メディア

EV用インバーターの小型化を一気に加速、トランス内蔵のDC/DCバイアス電源モジュール分散型電源アーキテクチャの構成が容易に

電気自動車(EV)の電源アーキテクチャでは、小型化や信頼性向上のために、各ゲートドライバに個別のバイアス電源を割り当てる分散型電源アーキテクチャへの関心が高まっている。Texas Instruments(TI)の絶縁型DC/DCバイアス電源モジュール「UCC14240-Q1」は、トランスと閉ループ制御を統合することで小型化を実現し、分散型電源アーキテクチャに活用しやすくなっている。

» 2021年10月26日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
PR

集中型から分散型電源アーキテクチャへの移行

 電気自動車(EV)市場は年々、着実に成長を遂げている。グローバルインフォメーションが2021年7月に発表した予測によれば、EVの市場規模は、2021年の409万3000台から年平均成長率(CAGR)26.8%で成長し、2030年には3475万6000台に達すると予測されている。

 EVのさらなる普及には、販売価格の低下と走行距離の延長が鍵となっている。そのため、EVの設計においては、信頼性の向上とともに、いかにコンポーネントやシステムの低コスト化と軽量化を図るかが重要になっている。

 そこで注目を集めているのが、分散型電源アーキテクチャだ。従来の集中型電源アーキテクチャに比べて、システムの小型化や高信頼化を実現できる。そうした動きにいち早く対応すべく、Texas Instruments(TI)は、1.5W絶縁型DC/DCバイアス電源モジュール「UCC14240-Q1」を2021年9月に発表した。

トランスと閉ループ制御統合でサイズを半減

 UCC14240-Q1は、トランスと閉ループ制御を統合することで、12.8×10.3×3.55mmという、非常に小さな外形寸法を実現した。プッシュプル回路やフライバックトランスと後段の受動部品で構成する従来の電源ソリューションに対し、基板の実装面積を50%削減できる。そのため、分散型電源アーキテクチャを構成しやすい。機能を統合していることで周辺部品も減り、BOM数を26個から10個に削減できるので、部品調達と設計もシンプルになる。

 特に注目したいのが、高さ方向の縮小だ。従来では11mmだったものが、UCC14240-Q1を使用したソリューションでは3.55mmにまで低くなる。これにより、同モジュールをプリント基板の表側と裏側、どちらにも実装できるので、柔軟な設計が可能だ。日本テキサス・インスツルメンツの営業・技術本部 車載営業でフィールドアプリケーションエンジニアを務める越智良樹氏は、「高さを抑えたことで振動耐性も上がる」と説明する。

従来のソリューションに比べ、「UCC14240-Q1」は高さを大幅に縮小するとともに、基板の占有面積が半減する

 UCC14240-Q1で完全分散型電源アーキテクチャを構成することで、電源ソリューションのサイズを大幅に縮小し、信頼性を向上できる。

 例として、EVのトラクションインバータの電源アーキテクチャを取り上げよう。

日本テキサス・インスツルメンツの越智良樹氏

 一般的に、トラクションインバータでは6個のゲートドライバがあり、それぞれ駆動用のバイアス電源を必要とする。

 一般的な電源アーキテクチャとして、集中型電源、半分散型電源、完全分散型電源がある。近年、EVのセーフティ要求が高まり、それに伴い分散型電源への関心も高まりつつある。

 集中型電源では、1個のバイアス電源生成回路(単一のトランスと単一のバイアスコントローラ)を使用して、全てのゲートドライバのバイアス電圧を生成する。それに対し、完全分散型電源では、個々のゲートドライバに専用のバイアス電源生成回路を割り当てる。

 この完全分散型電源を、従来の電源ソリューションで構成しようとすると、高さ、重量、基板面積の全てが大きくなり、システムがかなり大型になってしまう。一方、非常に小型なUCC14240-Q1であれば、6個のICを使用する完全分散型電源でも、ローサイドのバイアス電源を一つにまとめて計4個のバイアス電源生成回路を使用する半分散型電源でも、電源システムのサイズを大幅に低減することが可能だ。

 さらに、バイアス電源生成回路の部品が1個故障しただけで大きなシステム障害につながる恐れのある集中型電源に対し、完全分散型電源は1個のバイアス電源生成回路で障害が発生しても、残りの5個が動作し続けるので、モーターの回転を緩やかに遅くして適切に制御された方法で退避走行が可能だ。

UCC1420-Q1で、トラクションインバータの分散型電源アーキテクチャを構成した場合のブロック図

SiC/GaNスイッチにも対応

 UCC14240-Q1は、周囲の温度が105℃でも1.5Wを上回る出力電力を供給し、正側と負側、両方の電源を生成する能力を持つ。そのため、IGBT(絶縁型バイポーラトランジスタ)のみならず、SiCやGaNのように高速なスイッチ素子も駆動できる。高周波スイッチングが可能なSiCやGaNは、電源の小型化と高効率化のために重要な選択肢になりつつあるが、高いスイッチング周波数ゆえ、ノイズという課題もある。UCC14240-Q1では、内蔵トランスの1次側と2次側間の寄生容量が3.5pFと非常に低いため、SiC/GaNパワートランジスタを使用しても、高速スイッチングに起因するEMIを低減し、CMTI(コモンモード過渡耐性)は150V/nsを上回る。

 「SiCやGaNパワートランジスタでは、高速スイッチングによるノイズが発生し、絶縁バリアをまたいでその先の12Vバッテリーなどにノイズが回り込んでしまう。寄生容量を3.5pFに抑えたUCC14240-Q1であれば、こうした問題を気にすることなく、GaNやSiCパワートランジスタを使用できる」(越智氏)

±1%の出力電圧精度で設計が容易に

 さらに、内蔵した閉ループ制御により、出力電圧の精度について、−40〜150℃の動作温度範囲にわたり±1%を確保していることも特長だ。UCC14240-Q1の出力電圧は、つまりは、IGBT/SiC/GaNなどのパワートランジスタを駆動するゲートドライバの駆動電圧である。この電圧精度が高いと、パワートランジスタのオン抵抗を精度よく設計できるようになる。結果的に、設計者の考え方にもよるが、短絡耐量のマージンを小さく設定しやすくなり、小型で安価なパワートランジスタを選定可能になるケースもある。

 越智氏は「設計者はパワートランジスタのオン抵抗のばらつきを考慮する必要がある。出力電圧精度が±1%であれば、“駆動電圧±1%のオン抵抗の精度”を考慮すればいいので、設計マージンが広がる。その他の電源においては、高精度でない出力電圧のものも多く、後ろに外付け部品で電圧レギュレーションをかけて出力電圧精度を調整するケースもある。これは、部品点数および基板面積の増大につながる」と説明する。UCC14240-Q1では、BOM数を26個から10個に削減できると上述したが、それは閉ループ制御を内蔵したことによる、大きな利点でもあるのだ。

 UCC14240-Q1の量産前バージョンは既に提供を開始している。1000個購入時の単価は4.20米ドルから。

 越智氏は「動作不良が生命に関わる重大な事故を起こしかねないシステムでは、1個のバイアス電源生成回路で障害が発生しても、残りの5個が動作し、安全な退避走行ができる完全分散型電源への関心が高い」と語る。

 トラクションインバータなどで構成されるパワートレインは、EVの中で最も重いコンポーネントだ。ここを軽量化し、低コスト化することは、EVの販売価格や走行距離にもダイレクトに効いてくる。完全分散型電源での使用を見据え、独自の技術力によってトランスなどを統合し、徹底的に小型化を図ったUCC14240-Q1は、EVの電源アーキテクチャの進化、さらにはEVの普及にも大きな貢献が期待できる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年11月25日

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.