PPAPに対応できる品質保証体制であることを確認してください

 特に接点部品は金属表面をむき出しで使用するので部品メーカーでの汚染管理は重要です。PPAPに伴う工場監査の機会があれば原材料の酸化管理(原材の納入、払い出しなどの在庫管理、行程内材料管理状態、完成後の管理)、加工機械の日常管理(バリ管理など各種管理図表)、工程内でのハンドリング管理、などを確認してください。

PPAP:1993年ごろから言われるようになってきたPPAPはProduction・Part・Approval・Process(ピーパップ、生産部品承認手続き)の略号であり、最終製品の品質保証をするために下位部品の生産プロセスを上位生産者が認証するシステムです。
(ここでいうプロセスとは品質保証体系とその管理実態です)


 このようにまとめてみると半導体やCRパーツの機能部分が樹脂などで保護されているのに対して接点部品は金属むき出しで使用しているので非常に多くの注意点があるかと感じられるかと思います。
 しかし、その多くは標準化やルーチン(定型)業務に組み込めるものです。製品ごとに評価しなければならないのは限られた一部の項目ですので内容を確認された上で接点部品をお使いください。

 接点部品については今回で終了し、次回からはLCR部品の1つであるキャパシターについて説明します。

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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