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» 2021年01月12日 10時00分 公開

アナログ回路設計講座(41):電源に必要なコンデンサの容量値を削減し、MLCCの供給不足を乗り切る

ここ数年、世界的に積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)の供給が需要に追いつかない状況が続いています。そこで、電源回路においてコンデンサの必要量を削減するための解決策を紹介します。

[PR/EDN Japan]
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 ここ数年、世界的に積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multilayer Ceramic Capacitors)の供給が需要に追いつかない状況が続いています。その原因としては、携帯電話機において電子回路の複雑さが増していること、電気自動車(EV)の販売台数が伸びていること、あらゆる産業分野で電子機器の使用量が世界的に拡大していることが挙げられます。例えば、スマートフォンでは、ここ数年の間にMLCCの使用量が2倍になった例があります。EVでは、一般的な内燃機関エンジン車と比べて4倍のMLCCが使われます(図1)。MLCCの供給不足は、2016年の終わりごろに始まりました。最新の電子機器では、電源から非常に多くの電流を供給する必要があります。それに対応するために必要な大容量(数十μF以上)のMLCCの入手が特に困難になっています。MLCCの必要量を減らしたいと考えているメーカーは、必然的に電源に注目することになります。特に問題視されがちなのはスイッチングレギュレータです。このような状況から、電源の設計者はMLCCの供給不足の問題解消に向けた取り組みの最前線に立たされることになります。

図1:自動車(a)とスマートフォン(b)におけるMLCCの使用量。このような増加に見合うように、MLCCの生産量も増加しているわけではありません。そのため、MLCCの供給不足に陥りました*1)

電源にはコンデンサが必要、しかも大量に

 図2に、一般的なDC/DCコンバータ(降圧レギュレータ)の構成例を示しました。この種の回路には、以下のようなコンデンサが必要になります。

  • 出力コンデンサ:出力電圧のリップルを平滑化し、急激な負荷の変動に対応して電流を供給する役割を担います。一般に数十μFから100μF程度の大容量のコンデンサを使用します。
  • 入力コンデンサ:入力電圧を安定させるとともに、入力電流を瞬間的に供給します。一般に数μFから数十μFのコンデンサを使用します。
  • バイパスコンデンサ:スイッチング動作で生じるノイズや、他の回路から伝わってくるノイズを吸収する役割を担います。一般に0.01μFから0.1μFのコンデンサを使用します。
  • 補償用コンデンサ:帰還ループの位相余裕を確保し、発振を防止するためのものです。多くの場合、容量値は数百pFまたは数十nFとします。スイッチングレギュレータ ICの中には、補償用コンデンサを内蔵しているものがあります。
図2:一般的な降圧レギュレータの回路例。さまざまな目的で多くのコンデンサが使用されます。

 コンデンサの必要量を削減するための最良の方法は、出力コンデンサの値を最小限に抑えることです。以下では、まずその方法について説明します。その上で、バイパスコンデンサに加え、入力コンデンサの容量も減らすことが可能なソリューションを紹介します。

スイッチング周波数を高めて出力コンデンサの値を低減する

 図3(a)は、電流モードの一般的な降圧レギュレータのブロック図です。帰還ループや補償用の回路で構成されていることが分かります。

図3:一般的な降圧レギュレータのブロック図(a)と帰還特性(b)

 図3(b)に帰還ループの特性を示しました。ループゲインが0dB(ゲインが1)になる周波数をクロスオーバー周波数fCと呼びます。fCが高いほど、ステップ状に変化する負荷に対する降圧レギュレータの応答(以下、ステップ応答)が良好になります。例として、図4に負荷電流が1Aから5Aまで急速に変化する場合のステップ応答を示しました。fCがそれぞれ20kHz、50kHzの場合に、出力電圧には60mV、32mVのドロップアウトが生じています。

図4:fCとステップ応答の関係

 一見すると、fCを高めるという手法は優れているように思えます。そうすることで、出力電圧の降下が最小限に抑えられてステップ応答が改善されるからです。これは、出力コンデンサの値を下げられるということを意味します。しかし、実際には、fCを高めると2つの問題が発生します。1つは、発振を防ぐために帰還ループの位相余裕を十分に確保しなければならないことです。一般に、fCにおいて位相余裕は45度以上(できれば60度以上)確保する必要があるとされます。

 もう1つの問題は、スイッチング周波数fSWとfCの関係です。両者の値が近いと、出力電圧のリップルに対して負帰還ループが応答してしまい、動作が不安定になる可能性があります。そのため、一般的には、fCがfSWの1/5以下の値になるよう設定されます(図5)。

図5:fSWとfCの関係。両者の値が近すぎると、出力電圧のリップルに対して負帰還ループが応答してしまいます。fCがfSWの1/5以下になるようにするとよいでしょう。

 fCを高めるには、fSWも高い値に設定しなければなりません。そうすると、トップとボトムのMOSFETで生じるスイッチング損失が増加し、変換効率が低下します。その結果、発熱量が増加することになります。コンデンサの値を下げられたとしても、発熱を軽減するためにフィンやファンなどの部品を追加したり、基板の面積を広げたりしなければなりません。それにより複雑さも増すので、コンデンサの削減効果が相殺されてしまうとも言えるでしょう。

 では、fSWとして高い周波数を選択した場合、高い効率を達成することはできないのでしょうか。そんなことはありません。例えば、アナログ・デバイセズがPower by Linear製品として提供している数多くのレギュレータICの場合、fSWを高めても効率が大きく低下することはありません(図6)。そのために、MOSFETを制御するための独自の手法を適用しているからです。

図6:Power by Linearのレギュレータ製品と競合品の比較。一般的なレギュレータでは、fSW を高めると効率が低下してしまいます。それに対し、Power by Linearのレギュレータ製品は、fSW が非常に高くても優れた効率を維持することができます。そのため、値の小さい出力コンデンサを使用することができます。

 例えば、6A出力に対応する降圧レギュレータ「LT8640S」を、12V入力、5V出力、2MHzのfSWで動作させたとします。その場合でも、全負荷範囲(0.5〜6A)に対して90%を超える効率を維持することが可能です。

 また、この製品では、インダクタの電流リップルΔILを抑制することにより、出力のリップル電圧ΔVOUTを低減することができます(図7)。その結果、コンデンサの値を下げることが可能になります。同時に、インダクタとしてもより小型のものを使用することができます。

図7:fSWとコンデンサ/インダクタの関係。fSWを高めると、コンデンサとインダクタのサイズを小さくすることができます。

 fSWとして高い周波数を選択すれば、fCも高くすることができます。それにより、ステップ応答と負荷レギュレーションを改善することが可能になります(図8)。

図8:fSWとステップ応答の関係。fSWを高い値に設定すると、ステップ応答が改善します。

Silent Switcherにより、バイパスコンデンサの大幅な削減が可能に

 続いて、バイパスコンデンサの値を低減する方法について説明しましょう。バイパスコンデンサの主な役割は、スイッチング動作に伴って発生するノイズを吸収することです。他の方法でスイッチングノイズを低減することができれば、バイパスコンデンサの値を減らすことができます。これを実現する非常に簡単な方法は、Silent Switcher技術を適用したレギュレータを採用することです。

 Silent Switcher技術では、どのようにしてスイッチングノイズを低減するのでしょうか。図9に示すように、スイッチングレギュレータには2つの電流ループが存在します。トップのMOSFETがオンでボトムのMOSFETがオフのときには赤色のループが形成されます。一方、トップのMOSFETがオフでボトムのMOSFETがオンのときには青色のループが形成されます。ホットループには、完全にスイッチングされたAC電流が流れます。つまり、ゼロからIPEAKに切り替わり、再びゼロに戻る電流が流れるということです。それにより、磁界の変化が最大になります。結果として、AC成分とEMI(電磁妨害)のエネルギーも最大になります。

図9:スイッチングレギュレータのホットループ。この部分に交番磁界が生じることで、放射ノイズの大部分が生成されます。

 スイッチングノイズは、スルーレート制御を適用することで抑制できます。つまり、ゲート駆動に使用する信号の変化率を遅くする(di/dtを小さくする)ということです。ただし、この方法を適用すると、ノイズを抑制する効果が得られる一方で、スイッチング損失が増加します。そのため、先述したように、スイッチング周波数が高い場合には特に発熱量が増加してしまいます。それでも、特定の条件下においてスルーレート制御が有効な手法であることに間違いはありません。そのため、アナログ・デバイセズはこの機能を搭載した製品も提供しています。

 一方、Silent Switcherに対応するレギュレータではスルーレート制御は行いません。それとは別の方法によって、ホットループから発生する電磁ノイズを抑制します。このタイプのレギュレータは、2つのグループに分けられる複数のVINピンを備えています。それにより、ホットループを左右対称の2つの領域に分割できるようにしています。その結果、磁界の発生場所がICの近傍に限定され、他の場所では大幅に低減されます。このような手法により、スイッチングノイズの放射を最小限に抑えることができます(図10)。

図10:Silent Switcherの概要。特許を取得済みの技術です。

 LT8640Sは、第2世代のSilent Switcher技術であるSilent Switcher 2を採用しています(図11)。その特徴は、入力コンデンサを内蔵している点にあります。それにより、最大のノイズ抑制効果が得られるので、基板のレイアウトを行う際に入力コンデンサの配置について悩む必要がなくなります。当然のことながら、MLCCの必要量を削減できることにもなります。LT8640Sの特徴的な機能としては、スペクトラム拡散周波数変調(SSFM:Spread Spectrum Frequency Modulation)が挙げられます。スイッチング周波数を動的に変化させることにより、ノイズのピークを低減するというものです。こうした特徴を兼ね備えていることから、LT8640Sは、自動車のEMC(電磁両立性)規格であるCISPR 25のクラス5を、余裕を持ってクリアすることができます(図12)。

図11:アナログ・デバイセズのSilent Switcher 2技術。入力コンデンサを内蔵しているので、基板レイアウトを簡素化しつつ、ノイズの抑制効果を高めることができます。
図12:LT8640SのEMI性能。Silent Switcher 2を適用した製品は、いくつかのノイズ抑制機能を備えています。それらを組み合わせることにより、入力コンデンサとバイパスコンデンサの値を低減しつつ、CISPR 25のクラス5で定められた上限値(ピーク)を、余裕を持ってクリアすることができます。

まとめ

 アナログ・デバイセズのPower by Linear製品を使えば、MLCCの必要量を減らし、供給不足の問題を乗り切ることができます。高いスイッチング周波数で動作させることにより、必要な出力コンデンサの値を削減しつつ、非常に高い効率を維持することが可能になります。また、Silent Switcher技術を採用した製品であれば、EMIノイズを大幅に抑制することもできます。そのため、バイパスコンデンサの値を下げられます。Silent Switcher 2を採用した製品を採用すれば、MLCCの必要量をさらに削減することが可能です。


【参考資料】
*1)Robin Blackwell「Investor Presentation February 2018(2018年2月 投資家向けプレゼンテーション)」KEMET、2018年2月
LT8640S データシート、Analog Devices、2017年6月
・John Seago「OPTI-LOOP Architecture Reduces Output Capacitance and Improves Transient Response(OPTI-LOOPアーキテクチャによる出力容量の削減、過渡応答の改善)」Analog Devices、2007年8月
・Henry J. Zhang「Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies(スイッチング電源のモデリング、ループ補償の設計)」Analog Devices、2016年2月


著者プロフィール

古川 敦彦

 2006年にリニアテクノロジー(現アナログ・デバイセズの一部門)入社。10年以上にわたり、小規模および中規模顧客に対しさまざまなアプリケーションの技術サポートを提供。2017年に自動車部門へ異動し、現在は大型(数kW)および小型の自動車用安全アプリケーションの設計を担当。マラソンランナーでもあり、自己ベストは3時間3分。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月11日














































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