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DC-DCコンバーターの信頼性(2)環境ストレス要因とMTBF値の使用DC-DCコンバーター活用講座(31)(1/3 ページ)

前回に引き続き、DC-DCコンバーターの信頼性に関して説明していきます。今回は、「環境ストレス要因」「MTBF値の使用」などについて解説します。

» 2020年02月28日 11時00分 公開

環境ストレス要因

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 MIL-HDBK-217に記載されているのは、一般的な軍事アプリケーションに基づく信頼性モデルです。DC-DCコンバーターを使うかどうかは、そのアプリケーションの信頼性に大きな影響を及ぼします。例えば、コンバーターが船舶に搭載されるのなら、たとえ乾燥したところで使われるとしても、塩分の強い空気の腐食効果のために、コンバーターの寿命は短くなるでしょう。

 例えば、データシートにDC-DCコンバーターのMTBFが100万時間(GB環境において)と記載されていた場合、もし携帯機器に使われるとしたら、約61万時間に「ディレーティング」する必要があるでしょう。なぜなら、たたいたりぶつけたり、温度が急変したりと、携帯機器にありがちな環境ストレスが加わることを考慮する必要があるためです。

 MIL-HDBK-217の解析結果の中で驚くことの1つは、おそらく、宇宙飛行が陸上と同じくらい安定した環境であるということでしょう。衛星または宇宙船の中では、環境条件が注意深く制御されているので振動もなければ大気汚染もなく、そのため電子機器の寿命は理論上は大変長くなります。しかし実際は、宇宙線が半導体基板を貫通し、故障を引き起こします。

表1:MIL-HDBK-217によるアプリケーションの分類
環境 πE記号 MIL-HDBK-271F説明 民生分野での例
陸上
安定
GB 移動がなく、温度および湿度の管理された環境で保全が容易 研究所設備、 試験用計測器類、デスクトトップPC、固定通信機器
陸上
移動性
GM 車輪またはキャタピラのついた乗り物に取り付けられた装置および、人手で運ばれる装置 車載計器類、携帯無線、通信機器、携帯PC

保護あり
NS 水上船のシェルター内またはデッキ下の装置、あるいは潜水艦内の装置 ナビゲーション、無線装置、デッキ下の計器類
航空
居住用
貨物
AIC 航空機乗務員が使用できるような
貨物室の一般的な環境
気密キャビン室、コックピット、機内娯楽機器、安全性が特に重要ではないアプリケーション
宇宙
飛行
SF 地球軌道上
動力飛行も大気圏突入もしない乗り物
軌道上通信衛星
現場で一度だけ動かす装置
ミサイル
発射
ML ミサイル発射に関連する過酷な環境 過酷な振動性衝撃と発射非常に高い加速力、衛星発射環境
出典:RECOM

 最終的なアプリケーションが分かっていれば、MTBF計算時の補正率は、陸上・安定(GB)を基準環境ストレスとした場合を1とすると、下記の表のようになります。

表2:環境別MTBF補正率
環境 πE記号 πE 除数
陸上・安定 GB 0.5 1.00
陸上・移動性 GM 4.0 1.64
海上・シェルターあり GNS 4.0 1.64
航空居住用貨物 AIC 4.0 1.64
宇宙飛行 SF 0.5 1.00
ミサイル発射 ML 12.0 3.09
出典:RECOM

 DC-DCコンバーターを、高エネルギー放射に対して保護された「耐放射線」部品で作ることはできますが、それよりもICを一切使わずに、より単純な回路を使うほうがはるかに信頼性が高くなることがよくあります。FETは宇宙線にさらされてかなりの損傷を受けても、それに耐えることができます。なぜなら、基板表面が相対的に大きく、点欠陥に対して耐性があるからです。そのため、ディスクリート部品だけを使った単純なプッシュプルDC-DCコンバーターは、多くの場合、宇宙アプリケーションに適しています。

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