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» 2019年12月11日 10時00分 公開

アナログ回路設計講座(29):小型・高効率で“コールドクランク”に強い車載情報機器電源を設計するために

日々、進化を続ける車載インフォテインメントシステム。進化に従い車載インフォテインメントシステムが電源に求める要件も厳しさが増している。小型、高効率で、かつ、安定的に出力し続ける――。これからの車載インフォテインメントシステムの電源要件を満たす新しいソリューションを紹介する。

[PR/EDN Japan]
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 ネットワークで接続され、ネットワークメディアを中心とする現代人のライフスタイルは、高度に統合化された今日の車載インフォテインメントシステムなどに見られるように、人々の生活のあらゆる側面に技術が浸透した結果であり、それを推し進めた理由でもあります。車載インフォテインメントシステムに搭載されている複雑に組み合わせられた電子部品は、まさに高性能マイクロコントローラ、メモリ、インターフェース、ドライバICなどのコンスーマエレクトロニクスそのものを現しています。この1つ1つの部品が幅広い電源条件を持つさまざまな低電圧レールを必要とするのと全く同じように、その電源というものも非常に複雑になっています。複雑なのはインフォテインメントシステムに限ったことではありません。自動車の性能や燃費を高め、運転者にとって便利な機能を実現するには、電子システムの一層の進歩が求められます。また電源システムは、繊細なエレクトロニクスと、とりつきにくい条件を持つオートモーティブ設定(入力として供給される広い電圧範囲、当然予想される過渡バッテリ環境)の間に存在するものでもあります。メーカーがスタート/ストップ技術のような機能で、オートモーティブ環境を電子部品にとって近寄りがたいものにしている状況でも、優れた設計の電源システムは、電子部品に対する電力供給と保護を両立させることが必要です。

 スタート/ストップ技術は、電子部品が直面する厳しい条件を、とりわけエンジンを繰り返し始動することで更に厳しいものにします。スタート/ストップシステムはエンジンを繰り返し再始動させることが可能ですが、中心となるシステムは動作状態を保持しなければなりません。バッテリからの給電において、スタート/ストップの都度コールドクランクが生じることで、車内から音楽が消え運転者が突如アカペラで歌うような羽目になれば、その車は良い評価が得られなくなってしまうかもしれません。

 一方で、超低静止電流も車載電源システムの重要な条件です。自動車では、常時オンとなっている必須の電子機器がバッテリを浪費することなく稼働しながら、1カ月以上も未使用状態となることがあります。

 アナログ・デバイセズのPower by Linear「LTC3372」は、オールインワンタイプの高電圧コントローラで、オートモーティブのバッテリ環境によって過酷な電圧変化が生じても電圧を継続的に安定化する機能を備えています。静止電流が極めて低いため、バッテリを浪費することなく、常時オンの部品を動作させ続けることができます。LTC3372は、4個の構成可能なモノリシックレギュレータを備え、インフォテインメントなどの電子システム用に最大5つの出力チャンネルを提供できます。

5本のレールをバッテリから直接生成

 LTC3372は、複数レールを生成するために必要な部品の数を大幅に削減します。実証済みの高電圧オートモーティブコントローラ技術と4個の構成可能なモノリシック降圧レギュレータを組み合わせることで、スペースとコストを節約できるオートモーティブマルチチャンネル電源ソリューションを実現します。

 高電圧降圧コントローラの入力は、負荷ダンプの間に発生するような最大60Vの入力サージでも動作し、標準的な降圧構成での4.5VやSEPIC構成での3Vという低い入力ディップをレギュレーションすることもできます。この動作入力範囲により、大きなトランジェントが生じた場合でも、繊細な電子部品に継続的に電力を供給することができます。LTC3372の4個の低電圧降圧レギュレータは、電力段を1Aの8個の電力段から選択して組み合わせることで、個別に構成できます。電力段は、各レギュレータの電力条件に合わせて、8通りの独自の4出力チャンネル構成と組み合わされ、すべてオートモーティブバッテリから直接給電します。

 単一ICによるマルチチャンネル電源ソリューションの利点の1つは、内蔵電圧リファレンスとバイアス供給を共有できることです。このバイアス共有によって、マルチチャンネル電源のチャンネルあたりのIQの仕様値を、個別のICで実現可能な値よりも低くすることができます。シングルチャンネルの常時オン電源の場合、VINのリファレンスバイアスのIQは、23μA(代表値)で、150°Cでは最大46μAです。Burst Mode動作で5チャンネルすべてをレギュレーションする場合、バイアス電流の代表値は合計でわずか60μA、すなわちチャンネルあたり12μAです。LTC3372を用いれば新たな常時オンアプリケーションが可能となり、このとき、5チャンネルの合計バイアスのIQが、以前の技術を用いたシングルチャンネルの場合と同程度のものとなります。

コントローラとレギュレータを集積するメリット

 LTC3372は、低IQのBurst Mode動作を備えた、フロントエンドの60V高電圧(HV)降圧コントローラと4個の5V低電圧(LV)モノリシック降圧レギュレータで構成されています。コントローラとモノリシックレギュレータを集積することで、LTC3372は小型で低コストでありながら、高入力電圧から個別に最大5通りのレールを供給できます。HVコントローラの出力電圧は、VOUTPRGピンのレベルに応じて3.3V〜5Vの範囲で選択できます。一方、LVレギュレータの出力電圧は、FB1〜FB4ピンの外付け抵抗を使用して個別に設定できます。

 図1図2に、代表的なアプリケーションとそれに対応するHVコントローラの効率を示します。HVコントローラは、通常、LVレギュレータに給電するために使用されますが、各レギュレータはイネーブルのチャンネルごとに、また入力ピンごとに個別に動作します。8つの電力段により柔軟性が高まります。8個のスイッチは、レール固有の最大電流制限に適合するよう、組み合わせがCビット(C1、C2、C3)を通じてデジタル的に構成され、LVレギュレータ内に配置されています。表1にCビットの設定と、その結果生じる電流制限の構成をレギュレータ番号ごとに示します。図3には、並列に組み合わせたスイッチの数によって効率がどのように変化するかを示します。

図1:LTC3372の代表的な60V入力アプリケーション。HVコントローラが、2Aの1V/1.2V/1.8V/2.5VクワッドLVレギュレータに給電。3.3V/5V HVコントローラの出力は、追加の3A電流レールとして使用可能。
図2:図1に示したHVコントローラのBurst Mode動作での効率と出力電流の関係。出力電流は最大10Aまで示していますが、これは全負荷の4個のレギュレータと3A 3.3V/5V負荷に給電するのに十分な値です。
図3:LVレギュレータのBurst Mode動作での効率と出力電流の関係。1A、2A、3A、4Aの降圧レギュレータは、それぞれ1個、2個、3個、4個のスイッチが並列に接続されている場合の構成を示しています。
表1:C1、C2、C3コードで設定されたLVレギュレータの構成。3個以下のLVレギュレータ構成では、未使用のレギュレータのイネーブルピンとフィードバックピンはグラウンドに接続されています。
C3 C2 C1 BUCK1 BUCK2 BUCK3 BUCK4
0 0 0 2A 2A 2A 2A
0 0 1 3A 1A 2A 2A
0 1 0 3A 1A 1A 3A
0 1 1 4A 1A 1A 2A
1 0 0 3A 2A 3A
1 0 1 4A 2A 2A
1 1 0 4A 1A 3A
1 1 1 4A 4A

 LTC3372は、温度センサー機能とウォッチドッグタイマー機能も内蔵しています。温度センサーによって、LVレギュレータがイネーブルの場合は常に、ダイ温度を詳細にモニターできます。ウォッチドッグタイマーは、誤動作が発生してマイクロプロセッサがタイマーをクリアできない場合に、リセット信号を発します。

システムレベルでの電力損失最適化を

 多くの場合、DC/DCコンバータはその効率で評価されるため、このパラメータを最大にするよう設計されています。しかし、高電力アプリケーションの場合は、通常(効率だけでなく)電力損失についてDC/DCコンバータを最適化することで、性能が向上します。LTC3372を用いて構成されるような多段コンバータシステムでは、効率の一部がHVコントローラとLVレギュレータの両方の要素を含む場合、効率の測定は誤った解釈を導く可能性があります。

 電力損失の最適化とは、単に電力損失の合計を最小にすることを意味するだけでなく、デバイス全体にわたって損失の分布を調整することも意味することに留意してください。すべてのLVレギュレータにわたる合計電力損失がLTC3372システムの損失の大半を占めるので、LVレギュレータから始めるのが良い方法と言えます。適用可能なすべてのLVレギュレータ構成を考慮すると、電力損失オプションのかなりの範囲を比較できます。表2に、適用可能なすべての構成とそれに対応する電力損失を、1.2V、1.8V、2.5Vの各アプリケーションの最大負荷がそれぞれ3A、3A、0.5Aの場合について示します。最良の構成と最も厳しい構成との差は0.432Wです。通常の場合、可能な限り最大のスイッチを最大の電力チャンネルに繰り返し割り当てることで最善の結果が得られます。

表2:1.2V(3A)、1.8V(3A)、2.5V(0.5A)のLVレギュレータのさまざまな構成におけるBurst Mode動作の合計電力損失。VINA-Hは3.3V、スイッチング周波数は2MHz、最良の構成は最も厳しいケースに比べて0.432Wの低消費電力化。
C3 C2 C1 BUCK1 BUCK2 BUCK3 BUCK4 損失(W)
0 1 0 1.2V(3A) 2.5V(0.5A) off 1.8V(3A) 2.523
1 0 0 1.2V(3A) 2.5V(0.5A) 1.8V(3A) 2.486
1 1 0 1.2V(3A) 2.5V(0.5A) 1.8V(3A) 2.204
1 1 0 1.8V(3A) 2.5V(0.5A) 1.2V(3A) 2.181

 HVコントローラには、より一般的な効率最適化の手順が適用できます。わずかな相違は、HVコントローラの負荷のすべてまたは一部が、LVレギュレータの入力換算電流となることです。負荷がLVレギュレータだけの場合は、各LVレギュレータが全負荷となっていても、HVコントローラから見ると中程度の負荷となります。低RDSのFETを選択したり、最大ピーク効率を追求したりするのではなく、目的の動作電流範囲に設計の焦点を置く必要があります。RDSが異なる3種類のFETを使用した場合の、効率と出力電流の関係を図4に示します。表2のLVレギュレータの場合、RDSが最も高くてもQGが最も低いFETを使用すれば、最大負荷(最適構成の場合3.759A)未満の範囲で効率が最大となります。

図4:HVコントローラに3種類のFETを使用した場合のBurst Mode動作での効率と出力電流の関係。トップとボトムでは同じFETを使用。表2のLVレギュレータに最適なFETを決定するためのクロスオーバーを詳しく調べるため、図では1〜6Aに範囲を絞って表示しています。LVレギュレータが全負荷の場合、3.759Aが最大負荷電流。結果は、RDSが最大であってもQGが最低のFET(BSZ099N06LS5)が最適であることを示しています。

コールドクランク状態でも出力を安定させるSEPICコントローラ

 オートモーティブアプリケーションのコールドクランクは、DC/DCコンバータにとって依然として課題の1つです。コールドクランク状態では、安定化出力電圧が入力電圧よりも高い場合でも、降圧コンバータはドロップアウトで動作せざるを得ません。昇圧とSEPICの2通りの代替フロントエンド回路構成が、LTC3372のHVコントローラで提供されるリソースを使用して実現し、ドロップアウト動作を回避できます。

 昇圧の方が多少シンプルですが、高電圧の入力サージが生じた場合でも、後続の降圧段に受け渡してしまいます。そのため、高効率の低電圧降圧レギュレータを2段目の降圧段として使用することができなくなってしまいます。図5に、LTC3372HVコントローラを非同期のSEPIC回路構成で示します。SEPICコンバータは5Vの中間レールを生成することで、3.3V/4Aの2個のLVレギュレータに給電すると共に、HVコントローラの連続動作を維持します。

図5:3.3V/4AのLVレギュレータ2個に給電する4.5V〜50V入力非同期HV SEPICコンバータ。LVレギュレータが全負荷の場合、SEPICコンバータは起動後3Vの最小VINでVOUTに5Vを維持できます。SEPICの負荷がこれより軽い場合は、最小VINを1.5Vまで下げることが可能です。VINが5V未満の場合、連続動作を維持するためには、SEPICの出力を5Vに設定する必要があります。逆電流とトランジェントスパイクを防止するために、DINと1FのコンデンサがICのVINに接続されています。電流コンパレータ入力にクリーンな信号を供給するには、差動電流検出手法と低インダクタンス検出抵抗を用いることを推奨します。低インダクタンス(LHV1とLHV2)、最大スイッチング周波数、低帯域幅によって、右半平面ゼロと電流リップルとの間の妥協点が決まります。

 4AのLVレギュレータ2個が全負荷の場合、5Aを超える電流がSEPIC出力から供給されます。スイッチ電流は両方のインダクタの巻き線電流の合計となるので、検出抵抗を流れるピーク電流は、容易に10Aを上回ります。検出抵抗がホットループ内にあることを考えると、電流コンパレータ入力でクリーンな波形を生成するには、ある程度の工夫が必要です。1つの解決策は、SEPICの回路図に示されるような差動フィルタリング手法を取り入れ、パッケージ裏面に低インダクタンス抵抗を使用することです。

 図6に、Burst Mode動作でのSEPICの効率を示します。また、図7には、12Vから3Vのトランジェントが入力に印加された場合のSEPIC出力電圧を示します。PCB設計の際には、キャッチダイオードで発生する熱を見過ごさないようにしてください。ダイオードがある程度過大な場合に備えて余分なスペースを確保し、厚めの銅を使用することで、熱限界を超えないようにすることができます。入力トランジェントによる逆方向電流と不測の電圧スパイクを回避するには、追加のダイオードとフィルタリングコンデンサをVINピンに接続します。

図6:図5に示した非同期SEPICコントローラのBurst Mode動作での効率と出力電流の関係。出力電流は6Aまで示してあります。これは、全負荷の3.3V/4A LVレギュレータ2個に給電するのに十分な値です。
図7:コールドクランクに類似した入力トランジェントに対するSEPICの出力応答。入力は2ミリ秒以内に12Vから3Vに降圧し、1秒間3Vを維持した後、12Vに回復します。3Vのトランジェントの間に大きなリップルが見られますが、これは、キャッチダイオードを通じてより高いピーク電流が出力コンデンサに流れるためです。この波形は、全負荷の3.3V/4A LVレギュレータ2個を使用し、500kHzのSEPICスイッチング周波数で測定したものです。

まとめ

 LTC3372は、高電圧マルチチャンネル降圧コンバータのシングルチップソリューションを提供します。チャンネルあたりの低IQ動作と低コスト性により、オートモーティブアプリケーションの常時オンシステムに最適なデバイスとなっています。

筆者プロフィール

Jin-Jyh Su

 ジョージア工科大学を卒業後、アナログIC設計エンジニアとして、リニア・テクノロジー(現アナログ・デバイセズの1部門)に入社。カリフォルニア州ミルピタスおよびテキサス州ダラスのリニア・アナログ・デバイス・パワー・グループに3年間在籍。高性能DC/DCコンバータの設計を専門とし、オートモーティブアプリケーション向けに高電圧(100V)、高速(3MHz)、低IQで動作するモノリシック製品やコントローラ製品の設計経験を有する。近年は、テキサス州ダラスのバッテリ管理システム(BMS)グループで、マルチセル・バッテリ・スタック・モニタに取り組んでいる。

Terry Groom

 パワー設計セクションのリーダーで、アナログ・デバイセズに約13年間在籍。テキサスA&M大学およびジョージア工科大学を卒業。テキサス州ダラスにある高性能DC/DC電源コントローラを専門とするグループを率い、電圧入力5V〜150V製品を、スイッチング周波数が最大3MHzのマルチ・スイッチング・モードの回路構成で開発。様々なアナログ分野で30年以上にわたる設計経験を有するアナログ・デバイセズのPower by Linear開発チームの貴重なメンバー。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月17日











































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