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» 2020年12月07日 10時00分 公開

5Gにおける分散型ベースバンドユニット(BBU)向け時刻同期トレンドGPSからPTPに移行へ

5Gシステムでは、衛星システムからの受信が途絶えた状態でもRadio Unit(RU)へ非常に高精度な時刻を提供する必要があり、位相の同期とクリティカルな時刻サービスの制御が望まれます。このようなセキュリティおよび、レジリエンシ要件に対応するため、3Gや4Gシステムで見られたGPSに対するレジリエンスは、Precision Time Protocol(PTP)へと移行します。こうした5Gにおける時間同期について詳しく解説します。

[PR/EDN Japan]
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 無線ネットワーク通信が始まって以来、ネットワーク時刻の同期は不可欠の要件となっています。時刻同期要件にはしばしば「絶対時刻」であることが明記されますが、これは既知の時刻源に対してトレース可能であることを意味します。通常、位相/時刻同期アプリケーションでは衛星システムがトレース可能な時刻源として使われます。初めて時刻同期用に使われた衛星システムはGPS(Global Positioning Satellite System)です。GPSは、もともと航法用に3次元位置情報(経度、緯度、高度)をユーザーに提供することを目的に設計されました。高精度な位置情報を提供するために、各衛星は極めて正確な時刻源に同期すると共に、その時刻精度を維持可能であることが必要です。

 性能の優れたGPS受信機を使うことで、GPSユーザーはGPS衛星上の同期された原子時計から極めて正確な時刻を復元することができます。この協調的時刻同期により、隣接する受信機は同じ基準時刻に同期できます。GPS衛星上の原子時計は、アメリカ海軍天文台(USNO)によって同期されます。USNOは、国際度量衡局(BIPM:Bureau international des poids et mesures)と常に協調して計測します。BIPMはパリに拠点を置き、正確な世界時を維持するための重要な役割を担います。この世界時は「絶対」時刻であり、協定世界時(UTC:Coordinated Time)と呼ばれます。アメリカ国防総省によって開発され維持されているGPSは、世界で初めて展開されたPNT(Position, Navigation and Timing)衛星システムです。現在では複数のGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)が世界中で展開されています。GPS以外のGNSSにはGalileo(EU)、Glonass(ロシア)、Beidou(中国)、QZSS(日本)、IRNSS(インド)などがあります。

 無線通信技術が2Gから5Gへと進化するにつれてネットワーク時刻同期アーキテクチャも進化してきました。2Gおよび3Gネットワークの分散型無線アクセスネットワーク(DRAN:Distributed Radio Access Network)では、マクロセルサイトに組み込まれたGPS受信機が使われました。5Gネットワークでは、時刻情報の配信用にGPSはネットワークベースのクロック源として使われ、より集中化(または中央重点化)したアーキテクチャへの移行が図られます。

 時刻同期アーキテクチャは、3つのフェーズで進化してきました。フェーズ1では、物理層またはパケット層の時刻同期は周波数ネットワーク向けに設計され、GPSはTDD(位相)アプリケーション向けに分散型RAN(DRAN)ベースステーションタワーでローカルに展開されました。フェーズ2では、GPS時刻源はより集中化され、時刻情報はパケットを介してベースバンドユニット(BBU)の「プール」へ配信されました。フェーズ1とフェーズ2では、各BBUからRU(Radio Unit)へ個別の時刻リンクが使われました。フェーズ3では、パケットを介する時刻情報の配信は直接RUまで拡張されます。このフェーズでは各BBUからRUへの個別リンクを使わず、DRANベースステーションにおけるGPSへの要求は低減されます。5Gでは、Open RANコンセプトの導入により、BBU機能はCU(Centralized Unit)および、DU(Distributed Unit)として分類され、時刻情報経路に含める必要のない仮想化されたサーバベース機能へと進化します。

 分散型GPS時刻アーキテクチャからPTP(Precision Time Protocol)に基づくネットワークベース時刻アーキテクチャへの移行をもたらした要因を理解することが重要です(注:PTPはIEEE 1588[Ethernet経由時刻同期プロトコル]の電気通信バージョンです)。分散型アーキテクチャは純粋にGNSS受信機に依存するのに対し、ネットワークベース アーキテクチャはGNSS受信機とPTPグランドマスタークロックの組み合わせを導入します。無線通信の時刻同期に関連して最もよく起こる問題は、同一チャンネルRU干渉です。セルサイトでGPSレシーバを展開する場合、GPS受信機が衛星を正しく追跡していれば、送信を時間スロットに正しく割り当てることができます(従って、近い周波数で動作しているRU同志が互いに干渉することを防ぐことができます)。エリアがオーバーラップするRUクラスター内では、GPS受信機に障害が起こるかGPSの正常な追跡が停止すると、時刻精度が悪化する(または位相誤差が累積される)ため、そのGPS受信機に接続されているRUは隣接するRUと干渉します。RUが性能の劣る低コストのオシレーターを使っている場合、時刻精度は急速に低下します。

 干渉問題を防ぐため、時刻精度が低下し始めたら直ちにRUをサービスから切り離すか、精度低下の影響を受けるサービスを停止する必要があります。この種の障害は、PTPネットワークベースの時刻同期サービスを展開することにより緩和できます。そのような同期サービスでは、GPS受信機を内蔵したPTPグランドマスタークロック使ってクラスター内のRUをグランドマスタークロックに同期させます。例えPTPグランドマスタークロックでGPSに障害が生じても(またはGPSのトラッキングに問題が生じても)、グランドマスタークロックに同期しているRUの位相同期は保たれるため、隣接するRUとの間で干渉問題は生じません。PTPグランドマスタークロックに高品質オシレーターを使うことでUTCに対する時刻同期精度を長時間維持できると共に、PTPベースのバックアップ機能をアーキテクチャに含めることで障害時にUTCトレース可能時刻の維持を助けることができます。PTPグランドマスタークロックネットワークベースの時刻同期アプローチは非常にレジリエントで対費用効果の高いアプローチです。このアプローチにより、GPS障害時にRUクラスターの位相同期を維持できるという利点も得られます。さらに、高いセキュリティと衛星からの良好な受信状態が得られるポイントを慎重に選んでGNSSを集中的に展開することができます。

フェーズ1:
CPRI時刻同期アプリケーションにおける分散型GPS ―― マクロセルサイトにGPS受信機を内蔵

 このアプリケーションでは、BBUに内蔵されたGPS受信機を時刻源として使います。BBUはRH(Radio Head)と同一場所(通常はセルサイトのベース)に配置されます。時刻はBBUによってGPS受信機から復元され、CPRI(Common Public Radio Interface)を使って数メートルの光ファイバーを介してRHへ伝送されます(図A参照)。

図A:DRANアーキテクチャにおける分散型GPS時刻同期アーキテクチャの例
GPS受信機をBBUに内蔵し、BBUからCPRIリンクを介してRUへ時刻を伝送する

フェーズ2:
CPRI時刻同期アプリケーションにおけるGPS時刻源のネットワークベース同期サービス ―― RUクラスターの集合ポイントにPTPグランドマスタークロックを配置

 このアプリケーションではBBUからRHまでの距離を大きくできます。通常BBUはRHクラスターの集合ポイントに配置されたハブ(cRAN(Centralized RAN)ハブとして知られる)で「プール」されます。時刻源にはcRANハブに配置されたGPS受信機が使えます。GPS信号はアンテナからBBUに内蔵された受信機へと伝送されます。GPS受信機をPTPグランドマスタークロックに内蔵することもできます。その場合、PTP時刻同期サービスがBBU内のPTPスレーブへ提供されます。BBUはPTPフローまたはGPSレシーバーから時刻を復元し、その時刻をCPRIリンク経由でRRH(Remote Rado Head)へ伝送します。3Gおよび4GサービスアーキテクチャにおけるCPRIリンクの長さは約17 km以下に制限されます。図Bを参照してください。

図B:PTPグランドマスターをRUクラスター向けネットワークベース時刻のソースとして使用し、BBU内のPTPスレーブからCPRIリンクを介して時刻を伝送する

フェーズ3:
Ethernet時刻同期アプリケーションにおけるGPS時刻源のネットワークベース同期サービス ―― RUクラスターの集合ポイントにPTPグランドマスタークロックを配置

 5GはRUの高密度化と2つの周波数帯を必要とします(4Gとは異なり、5Gでは低周波数帯と高周波数帯が必要です)。どちらの要件もRU間の同一チャンネル干渉の増加を招くため、時刻同期をより慎重に設計する必要があります。BBUは2つの機能部分(DU:Distributed UnitとCU:Centralized Unit)に分割され、どちらも仮想化可能です。CPRIベースの時刻同期はEthernet経由のPTPへと置き換えられ、時刻情報は直接RUに提供されます。これは、時刻同期アーキテクチャに大きな変化をもたらします。GPS受信機はRUクラスターの集合ポイントへ移動する必要があり、PTPはネットワーク全体を通してユビキタスとなります。このようなアーキテクチャは、5G RUへの時刻の配信とGPSクロックの系統的バックアップおよび保護の両方を提供するために、ネットワークのより深くまで堅固でレジリエントなGPS展開とPTPフローを必要とします。

 5Gサービスでは、ネットワーク全体を通したレジリエントで決定論的な時刻同期を確保するために、PTPへの依存度が増大することは明らかです。普及が進むOpen RANアーキテクチャを5G展開向けに採用することで、PTP時刻フローはRUが終端となるため、グランドマスタークロックからRUまでの時刻チェーンにDUを含める必要はなくなります。これを図Cに示します。

図C:PTPグランドマスタークロックはPTPプロトコルを使って5G RU内のPTPスレーブへ直接時刻を伝送する

まとめ

 5Gは移動体無線通信ネットワークアーキテクチャにほぼ全面的な変革をもたらします(使用RF周波数帯、I/Qデータの無線伝送、伝送アーキテクチャ、ネットワークの同期方法などを含む)。5Gシステムにおいては、衛星システムからの受信が途絶えた状態でもRUへ非常に高精度な時刻を提供する必要があり、位相の同期とクリティカルな時刻サービスの制御が望まれます。このようなセキュリティおよび、レジリエンシ要件に対応するため、3Gや4Gシステムで見られたGPSに対するレジリエンスは、PTPへと移行します。

 より決定論的でより厳格な時刻同期によって常時接続のユビキタスな広帯域サービスを可能にすることが、5Gネットワークの鍵となります。

【著:Jim Olsen/マイクロチップ テクノロジー Senior Technical Staff Engineer, Applications】

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提供:マイクロチップ・テクノロジー・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年1月6日

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