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» 2020年07月29日 11時00分 公開

ワイヤレス通信の基礎:アンテナ設計とネットワークとの整合性を理解する (2/2)

[Asem Elshimi(Silicon Labs),EDN Japan]
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変調技術

 アンテナを小型化するには信号を高周波にする必要があり、信号の変調がこれに相当する。変調とは、低周波信号をエンコードして送信可能な高周波信号にすることである。簡単に変調を行うには、低周波の信号に高周波のキャリア(搬送波)を乗じるのも一つの方法だ。結果として得られるのが振幅変調(AM:Amplitude Modulation)信号で、ラジオのAM放送とはまさしくこのことである。

 Bluetoothの場合、キャリア周波数は2.4GHzで、アンテナ寸法を2cmまで小型化できる。これがアンテナを見かけなくなった理由の一つだ。つまりアンテナが小型化され、電子機器の中に組み込まれるようになったのである。

図5 変調とは低周波の情報信号を送信可能な高周波信号にエンコードすること

 ここまで変調の仕組みを説明してきた。続いて、現代の電波工学が生み出したもう一つの大きな利点である通信の“共存”について説明しよう。

 1990年代、子供だった筆者は、携帯電話で父親と姉が同時に会話できるのを見て、「なぜ互いの声が邪魔にならないのだろうか」と不思議に思っていた。実は、携帯電話やワイヤレスの電子機器は変調技術によって、この問題を回避しているのである。

 周波数スペクトルは、電波工学でチャネルと呼ばれる小さな帯域幅に分けられる。Bluetooth通信で2つのノード(他のどんな通信規格でも同様だが)がリンクを確立しようとする場合、通信に使用するチャネルを必ず選択する(図6)。それから、全てのビット(0と1の集合)をチャネルの周波数帯に属するキャリアに変調する。ここで、もし別のBluetoothリンクがすぐ近くに確立されたとしても、両者はスペクトル空間で直交するため、最初のリンクに問題は起こらない。それぞれのリンクは異なるキャリア周波数で通信しているため、該当チャネルに割り当てられた特定のキャリア周波数を復調するだけで、そのリンクの通信情報をデコードすることが可能だ。

図6 Bluetoothは通信リンクの独立を維持するために多数の周波数チャネルを使用

 全体像を把握するため、もう少し考察してみたい。変調された2.4GHzのキャリアと、Bluetoothチャネルを介して送信したい情報があるとする。加えて、50Ωの電磁波を取り込み、自由空間を伝搬する377Ωの電磁波に変換できる5mmの小型アンテナがあるとしよう。

 2.4GHzのキャリア信号はチップ上で生成されるため、低電力の信号だ。そこで低電力の信号を高電力に変換する必要があるが、これにはパワーアンプ(PA)を使用する(ここで言う低電力とは数マイクロワット、高電力とは数ミリワットを意味している。当然ながら、このオーダーの電力は、電力系統のエンジニアが扱うキロワット単位の信号と比較すると、ノイズと見なされる)。

 では、アンテナ設計の品質向上に役立つ、考慮すべき実用的なポイントを以下に示したい。

【1】高性能なアンテナ利得と到達距離が必要とされているため、完璧なアンテナ寸法を求めるニーズが高まっているが、どのようなソリューションを用いるかによって高性能の基準は変わる。例えばBluetoothマウスの場合、動作範囲は50cm以内、データレートは5kbps(低データレート)である。つまり、ワイヤレスマウスに必要なアンテナはλ/2よりかなり小さくなる可能性がある。アンテナのサイズが小さいと、到達距離を妥協することになり、その時点で完璧な整合素子ではないが、機器がわずかな量の電磁エネルギーを空間に放射するとしても問題にはならない。

【2】λ/2は理論的に理想のアンテナサイズだが、λ/4にスケールダウンしてフォームファクターを小型化することは可能だ。これは、グランドプレーンをλ/4アンテナの下に統合することで実現できる。結像理論と電磁気学を用いると、グランドプレーンを備えたλ/4アンテナは、λ/2アンテナと同じように動作することが分かる。

【3】一般的な経験則から、グランドプレーンは十分に広く、途切れていない設計にする必要がある。

【4】最終製品のプラスチックエンクロージャについても慎重に検討する必要がある。プラスチックの誘電率は空気より高いので、波動インピーダンスも異なる。そのため、プラスチックに囲まれると、空間に理想的な放射ができるように設計されたアンテナでも性能が低下する場合がある。エンクロージャにどの程度スペースがあるかによるが、アンテナ近傍の力学に影響が及ぶことがあり、さらに性能が悪化する可能性もある。

【5】アンテナフィードには十分注意する必要がある。アンテナフィードは、デバイスから信号を拾い、それを整合性のとれた状態でアンテナに誘導する役割を担っている。アンテナフィードは帯域幅に直接影響し、全体的な設計の信頼性にも関わる。

整合回路

 ここからは整合回路に注目してみよう。整合とは本質的にエネルギーの変換だ。PAを使って高エネルギーの電磁波を発生させる場合、電磁波の波動インピーダンスはある特定の値になる。ところが(チップとアンテナの間にある全てのコネクター、配線も含めて)標準的なアンテナの波動インピーダンスは50Ωである。そのため、エネルギーを効率よく伝搬するには、PAから出る電磁波を確実に50Ωに変換する必要がある。これを行うのが整合回路だ。

 整合回路は、流体力学に似ている。子供のころ、ホースの水で遊んだことがある人も多いのではないだろうか。ホースの口を絞ると水圧が上昇し、水が勢いよく噴き出す。水流の断面積が減少すると、流速が速くなるという流体力学の理論に基づく現象だ。流体力学における断面積と電気力学の波動インピーダンスには類似性があり、整合回路の機能は、ホースの口を絞ることによく似ている(図7)。

図7 ホースの出口を絞ることで水が勢いよく噴き出すのは、電磁エネルギーの送信量を増大させる整合回路の機能に似ている

【著者】Asem Elshimi氏:Silicon Labs IoTワイヤレスソリューション担当RFIC設計エンジニア



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