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ePRTCで実現する5Gインフラの高信頼/高精度な時刻同期脆弱なGNSSへの依存を軽減

移動体通信事業者は第5世代移動通信(5G)ネットワークにおいて時刻と位相を高い精度で維持することを要求しますが、GNSS(全球測位衛星システム)に依存したままでは達成できません。ePRTC(Enhanced Primary Reference Time Clock)は、時刻同期維持(ホールドオーバー)機能により、この問題を解消するために必要な精度、信頼性、性能を提供し、移動体通信事業者の不安を取り除きます。本稿では、ePRTCを効果的に展開する方法を解説します。

» 2020年11月16日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 移動体通信事業者は第5世代移動通信(5G)ネットワークにおいて時刻と位相を高い精度で維持することを要求しますが、GNSS(全球測位衛星システム)に依存したままこれを達成することは困難です。なぜならGNSSはジャミング(電波妨害)またはスプーフィング(なりすまし)といった攻撃や自然現象による長時間の信号の途絶に対して脆弱(ぜいじゃく)だからです。ePRTC(Enhanced Primary Reference Time Clock)は、時刻同期維持(ホールドオーバー)機能により、この問題を解消するために必要な精度、信頼性、性能を提供し、移動体通信事業者の不安を取り除きます。ePRTCを効果的に展開するには、正確な時刻を維持可能なロバストかつレジリエントなアーキテクチャを構築するために必要な重要エレメント(ネットワーク事業者の要求を満たす最適なクロックおよび関連システムなど)について深く理解する必要があります。

5G動作の維持

 以下では、場所を選ばずに動画データを瞬く間にダウンロードできる高密度な5Gサービスを提供可能な非常に高速な移動体ネットワークを想定します。そのようなネットワークサービスが突然途切れるようなことがあれば、通信事業者は評判を落とし、契約ユーザーを失うでしょう。GNSS信号の途絶中にそのような事態が発生しかねません。

 移動体通信事業者と米国の重要インフラストラクチャ保護に携わるチームは、GNSSのバックアップを提供するかGNSSへの全体的な依存度を軽減するための各種方策を検討してきました。現在普及している無線通信技術の大部分は、例え最近の3Gまたは4G移動体ネットワークであっても、周波数ベースの同期方式を採用しています。この方式は業界で熟知され、幅広く用いられており、非常に実用的です。5Gの出現により、移動体通信業者が投資してきた貴重な帯域を最大限に活用するには、非常に高い精度の時刻と位相が求められます。データコリジョンと周波数干渉を防ぐことは極めて重要ですが、ガードバンドを最小にして帯域の使用効率を高めることも必要です。これは高精度のタイミングにより可能になります。

 このレベルの精度を確保するには、主としてGNSSから提供されるタイムソース(時刻源)が必要です。しかし、5Gのネットワーク高密度化により、もはやこれのみに頼ることはできません。高品質のホールドオーバー用発振器を備えていない無線機またはベースステーションは、GNSS信号を失った時に、干渉問題を避けるために速やかにサービスから切り離す必要があります。以上の技術的背景により、ベースステーションの時刻同期はGNSSへの依存度を弱め、PTP(Precise Time Protocol)アーキテクチャへと移行しました。移動体通信事業者は、GNSSを使う状況を最小限に抑える一方で、GNSS信号の途絶中もユーザーへのサービスを継続するために、正確な時刻同期を維持できる非常にレジリエントなアーキテクチャを確保する必要があります。

 ePRTC規格は、そのような課題に対して理想的です。これは、ITU-T(ITU Telecommunication Standardization Sector)が時刻精度に対して定義したPRTC(Primary Reference Time Clock)クラスの1つです。協定世界時(UTC)に対する最大時刻誤差は、PRTCクラスAで100ナノ秒であり、クラスBで40ナノ秒です。これらに対し、最も高精度なePRTCの最大時刻誤差は30ナノ秒です(ITU-T G.8272.1により定義)。

 ePRTCは、セシウム発振器を基準として使うことで、GNSS信号が受信できない状態で14日以上の間UTCに対して100ナノ秒以下の誤差で時刻同期を維持することが可能な最もレジリエントなクラスとして規定されています。これは、5G移動体通信事業者がePRTCを展開することで得られる重要な利点です。GNSSがダウンしても、サービスはネットワーク全体でシームレスに提供されます。これにより、GNSSが利用できない間もサービスを継続しながらGNSSの途絶を修復するための十分な時間を確保できます。

クロックとアクセサリの重要性

 ePRTCは孤立して動作することはできません。ePRTCの核となる原理は、ePRTCは独自の自立したタイムスケールを生成するということです。そして、そのタイムスケールをGNSS信号に対して経時的にキャリブレートすることで、正確な時刻、位相、周波数を提供します。ePRTCエンジンは特許取得済みの計測アルゴリズムを使って、生成した自立タイムスケールのGNSSに対するオフセットを計測します。

 このePRTCシステムのアプローチは、時刻のマスタソースとして自立したタイムスケールを生成し、セシウムクロックとGNSSを使ってそのタイムスケールの精度を維持します。

 このため、理想的にはePRTCをGNSSと原子時計(通常はセシウム)の両方に接続する必要があります。さらに、レジリエンスを最大化するため、2つのセシウム原子時計を使うことを推奨します。ePRTCは1つの原子時計に単純にロックするのではなく、適切に重み付けをしたタイムスケールアンサンブルにより、能動的かつシームレスに2つのクロックにロックします。例えば、1つの原子時計の性能が低下した場合、ePRTCはそのクロックの重み付けを適切に低減することで、そのクロックが時刻および、周波数サービスに及ぼす影響を弱めます。

 以上の機能を実現するには、アンサンブルおよび自立タイムスケール機能と原子時計との巧妙な「カップリング」のために、適切なインテリジェンスをePRTCに持たせる必要があります。これは、特に時刻同期のために重要です。セシウムクロックの品質が高いほど、ePRTCシステムの時刻同期性能は向上します。

セットアップおよびコミッショニング要件

 セシウムクロックとePRTCによる最適なタイムスケールシステムを構築するには、セットアップとコミッショニングに細心の注意を払う必要があります。ITU規格は、以下のコミッショニング条件が満たされることを要求します。

  • ePRTCは入力される基準時刻信号に対して完全にロックされ、ウォームアップ中に動作しないこと
  • 基準時刻の信号経路に障害もファシリティエラー(アンテナの障害など)が存在しないこと
  • 環境条件は、その機器に対して指定された動作限界内であること
  • 機器は正しくコミッショニングされ、固定オフセットに対してキャリブレート済みであること(オフセットはアンテナケーブルの長さ、ケーブルアンプ、レシーバの遅延などによって決まる)、
    基準時刻信号(例:GNSS信号)は関連当局によって規定された制限内で動作すること
  • 基準時刻信号がGNSS等の無線機システムに対して動作する場合、多重反射および他のローカル送信からの干渉(ジャミングなど)を許容可能なレベルまで低減すること
  • 極端な伝播異常(激しい雷、太陽フレア等による)が存在しないこと
  • 時刻基準はGNSSであり、周波数基準は原子時計からの1pps/10MHzであること(よくある誤りとして、時刻と周波数の両方に対してGNSSを最優先に設定しまうことがあります。その場合、原子時計は単なるバックアップ用として設定され、ePRTCの利点は失われます)

 これらのコミッショニング要件を満たすようePRTCをセットアップした後に、システムの検証と試験に進みます。

検証と試験

 試験と検証は以下の3つの主要フェイズで構成されます。

  1. 21日間の「学習」期間
  2. 14日間の「ホールドオーバー」期間
  3. 7日間の「リカバリ」期間

 21日の学習期間を使って、ePRTCタイムスケールのUTCキャリブレーション/補正パラメーターを超高精度で決定すると共に、ローカルのセシウムクロックの周波数オフセットを推定します。GNSSサブシステムは、ローカルタイムスケールのUTCに対する時刻誤差を連続的に計測してレポートするため、時間をかけて徐々にローカルタイムスケールのレートを調整できます。この最初の3週間で、ePRTCが本当にITU-Tが規定する時刻精度を満たしていることを検証できます。

図1:21日後の時刻誤差 - ITU-T G.8272.1時刻精度規格の要件を満たしている

 14日間のホールドオーバー期間では、ePRTCをGNSS信号から切り離した状態で時刻誤差が100ナノ秒以下に保たれることを検証します。セシウムクロックの品質が高いほど、この試験の結果は良くなります。

 図2に示す通り、このePRTCの時刻誤差は要件である100ナノ秒以下に保たれています。実際には、試験期間中にほぼ25ナノ秒クロッククラスの誤差を維持できています。高性能なセシウム原子時計を使うことで、規格が要求するホールドオーバー性能より4倍良好な結果が得られました。

図2:Microchip社製TimeProvider 4100のePRTCの試験結果
14日間のGNSS途絶後の時刻誤差(実測最大42ナノ秒)は要件である100ナノ秒以下に良好に収まる。図には1日のリカバリー期間を含めている。GNSS再接続後に時刻誤差は0に戻る。

 リカバリー期間では、ePRTCユニットへGNSSが再接続された時に、全てが正常に戻ることを確認します。この期間の目標は、正常なタイムスケール保護動作が完全に確立されたかを確認することです(図3参照)。

図3:ホールドオーバー期間後の7日間の時刻偏差(TDEV)
マスタUTC-NISTを基準とする。図にはG.8272.1規格の許容誤差も示している。

ホールドオーバー「ガスゲージ」の重要性

 「ガスゲージ」を使うと、移動体通信事業者はePRTCホールドオーバー機能がUTCに対する時刻誤差をどの程度長く100ナノ秒以下に保つことができるか推定できます。規格は14日間100ナノ秒以下に保つことを要求します。

図4:ホールドオーバーガスゲージ(GNSSアンテナが引き抜かれる直前)
推定値は40日(規格が要求する14日を大幅に超えている)

 ePRTC規格は、5Gが要求する一貫して高精度の位相と時刻を維持可能です。ePRTCのこの能力を容易に獲得するには、適切に検証、試験、コミッショニングされた適正なクロックおよび関連システムを含むソリューションの一貫としてePRTCを正しく展開する必要があります。

【著:Eric Colard, Head of Emerging Products Frequency & Time Systems with Microchip】

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提供:マイクロチップ・テクノロジー・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年12月15日

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