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車載情報ネットワークをシンプルにする新規格「INICnet」とはオーディオ、動画を1本のケーブルで

INICnetテクノロジを使うと、ハードウェアとソフトウェアを追加せずに複数のオーディオおよびビデオチャンネルを並列、高品質、低レイテンシで伝送できる。加えて、Ethernet/IPチャンネルによりOTA(Over The Air)を含むソフトウェアのダウンロードと診断を可能にする。さらに、車載ネットワークの他の部分とのシームレスな接続を可能にする。しかし、既に各種規格が混在する車載ネットワークに、なぜ新たなオープン規格が必要なのか――。INICnetを解説する。

» 2020年05月20日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 車載業界は長年にわたり、車両内で使われる各種ネットワークテクノロジの統合に取り組んできました。その目標は、車載の他の領域で既に実績のあるEthernet技術を使って「単一テクノロジによるネットワーク」を実現することです。このアプローチは車載ネットワークの多くの課題を解決しますが、インフォテインメント、オーディオ、音響機能などのアプリケーションにおいて新たな課題を生じさせます。特に、オーディオ信号の伝送が大きな課題で、高価なハードウェアおよびソフトウェアコンポーネントが多数必要です。これらのコンポーネントは複雑かつ高価であり開発リスク、コスト、開発期間に影響します。

 INICnetテクノロジを使うと、ハードウェアとソフトウェアを追加せずに複数のオーディオおよびビデオチャンネルを並列、高品質、低レイテンシで伝送できます。加えて、Ethernet/IPチャンネルによりOTA(Over The Air)を含むソフトウェアのダウンロードと診断を可能にします。さらに、車載ネットワークの他の部分とのシームレスな接続を可能にします。

 しかし、既に各種規格が混在する車載ネットワークに、なぜ新たなオープン規格が必要なのでしょうか。

 その答えは、今日の車載業界の課題を分析すれば分かります。急速に変化するコンシューマ製品のライフサイクルに対応しつつコストを削減するために、業界はさらなる技術革新を推し進めています。この課題の中心が車載エレクトロニクスです。図1に示す通り、車載エレクトロニクスが車両全体のコストに占める割合は急速に増大しており、3つのメガトレンド(運転者支援、自動運転、コネクティビティ)により今後も増大を続けると予測されます。

図1:車載エレクトロニクスが車両全体のコストに占める割合の推移

 このトレンドにより、車載ネットワーク内のコンポーネントの数と、それらの間で交換されるデータの量は、ますます増大を続けます。これは、従来の車載ネットワークにとって新たな負荷となります。従来のネットワークは、通信の帯域幅およびリアルタイム要件に応じて複数のデータタイプを処理するドメインベースネットワーク(CAN、Flexray、LIN、MOSTなど)でした。このため、ドメインベースアーキテクチャからバックボーンアプローチ(UTPケーブルを使う高速Ethernetバックボーン)への置き換えが進みつつあります。

 Ethernetは成熟した低コストの技術であり、その優位性は市場で十分に示されています。UTPケーブルは新型車の開発コスト、プロジェクトリスクの低減、開発期間の短縮に役立ちます。しかし、車載ネットワーク内の一部のデータは元々パケットデータではありません。

 そのようなデータの例としてインフォテインメントシステム、アクティブノイズキャンセレーション(ANC)などの音響アプリケーション、乗員間の会話などのオーディオデータがあります。Ethernetネットワークを使ってこの種のアプリケーションを実装する場合、オーディオアプリケーションの全ての要件(同期、低レイテンシ、信頼性など)を満たすためにAVB(Audio Video Bridging)などの特別な規格を使う必要がありますが、ソフトウェアでの実装は非常に複雑であり、ネットワークの処理だけでも高い処理能力が要求されてしまいます。そのために高性能のマイクロコントローラで複雑なソフトウェアスタックを実装したのでは、ネットワーク統合の利点が相殺されてしまいます。

 では、実装コストを抑えながらオーディオ、音響、インフォテインメント向けのネットワークを展開するにはどうしたらよいのでしょうか。

 この答えがINICnetテクノロジです。INICnetテクノロジは2021年にオープンISO規格となる予定であり、高品質サービスのオーディオ/ビデオチャンネルをサポートします。それらのチャンネルは、INICnet ICまたはリーンソフトウェアにより管理されます。したがって、ネットワーク上のトラフィックを処理するための開発工数は不要です。INICnetテクノロジは、UTPまたは同軸ケーブルを物理層として使いまず。各ノードは一意のMACアドレスを有するためEthernetと互換です。さらに、Ethernet関連の全メカニズム、アドレス指定モード、パケットサイズをサポートします。

図2:INICnetテクノロジとEthernetの共存

 INICnetテクノロジには2つの速度グレード(50Mbpsまたは150Mbps)があり、帯域幅効率は95%超です。どちらの速度グレードもリング型およびデイジーチェーン型トポロジをサポートします。50MbpsではUTPケーブル、150Mbpsは同軸ケーブルをサポートします。

 INICnetテクノロジはファンタム電源をサポートし、トリガケーブルなしで包括的な診断機能を提供できます。図2に、INICnetテクノロジとEthernetネットワークが共存する様子を示しました。このネットワークアーキテクチャの利点は、INICnetテクノロジがオーディオ/ビデオデータをネイティブフォーマットで処理できるため、複雑なデータ変換やネットワークタスクに煩わされることなくアプリケーションの開発に集中できる点です。もう1つの利点は、INICnetテクノロジはネイティブEthernetパケットをサポートしているため、ヘッドユニットなどのINICnetデバイスから車載バックボーンに接続し、OTAによる高速なファームウェア更新を実行できる点です。各INICnetデバイスはMACアドレスで直接アドレス指定できるため、ヘッドユニットにゲートウェイ機能は不要です。

 INICnetテクノロジのEthernetチャンネルは、ISO/OSIモデルの最初の2つの層だけをカバーします(図3)。したがって、より上層からは完全に抽象化でき、他のテクノロジ向けに書かれたソフトウェアは、ドライバの更新後に再利用できます。現在、LinuxとQNX向けのドライバがあり、INICnetデバイスと組み合わせて使えます。これによりINICnetテクノロジのEthernetチャンネルは既存のIPベースシステムに透過的に統合できます。このため開発エンジニアは下層のネットワークテクノロジのことを気にする必要はありません。

図3:ISO/OSIモデル内のINICnetテクノロジ

 Microchip社はANC、車内加速音生成、ロードノイズキャンセル、緊急通報システム(eCall)などの低レイテンシアプリケーション向け製品ファミリを提供しています(図4)。INICnet ICはネットワークのマスタとしてもスレーブとして構成できます。例えば、自動車事故でネットワークが損傷しても、動作モードを自動的に変更して緊急通報(eCall)を可能にします。

図4:Microchip社が提供する低レイテンシアプリケーション向け製品ファミリ

 INICnetテクノロジのネットワークリソース管理とネットワーク設定は、Microchip社のUNICENS(Unified Centralized Network Stack)がサポートします。その他のシステム管理機能(デバイス制御など)は、SOME/IPスタックなどの既存のIPスタック、その他のRPC(Remote Procedure Call)テクニックによりサポート可能です。UNICENSはオープンソース アプリケーションであり、無償で使用できます。UNICENSを使うと、1つのデバイスからネットワーク全体を設定できます。さらに、マイクロコントローラを必要としないデバイス(マイクロフォンノード)などの実装を可能にします。スマートアンテナのようにネットワーク内でEthernetトラフィックのみを扱うノードは、ネットワークソフトウェアを必要としません。また、生成されるデータがネイティブEthernetである場合、マイクロコントローラなしでノードを設計することもできます。

 既に市場ではINICnetテクノロジの利点が理解されています。2018年、OEMによってこのテクノロジが採用され、2020年には生産開始予定です。既に世界中のOEMとTier 1がこのテクノロジの評価を始め、その技術的利点を活用するためMicrochip社のエキスパートと一緒に取り組んでいます。

 INICnetテクノロジの詳細はMicrochip社、正規代理店、またはINICnet@microchip.comにメールでお問い合わせください。

著者

Carmelo De Mola

Manager Sales & Marketing, Microchip Technology Inc; K2 GmbH & Co.KG.


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提供:マイクロチップ・テクノロジー・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年6月19日

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