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» 2020年04月06日 10時00分 公開

アナログ回路設計講座(33):5Gがさまざまな産業分野のミリ波技術を推進

5G(第5世代移動通信)システムでは、さまざまな産業で長年にわたり研究されてきたミリ波技術の成果が生かされている。本稿ではそうした技術がどのようなものか解説するとともに、こうしたミリ波技術の5Gへの応用を可能にするアナログ・デバイセズの技術の例を紹介する。

[PR/EDN Japan]
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 今日、世界のテクノロジーは、問題を解決し性能向上を図るために、より高い周波数域へと向けられています。通信や防衛など、数多くの産業分野における極めて困難な要求を解決するものとして期待されているのが、ここに示すミリ波帯の周波数です。5G(第5世代移動通信)システムには、防衛産業の企業が同様のニーズを持つさまざまなアプリケーションについて研究してきた長年の成果が生かされています。通信リンクにおいては、常に既存技術より高いデータレートが求められており、ソリューションは28GHz帯と39GHz帯へ移行しつつあります。

 高周波数域のIC開発が進められた結果、軍が戦場において取り組むべき技術の数が増加しています。海上に取り残された隊員の救助といった防衛用アプリケーションでは、より明確に物体を識別できる高周波レーダーの分解能向上が大きな利点になります。さらに、電気通信用に設計された多くのICは、容易に展開できるように、低コストで量産に適したものでなければなりません。これらすべての取り組みには、そのソリューションがアプリケーションの要求をすべて満たすことを確認するためのテスト装置が必要になります。

 本稿では、いかに多くの産業が共有技術に貢献しているか、また、それらの技術に対応しているかについて、その概要を示します。また、ICサプライチェーン自体と、ICサプライチェーンがこれらの新しい要求にどのように対応しているのかについて検討します。さらに、ミリ波帯が今日の課題をどのように解決するのかを示し、これを可能にするアナログ・デバイセズの技術の例を紹介します。

ワイヤレスエレクトロニクスが織り成す世界

 産業界においては、別の産業用のアプリケーションとして開発された技術の恩恵を受けることが多々あります。電子レンジの発明は、レーダーの研究をしていたエンジニアが、テスト中に自分の昼食が溶けてしまったことに気付いたことが発端だと言われています。現在、5Gにおいてこれと同じことが起きており、防衛産業がフェーズドアレイアンテナで生み出した利点を生かそうという努力が続けられています。将来的には、5Gの進歩によって今度は防衛産業が新しい技術を実現し、両者の間に循環的な関係が生まれる可能性が十分にあります。

 同様に、衛星通信分野では、対地同期赤道上軌道(GEO)衛星、つまり静止衛星の概念を離れ、より高いデータスループットとより広い通信可能領域を実現する低地球軌道(LEO)衛星の研究を進めることによって、技術の移行が進みつつあります。これは、1つまたは多くて数個のGEO衛星を地球軌道に投入するという概念から、所定のネットワークに対し場合によっては数千個の衛星を投入するという概念へ移行するものです。現在では、広帯域インターネット用に数多くの事業者が新しいLEO衛星群の製造を試みていますが、これらの衛星の供給を競っている企業の多くは、防衛用の情報収集および通信に不可欠なGEO衛星群を完成させたのと同じ防衛産業企業です。

 異なる目的で開発された技術の利点を活用するというこのサイクルは、さまざまな市場で見られるようになっており、これは今後も続くものと思われます。以下では、ミリ波周波数が、なぜ防衛分野と通信分野両方の助けとなるのかを考えてみます。

高い周波数が高いデータレートと広い通信帯域幅を実現

 過去20年間でモバイル通信が急速に普及する中、絶えずより高いデータレートが求められてきました。数年ごとに新たなワイヤレス規格が導入され、それによってデータスループットを増やすための新たなプロトコルが定められてきたのです。これらのスループットの改善は、その多くが、複数の情報を同時に伝送できる、より高度な変調方式に関連付けられています。変調方式がより高度になるのに伴い、より多くのデータを伝送できるようになります。しかし、変調方式をいくら複雑にしても、やがてはスループットの大幅な向上は望めなくなってしまいます。したがって、信号を変調する一般的な方法は、搬送波周波数周辺の周波数範囲に信号を拡散することです。結果として、スループットを改善するもう1つの方法は、変調信号をより広い周波数範囲に拡散することによって、その帯域幅(FBW)を広げることです。信号を拡散できる量を継続的に増加させるには、範囲がDC未満にならないよう搬送波周波数(FC)を高くする必要があります。より高い周波数を使用することによって、より多くのデータを同時に送信可能にするこの方法によって、アプリケーションもミリ波帯へ移行しつつあります。

5Gが電子戦に及ぼす影響

 今日の軍事的紛争には電子技術が多用される傾向にあり、電子戦という概念がよく聞かれるようになっています。その重要な要素の1つがレーダーで、これは信号を送ってその反射を待ち、レーダー到達範囲のマップを作成するものです。レーダーシステムは過去100年以上にわたって発達してきた技術で、その主な利点は、人間が見ることのできる範囲をはるかに超えて物体を検知し、その位置を把握できることです。これにより、レーダーを運用する側は、レーダーを持たない敵よりもはるかに優位に立つことができます。

 このような理由から、レーダー技術は長きにわたって継続的に発展を遂げてきました。その結果、今日では日々の天気予報や航空交通管制をはじめ、自動車産業において車体と障害物間の距離測定にレーダーを用いるなど、新しい用途にも広くレーダーが使われるようになっています。UHFやVHFを使用する従来型の低周波レーダーシステムは、非常に長い距離をカバーする早期検知レーダーとして使われてきました。高速の航空機では、分解能が高くアンテナが小さくて済むXバンドの周波数(8GHz〜12GHz)が多用されます。ミサイル使用時の誘導および照準用としてジェット戦闘機に使われるレーダーシステムの多くは、Kaバンドの周波数(33GHz〜37GHz)で動作します。

 現在は、各種兵器やミサイルの誘導用として94GHz帯の開発が盛んになっています。レーダーシステムがより高い周波数帯へ移行することには複数の利点がありますが、物体識別能力に関する特性評価の助けとなる距離分解能や角度分解能に着目すると、その利点が理解できます。高周波数への移行の第一の利点は、同じ角度分解能でアンテナサイズを小型化できることであり、これは小さい兵器にも組み込めるという点で重要です。別の見方をすると、周波数を高くすれば、同じアンテナサイズで角度分解能を向上できるということです。レーダーの距離分解能は変調帯域幅に比例し、既に述べたように、周波数を高くすればそれだけ分解能も向上します。したがって、アプリケーションがより高い分解能を必要としている場合は、より高い周波数への移行が有効です。

図1:搬送波周波数を中心とする変調帯域幅

 従来、各企業は防衛用の電子戦システムに2GHz〜18GHzの帯域を使用してきました。この帯域はS、C、X、Kuバンドのレーダーをカバーします。脅威の範囲が広がるにつれて、これを監視し、最終的には対処するための電子機器も広がりを見せています。28GHzと39GHzで動作する5G機器は、ミサイル誘導に使われる既存のKaバンド周波数に近いものとなっています。結果として、電子戦システムに関する新たな要求事項は、24GHz〜44GHzの5G周波数をカバーする範囲まで広がるものと見込まれ、これらの周波数で使用可能で、防衛用途への転用が検討されるような電子機器が増加すると思われます。ほとんどの場合、電子戦の主な役割は、脅威を監視し、こちらが発見されないようにしながら、それらの脅威に対して電子的な妨害を加えることにあります。脅威はさまざまな周波数でもたらされる可能性があるので、監視装置と、それに続いて使われることになる妨害装置は、広い動作周波数範囲に対応できる必要があります。

 長年にわたり防衛用に使われてきた重要技術は5Gに望ましいものとなっています。フェーズドアレイアンテナの技術は、そのいくつかの特徴から5Gにとって望ましいものですが、それらの特徴は防衛産業にとっても貴重です。これらの重要属性には、複数のデータストリームや放射パターンを送信できる能力が含まれます。これは、防衛用途においてはジェット戦闘機が複数目標を同時に追尾することを可能にし、5Gにおいては複数ユーザに同時にデータを送信することを可能にします。同様に、防衛用途では、エネルギーを一方向に指向して、検知や妨害の可能性を低く抑えることのできるビームが必要とされます。電気通信では、これらのビームによって、情報をより効率的にユーザへ送ることができるので、消費電力が少ないという利点が得られます。

 また、どちらの用途でも、ほぼ瞬時にビーム配置を変更できることは大きな利点になります。通信産業と防衛産業の両方にとって利点となることはこの他にも多数あり、それがこの技術を魅力的なものにしています。

5GがICに及ぼす影響

 今日の世界はモバイル通信に大きく依存しています。この5Gセルラーインフラストラクチャを支える先進技術は、図2に示すように、多くの通信機器プロバイダとそのICベースのサプライチェーンにとって大きな成長分野となります。この大幅な成長の機会は、これらの次世代製品を実現するために数百万ドル、あるいは恐らく数十億ドルに達する投資を引き出してきました。これらのシステムを作り上げる中心的コンポーネントが、ネットワークを通じてデータを転送するICです。図2に示すように、ICサプライチェーンの各側面で変化と発展が続けられています。このような製品の最終テストソリューションにファウンドリプロセスが使用可能であることをはじめ、これらの製品を支える技術に大幅な革新が実現されています。

図2:5G ICサプライチェーン

 ウエハー製造サービスを提供するさまざまな半導体ファウンドリはIC用の素材を製造しており、常に革新を続けています。多くのファウンドリが、この5G技術に挑戦し実現する新しいプロセス技術を開発してきました。このような改善の一例としては、電子ビームリソグラフィよりコスト効果の高いフォトリソグラフィへの移行を挙げることができます。もう1つの利点は、価格が重視されるこの市場で競合できるように、1つのプロセスノードに新しい機能を組み込めることです。

 IC設計は、新しいプロセス技術の登場に伴って進歩します。1つのプロセスノードで新しい機能が使用できるようになると、IC設計者は、複数の特定機能を組み合わせて1つの製品に組み込んだり、それまでよりも高い性能をコアトランジスタから引き出したりできるようになります。これらのトレンドは、最終的には、より集積度が高く展開も容易なチップの製造を可能にします。ミリ波帯への拡張に伴ってパッケージングのコスト低減という利点が得られることも魅力的な点で、これによってアセンブリも容易になります。従来のミリ波帯の防衛用アセンブリはチップアンドワイヤアセンブリで、これは、小さい金属性ハウジング内でチップとワイヤを互いにボンディング接続するという形をとります。これは量産向きのアセンブリ方法ではなく、多くの場合は表面実装によるアセンブリ手法より高価になります。過去にこの手法が採用される背景となっていたのは、サイズ上の制約でした。しかし、集積度の向上によるパッケージの小型化と性能向上により、表面実装によるアセンブリがより魅力的な選択肢となりました。

 無線テストのようなテストソリューションが、28GHzと39GHzのフェーズドアレイアンテナ用、およびそのIC用として現実的なものとなってきました。これまで、フェーズドアレイアンテナのテストには多くの場合、電波暗室が必要でしたが、これには大がかりで設置が難しく、費用もかかるなどの欠点がありました。現在ではこれらのテストソリューションがはるかに安価で小型なものとなり、既製品として入手できるようになっています。これにより、最終製品の計測のために多額の投資を行うことなく、フルアンテナソリューションを提供できるベンダーの数が大幅に増加しました。フェーズドアレイアンテナは防衛関連企業や大学だけが研究可能であった技術から派生したものですが、今や業界の主流をなす技術となりつつあります。このことは、5Gの新たな機会をうかがう電気通信メーカーがこの新しい技術を利用することを可能にするだけでなく、防衛上の新たな脅威への備えを強化することにもなります。これまでは経験の少ないアンテナエンジニアにとって難しい問題であったことも、今では、標準計測機器のベンダーが提供する既成の正確な計測技術によって、より迅速に解決することができます。

 その結果、通信アプリケーションや防衛アプリケーションに展開可能なミリ波製品が、より多く出回るようになっています。セルラーインフラストラクチャに使われている製品が、防衛産業や計測器産業に必要とされる製品に近い仕様と機能を備えていることも珍しくありません。このような、即座に利用できるICやテストソリューションの成長が、最終製品完成までに要する時間の短縮を可能にし、防衛産業用ミリ波帯における脅威のレベルを低下させています。

アナログ・デバイセズ製品により複数産業が5Gの効果を実感

 アナログ・デバイセズは、5G用ソリューションの開発に多額の投資を行ってきましたが、同時に、その影響が予想される計測器産業と防衛産業に対しても投資を行ってきました。電気通信市場向けの製品は帯域幅が狭くなる傾向にあり、性能も容易に最適化できるようになっています。防衛産業の場合は脅威となり得る周波数が複数あり、事前にその情報を得ることができないため、多くの場合、広帯域ソリューションが求められます。

28GHzの5Gインフラストラクチャで使われるパワーアンプの一例がHMC863ALC4で、このデバイスは24GHz〜29.5GHzをカバーし、0.5Wを超えるRF電力を出力します。このPAは44mmの表面実装パッケージで提供され、40dBm近い3次インターセプト(TOI)性能を備えています。性能曲線を図3に示します。

図3:HMC863Aの測定ゲイン(左)とOIP3(右)の周波数特性

 さらにアナログ・デバイセズは、20GHz〜44GHzをカバーするADPA7005などの防衛および計測器市場向けソリューションも開発しています。ADPA7005は1オクターブを超える動作帯域幅をサポートし、帯域全体を通じて1Wを超える飽和出力電力を提供します。ゲインは全周波数域を通じて公称15dBで安定しているので、完成システムに容易に組み込むことができます。また、40dBmを超える高いTOIは、高度に変調された入力信号の測定や生成に最適です。TOIおよび飽和電力の性能曲線を図4に示します。

図4:ADPA7005の測定飽和電力(左)とOIP3(右)の周波数特性

 電気通信ネットワークの進歩は周辺産業の対応を促してきましたが、その結果は今後数年間で明らかになるでしょう。この変化の中心にあるのがより多くの情報に対するニーズであり、この情報は、物体を物理的に破壊することのない新たな兵器を生み出すためのデータとしての形をとります。今日、世界中のアプリケーションは、より高い周波数へと移行しつつあります。そして、このことは今、始まったばかりなのです。

著:Keith Benson

 Keith Bensonは、2002年にマサチューセッツ大学アマースト校で電子工学の学士号を取得しました。また、2004年にはカリフォルニア大学サンタバーバラ校で電子工学の修士号を取得しています。Hittite Microwaveにおいて、RF対応のエレクトロニクスで使用されるICの設計に長く携わりました。その後、無線通信リンクを対象にしたIC設計チームを管理する役職に就きました。2014年にアナログ・デバイセズがHittite Microwaveを買収したことに伴い、アナログ・デバイセズのRF/マイクロ波アンプとフェーズドアレイICの製品ラインを担当するディレクタの職に就きました。アンプ技術に関する3件の米国特許を保有しています。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年5月19日







































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