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» 2020年01月28日 11時00分 公開

アナログ設計のきほん【ADCとノイズ】(11):電源ノイズがデルタ-シグマADCに与える影響の理解 (2/3)

[Bryan Lizon(Texas Instruments),EDN]

電源ノイズ除去の測定と定量化

 ADCのPSRは、その電源の変化(ΔVSUPPLY)に対するADC出力の変化(ΔVOUT)を表します。PSRは比率としてデシベル表記で示されることがよくありますが、この比率を電源除去比(PSRR)と呼びます。暗にマイナス符号を含むため、PSRRを示すには慣習的に絶対値が使われることに注意してください。PSRRは式1で求められます。

式1

 ADCデータシートのPSRRは、PSRRDCとPSRRACという2つの別々の方法を使って規定されていることに気づくでしょう。PSRRDCは、電源のDCシフトによりADC出力がどれくらい変化するかを表します。PSRRACは、出力に電源ノイズがどれくらい現れるかを表します。第2回で述べたADCノイズ測定と同様に、ADCメーカーが使用するPSRRの測定方法も、ADCの測定対象となる信号の種類により変わります。

 例えば、低速のセンサ計測アプリケーションでは、通常、24ビット、デルタ-シグマADC「ADS1261」(Texas Instruments製)など、DC性能に最適化されたADCを使用します。この超低ノイズのADCは、最大40kサンプル/秒(kSPS)の能力があります。ADS1261は一般に信号通過帯域が非常に狭いため、図2にはPSRRDCのデータシート仕様を示します。このデータシートでは、アナログ電源とデジタル電源の両方について、最小値と標準値のPSRR仕様を示しています。

図2 図2:「ADS1261」のPSRR仕様。AVDD=5V、AVSS=0V、DVDD=3.3V、VREF=2.5V、ゲイン=1V/V、出力データレート(ODR)=20SPS

 PSRRDCを測定するために、ADCメーカーはデバイスの入力同士を短絡させ、それを通常は中間電圧に近い同相モード電圧(VCM)にバイアスして、ADCの出力でオフセット電圧を測定します。次に、電源電圧を100mVだけ変化させて、オフセット電圧がどれくらい変化するかを確認します。図3は、標準的なPSRRDC測定構成です。追加の100mVオフセット電圧を赤で示しています。

図3 図3:AVDDに±100mVオフセットを使用するPSRRDC測定構成

 図2に示すように、ADS1261の標準PSRRDCは、アナログ電源であるAVDDでは100dBです。式1のPSRRに−100dB、ΔVSUPPLYに100mVを代入し、ΔVOUTを求めると、予測されるオフセットの変化を計算できます。式1から、AVDDが100mV変化すると、ADC出力のオフセット電圧に1µVの変化が生じます。

 図4は、電源の変化による出力オフセット電圧の変動を時間ドメインで示したものです。出力オフセット電圧の振幅は、図2と同じ条件を使って規定された、ADS1261の公称オフセット電圧である50µVを中心としています。

図4 図4:「ADS1261」を使用した場合に、AVDDの100mVの変化によるオフセット電圧の変化

 それと比べて、振動監視といった広帯域アプリケーションは信号通過帯域が広くなくてはならず、そのために帯域幅が高いADCが必要になります。そのようなADCは不要な高周波数成分が多くなる傾向があり、これは対象の信号帯域幅に折り返すか直接入り込みます。このような理由から、広帯域ADCでは、PSRRACを使ってPSRを規定するのが一般的です。図5は、最大512kSPSのサンプリングが可能な24ビット、高速デルタシグマADC「ADS127L01」(TI製)のPSRR仕様を示しています。

図5 図5:「ADS127L01」のPSRR仕様。TA=25℃、AVDD=3V、内部LVDD、DVDD=1.8V、VREF=2.5V

 PSRRACの測定構成は、ADCの入力同士が短絡され、次に中間電圧の同相モード電圧にバイアスされるという点で、PSRRDCの場合とよく似ています。ただし、電源にDCオフセットをかける代わりに、公称DC電源にAC信号を乗せてPSRRACを測定します。このAC信号は、特定の周波数(例えば、図5の60Hz送電線周波数)でのノイズを模しています。

 図6は、標準的なPSRRAC測定構成です。ADCのアナログ電源であるAVDDに100mVP正弦波が乗っています。電源電圧が3Vの場合は、3VのDCオフセットと100mVPeakの正弦波を使用するように図6のテスト構成を作り変えます。

図6 図6:100mVP正弦波を使用するPSRRAC測定構成

 時間ドメインでPSRRACを計算するには、PSRRDCを求めたときと同じく式1を使用します。電源リップル(ΔVSUPPLY)として100mVPの振幅と、図5から得られるADS127L01のAVDD(−90dB)を使用すると、60HzのときADC出力に3.2µVPのスイッチングリップルが現れることが予想できます。図7に、電源のリップルと、それにより出力に現れる、ADCの公称オフセット電圧を中心とする同様なリップルを示します。

図7 図7:「ADS127L01」を使用した場合に、100mVPの電源リップルによりADC出力に現れるノイズ

 ADCのリファレンス電圧を使用して100mVPの電源リップルをデシベルに変換することで、周波数ドメインでもPSRRACを計算できます。図5に示される2.5Vのリファレンス電圧を使用すると、100mVPは−28dBFS(フルスケールに対するデシベル)に相当します。この場合のPSRRACは、電源リップル周波数(60Hz)で現れる、周波数スペクトルで測定されるトーンと、電源リップル振幅との差(デシベル単位)です。図8は、電源リップル振幅とADC出力に現れるノイズの両方をプロットしたものです。ここでは、その周波数でのADCのPSRRが直接それらの差になっています。

図8 図8.周波数ドメインでの『ADS127L01』のPSRRAC

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