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始動するPoE++(IEEE 802.3bt)―― PoE++対応受電装置を実現するためにアナログ回路設計講座(22)

IEEEの次世代Power over Ethernet(PoE)規格「IEEE 802.3bt/PoE++」がいよいよ始動しました。本稿では、この最新PoE規格と、規格の魅力をさらに引き出すチップセット「LTC4291-1/LTC4292」を解説します。

» 2019年05月10日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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はじめに

 IEEEの次世代Power over Ethernet(PoE)規格(IEEE 802.3bt/PoE++)が5年の開発期間を経て2018年に策定され、給電装置(PSE)と受電装置(PD)の開発者は最新のハードウェアを求めて躍起になっています。PoE++は以前の規格である供給電力25.5Wのほぼ3倍にあたる最大71.3Wの電力をPDに供給できるため、この動きは当然と言えます。PoE++は52Vの電圧で1.7Aの電流をギガビットイーサネットと同じケーブルで送電でき、屋外の加熱型パンチルトズームカメラ・ネットワークやセルラー通信、Wi-Fi通信用の長距離基地局および、アクセスポイントなど、次世代の大消費電力アプリケーション向けの土台となるものです。

 図1に、1つのPDが1つのPSEに接続された、基本的なPoEのブロック図を示します。802.3bt規格が策定され、PoE開発者はPoE++対応の設計をいち早く市場に投入しようとしています。あらゆる課題が解決され、PSEとPDのソリューションは802.3bt規格に100%準拠できるようになっています。準備は万全です。

図1:Power over Ethernetのブロック図

 アナログ・デバイセズは、PoEの先駆者として、またIEEE 802.3bt作業部会の主要メンバーとして、PoE++対応のPDコントローラおよび、PSEコントローラを既に発売しています。PoE開発者はこれを使って802.3bt規格の確定版に沿った設計を行うことができます。この「LTC4291-1/LTC4292 PoE++ PSEコントローラ・チップセット」とPoE++ PDコントローラの発売により、開発者はフィールドで試験され実証済みのフル機能のエンドtoエンドPoE++システムを提供できるようになります。本稿では、LTC4291-1/LTC4292チップセットのどのような点が特別なのかを解説し、それがIEEEの最新のPoE規格をどのように増強しているかを説明します。また、PoE++ PD製品の主要機能についても簡単に取り上げます。

LTC4291-1/LTC4292 PSEチップセット

 LTC4291-1/LTC4292は、PoE++システム専用に設計された絶縁型の4ポートPSEコントローラ・チップセットです。図2は、4つのイーサネットポートの1つに給電する方法を示す、LTC4291-1/LTC4292の簡略回路図です。このチップセットの最も新規性のある特長は、統合絶縁型であることです。つまり、このチップセットは、LTC4291-1がPSEホストへの絶縁型デジタルインターフェースを備え、LTC4292が高電圧イーサネットインターフェースを備えたアーキテクチャとなっています。IEEE802.3イーサネット仕様では、PoE回路を含むネットワーク・セグメントが、シャーシグラウンドとPHYから電気的に絶縁されている必要があります。非絶縁側にLTC4291-1を配置し、絶縁側にLTC4292を配置することで、最大6個の高価なフォトカプラと1つの絶縁電源をより安価で信頼性の高い10/100イーサネットトランスに置き換えることができます。この回路構成によって、コストを削減できるだけでなく、より堅固で製造の容易なPSE設計が実現します。

図2:PLTC4291-1および、LTC4292 PoE++クワッドPSEチップセットの簡略回路図

 LTC4291-1/LTC4292とはI2Cインターフェースを介した通信が可能で、4つの動作モード(自動、半自動、手動、シャットダウン)の中から1つをアプリケーションに応じて選択できます。LTC4291-1/LTC4292は2つのチャンネル(2つのゲートドライバ)を使用しており、40mΩという低RDS(on)の外部MOSFETによって電力パスを制御します。外部MOSFETを使用することで低RDS(on)の部品を選択でき、消費電力が低減すると共にチャンネル故障が減少します。0.15Ωの検出抵抗を使用することでも消費電力を削減できます。I2Cインターフェースによって、ポートの構成、ポートステータスのモニタリングおよび、ポート電流、PoE電源電圧、ポート電力の遠隔操作による読み出しが可能です。

 802.3btでは、単一シグネチャとデュアルシグネチャの2通りのPDシグネチャ構成が可能です。単一シグネチャPD(図3参照)は、両方のペアセット間で同じ検出シグネチャと分類シグネチャを共有するPoE++ PDです。デュアルシグネチャPDは、各ペアセットで独立のシグネチャを持ち、それぞれにまったく独立した分類と電力を割り当てることができるPoE++ PDで、単一シグネチャPDの2倍のコストを要する複合的なソリューションです。また、802.3btのデュアルシグネチャPDは共通のアーキテクチャを共有しているにも関わらず、先行規格のUPoEデバイスと等価でないことに注意する必要があります。このLTC4291-1/LTC4292は、PSEにどのPDシグネチャ構成を付帯させるかを決定する新しい接続チェック・サブプロシージャを含む、アップデートされたPoE++ PD検出プロセスに対応しています。

図3:単一シグネチャとデュアルシグネチャのPD回路構成

 接続チェックが完了すると、次にLTC4291-1/LTC4292は、接続されたPDがIEEE準拠かどうかを検証します。IEEEでは、PSEが2点電圧または2点電流検出手法を使用して有効なPDシグネチャ(25kΩ)を検出することを求めているのに対し、LTC4291-1/LTC4292は、両方の検出手法を使用するより堅ろうな手法を実装しています。このマルチポイント(複数の電圧と複数の電流)検出手法を使用して、フォールス・ポジティブを除去し、PoEのDC電圧に耐えるように設計されていないネットワーク・デバイスの損傷を回避します。

 従来のPoE規格では2対の導体(4ワイヤ)が用いられていたのに対し、PoE++は4対の導体(8ワイヤ)に電力を供給し配電します。新たにより高い電力レベルが可能となっただけでなく、多くの導体を使用することでケーブルの電力損失が半分になるため、これまでの低電力レベルのものに比べ効率が向上します。例えば、PoE+のPDが25.5Wを受電できるようPoE+のPSEで30Wを供給する場合、100mのCAT5Eケーブルを通じて4.5Wが損失となります。PoE++規格で同じ25.5WをPDに給電する場合、損失は2.25W(代表値)未満となり、全体的な配電効率は85%から92.5%に改善します。世界中にあるPoE PDの数を考えると、これは非常に大きな電力削減となり、多くの場合、カーボン・フットプリントは最大で7.5%低下します。

表1:PoE++ PDのクラスと電力レベル
クラス 単一シグネチャPD デュアルシグネチャPD
  PDの
使用可能電力
(W)
ペアセットPDの
使用可能電力
(W)
0 13
1 3.84 3.84
2 6.49 6.49
3 13 13
4 25.5 25.5
5 40 40
6 51
7 62
8 71

 PoE++では、新規の大電力PDクラスが4つ含まれるため、単一シグネチャクラスの合計数は9になります(表1参照)。クラス5〜8はPoE++で新たに加わったもので、PDの電力レベルは40W〜71.3Wの範囲になります。ただし、PSEは依然として、物理層(すなわち、71.3W用5イベント分類)またはデータ・リンク層(例えば、リンク層検出プロトコル(LLDP))のどちらを使用するかを選択してPDを分類し、PDは依然として、準拠するために両方の分類手法に対応する必要があります。各ペアセットはデュアルシグネチャPDでは独立に動作するため、ペアセットごとにクラスが異なる場合があることに注意してください。例えば、最初のペアセットがクラス1(3.84W)で次のペアセットがクラス2(6.49W)であれば、デュアルシグネチャのクラス1、クラス2(10.3W)PDとなります。

 PoE++ PDは、LTC4291-1/LTC4292などのPoE++ PSEが接続されたPDの実際の最大消費電力を測定できる、Autoclassと呼ばれる物理層分類の拡張オプションを実装することも可能です。これを実行すると、この便利なパワーマネージメント機能により、例えば、LTC4291-1/LTC4292が特定の電球を測定し、照度の設定が低いかケーブル長が短いために消費電力がそのクラス電力より低い場合、余剰電力を他の電球に割り当てることができます。

 言うまでもなく、PoE++はこれ以前の25.5W PoE+規格や13WPoE規格と後方互換性があります。低消費電力のPoE+またはPoE PDは、LTC4291-1/LTC4292などのより高消費電力のPoE++のPSEと、何の問題もなく接続できます。そして、状況が逆になり、高消費電力のPoE++ PDが低消費電力のPoE+またはPoE PSEに接続された場合、PDは定められた低消費電力で動作します(デモーションと呼ばれます)。PDがデモーションを行わず最大消費電力で動作すると、この高消費電力のPDによって、PSEがオンになり過電流となってオフになるという状態が繰り返されます(事実上、PSEがモーターボーティング状態となります)。そのため、PoE+とPoE++の両方でデモーションが必要となりますが、残念ながらこれが見過ごされて実装されていることもあります。

PDの実装

 アナログ・デバイセズのICを使用して開発を行えば、PoE++ PDの性能を最大限に活用できます。図4に、高効率の単一シグネチャPoE++ PDの補助入力に対するインターフェースを簡略化したブロック図を示します。このソリューションは、エンドtoエンド(RJ-45入力からPD負荷まで)の効率が94%を超え、−40〜+125℃の温度範囲で動作するものです。

図4:高効率IEEE 802.3bt単一シグネチャPDの補助入力に対するインターフェースの簡略ブロック図

 図4のRJ-45インターフェースに示されているLT4321は、アクティブダイオードブリッジ・コントローラで、必要なダイオードブリッジ整流器に置き換わるものです。LT4321には低損失のNチャンネルMOSFETブリッジが使用され、PDの使用可能電力を増加させると同時に熱放散を低減しています。PoE++では、PDが、そのイーサネット入力全体で任意の極性のDC電源を受け入れることを求めています。そのためLT4321は、両方のデータペアからの電力を滑らかに整流して、極性補正された単電源出力に接続します。電力効率が向上してヒートシンク条件が実質的に除去されるため、回路全体のサイズとコストは縮小します。また、10倍以上の節電機能があるため、PDを分類のパワーバジェット内にとどめるか機能を追加することができます。

 図4の理想的なダイオードブリッジ・コントローラの後段が、PDインターフェースの頭脳とも言えるLT4295です。これは、高効率のフォワード・コントローラまたはフォトカプラ不要のフライバック・コントローラを内蔵した、PoE++ PDインターフェース・コントローラです。LT4295は、25kΩシグネチャ抵抗を内蔵し、最大5つのイベント分類機能と単一シグネチャ回路構成を備えてIEEE PDの9クラスすべてに対応しています。より多くのPD電力を供給することに加え、LT4295が従来のPDコントローラよりも優れている点は、外付けのパワーMOSFETを使用して、PDの全体的な熱放散を減少させ電力効率を最大化していることです。これはPoE++規格の電力レベルが高くなればさらに重要になります。

 PDがパワーアダプタで給電されるオプションを持つよう、補助電源をサポートする必要のあるPoE++ PD設計に対しては、図4上部に示すLT4320が使用されます。これは9V〜72Vのアクティブダイオードブリッジ・コントローラで、全波ブリッジ整流器の4つのダイオードをそれぞれ低損失NチャンネルMOSFETで置き換えることにより、消費電力を著しく減らし、供給電圧を増加させます。電力効率が向上することで、サイズとコストのかさむヒートシンクが不要となるため、電源と電源アダプタを小型化できます。低電圧アプリケーションにおいても、通電中のダイオードブリッジ固有のダイオードほぼ2個分の電圧降下(12Vの10%に相当する約1.2V)を抑えることでマージンに余裕ができるので、アプリケーションのヘッドルームが増加するというメリットが得られます。

まとめ

 PoE++規格の承認を目前に控え、開発者は自信を持って計画を立案できます。最大71.3WというPoE++規格の高い電力レベルは、多数の新しいパワーマネージメント機能で支えられており、開発者はこの機能を利用して、より動的で最適化されたシステムを構築できます。アナログ・デバイセズが最近発表したLTC4291-1/LTC4292 PSEクワッドポート・チップセットの堅ろう性と簡素な部品表は、PSE開発者に評価してもらえるでしょう。また、ケーブルのもう一端では、PD開発者が引き続きアナログ・デバイセズの複数のICを自由に駆使して放熱を抑制し電力効率を向上させることが可能です。

著者紹介

Christopher Gobok

 アナログ・デバイセズのミックスド・シグナル製品のプロダクト・マーケティング・エンジニア(PME)。サンノゼ州立大学を卒業し、B.S.E.E、M.S.E.E、M.B.Aの学位を取得。これまでに、光エレクトロニクスおよびパワーMOSFETに関するPMEとしての経験を持つ。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年6月9日














































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