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電気二重層キャパシター(1) ―― 概要と原理中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(52)(3/3 ページ)

» 2021年02月26日 09時30分 公開
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EDLCの内部構造

 このようなEDLCの内部は大まかには図2の概念図に示す構造になっています。陽極、陰極の両側に集電用の電極があり、この電曲表面には微細な活性炭が塗布されていて集電用電極〜活性炭層〜電解液〜活性炭層〜集電用電極の構造になっています。その集電用電極付近を拡大したのが図4(a)です。
 図2図4(a)の両電極間のセパレーターは電解紙に代わる高分子の膜で電極間が短絡するのを防いでいます。

 図4(a)の活性炭はバインダ(粘着剤)とともに集電用電極(アルミ箔)に塗布され、電極を通じて電位を与えられています。その結果、図2図3で説明したようにこの活性炭表面には電解液との間に電気二重層が形成されており、電気二重層は導電性の電解液を経由して陰極へつながれます。
 この電解液の抵抗を考慮して電気二重層キャパシター全体の等価回路を表現したものが図4(b)の回路です。
 この等価回路図から分かるように直列抵抗は活性炭自身の抵抗も含まれており、どうしても湿式アルミ電解キャパシターに比べて抵抗(ESR)は高めになります。また、粒子径のバラツキを持つ活性炭と電解液が連続的に接触することで並列のCR回路の時定数相当の特性は場所それぞれで異なり、非一様分布形の時定数回路になります。
 このようにEDLCの内部の様子を表す式は単純な時定数の式で表すのは難しく、特性を適切に表現できる式は公表されていないようです。

図4:電気二重層キャパシターの内部構造

EDLCの適用分野

 EDLCの特徴はその小形、大容量にあります。例えば汎用品のアルミ電解コンデンサーと比較すると、

EDLC Φ6.3×L9、2.5V、1F (ニチコンJUW形) CV2積=6.25(F・V2
アルミ電解コンデンサー Φ6.3×L11、6.3V、390μF (日本ケミコンKYB) CV2積=15.5(mF・V2

と約500倍近い差になります。ただしインピーダンス(ESR)は0.15Ωに対して4Ωと悪化しています。

 先にも述べたようにEDLCは一般的な2次電池のメカニズムである化学反応を使わず、イオンの吸着、放出で行われているため充放電回数の制限はありません。
 このような特徴があるため、EDLCの適用分野としては次のような分野に応用されています。

表2:EDLCの応用分野
電源用途 バッテリー代替用途 メモリーバックアップ
電動玩具、電動歯ブラシの電源
瞬時停電対策用電源(直接電力供給)
    〃    (装置起動までのバックアップ)
ガス安全弁の緊急時用電源
電力平坦化 太陽光電池、風力発電の供給電力平準化
ピーク電力供給 コピー機のトナー定着ロールの急速加熱
バッテリーフォークリフトの電力供給
回生エネルギー対応 運動エネルギーの
一時的な吸収
ハイブリッドカー、バッテリーフォークリフトの電磁ブレーキ
電車の運動エネルギーの吸収、転用
*リチウムイオンバッテリーは秒単位の急速充電には対応できません。EDLCに一時的に蓄積した後に二次電池に充電します。高電圧の回路には直列接続で対応しますが印加電圧を補正するバランス回路が必要になります。

部品の構造

 電気二重層キャパシターにはコイン形と呼ばれるもの、その積層形および、巻回形の構造を持つものがあります。代表的な構造とそのイメージを図5に示します。

図5:EDLCの主な構造

 図5において、
(a)の巻回形は電解キャパシターの技術を応用した製品です。大容量ですが引き出しリード部に電流が集中するので高ピーク電流には回路的な対策が必要です。
(b)は薄形機器などに使用されるコイン形で、単層の製品が多く採用されています。
(c)は積層形と呼ばれるタイプで(d)の基本セルを積層したものです。
(d)は積層することを目的にした基本セルです。コイン形の中には積層形の製品もあります。

 今回は電気二重層キャパシター(EDLC)の概要について説明しました。次回はEDLCの材料や主要製造工程について説明したいと思います。


1)電気二重層コンデンサ テクニカルガイド 2018年5月1日 Panasonic AIS社
2)WikiPedia 電気二重層コンデンサ 2020年8月25日 (火) 19:53
3)https://www.tokin.com/products/cap/sucap/edlc-guide/ 電気二重層コンデンサ スーパーキャパシタ
4)http://www.elna.co.jp/capacitor/double_layer/manufacture.html 「コイン及び積層形」電気二重層コンデンサの製造方法


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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