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リニアレギュレータの賢い使い方スパイクノイズを抑え込む(3/4 ページ)

» 2006年03月01日 00時00分 公開
[Jim Williams(米Linear Technology社),EDN]

リップル/スパイクシミュレータを構成する

 この問題を理解するには、さまざまな条件下におけるリップルとスパイクに対するレギュレータの反応を検証しなくてはならない。リップルとスパイクの周波数、高周波成分、振幅、持続時間、直流レベルといった個々のパラメータを変えてみる必要がある。そうすることで、さまざまな回路条件でリアルタイムの最適化と感度分析を行うことができる。その他にスイッチングレギュレータが引き起こす実際の条件下でリニアレギュレータのパフォーマンスを観察できるような手段はないが、ハードウエアシミュレータを使用すれば不意の事態が発生する可能性を減らすことができる(図5)。ハードウエアシミュレータは、直流レベル、リップル、スパイクのパラメータを個々に設定した状態で、スイッチングレギュレータの出力のシミュレーションを行う。

図5 この回路でスイッチングレギュレータの出力のシミュレーションを行う。リップルの振幅、直流、周波数、スパイクの持続時間と大きさは個別に設定できる。分割パス方式では、広帯域スパイクに直流成分とリップルを加え、シミュレーションされたスイッチングレギュレータの出力をリニアレギュレータに供給する。ファンクションジェネレータが両方のパスの波形を生成する。 図5 この回路でスイッチングレギュレータの出力のシミュレーションを行う。リップルの振幅、直流、周波数、スパイクの持続時間と大きさは個別に設定できる。分割パス方式では、広帯域スパイクに直流成分とリップルを加え、シミュレーションされたスイッチングレギュレータの出力をリニアレギュレータに供給する。ファンクションジェネレータが両方のパスの波形を生成する。 
図6 スイッチングレギュレータ出力シミュレータの波形。ファンクションジェネレータがリップルパス(波形A)とスパイクパス(波形B)の情報を提供する。C<sub>1</sub>とC<sub>2</sub>で、区別されたスパイク情報の正負の変位を比較し(波形C)、その結果波形DとEのスパイクの同期が取られる。ダイオードゲーティングインバータがスパイクの振幅を制御する(波形F)。G<sub>1</sub>では、スパイクにパワーアンプIC<sub>1</sub>からの直流リップルパスを加え、リニアレギュレータの入力を生成する(波形G)。(写真を明瞭にするためスパイク幅を広げている) 図6 スイッチングレギュレータ出力シミュレータの波形。ファンクションジェネレータがリップルパス(波形A)とスパイクパス(波形B)の情報を提供する。C1とC2で、区別されたスパイク情報の正負の変位を比較し(波形C)、その結果波形DとEのスパイクの同期が取られる。ダイオードゲーティングインバータがスパイクの振幅を制御する(波形F)。G1では、スパイクにパワーアンプIC1からの直流リップルパスを加え、リニアレギュレータの入力を生成する(波形G)。(写真を明瞭にするためスパイク幅を広げている) 

 この設計では、市販のファンクションジェネレータに2つのパラレル信号パスを組み合わせて回路を形成する。直流成分とリップルは相対的に遅いパスで伝送され、広帯域スパイク情報は高速パスで処理される。この2本のパスが1つになってリニアレギュレータの入力となる。設定可能なファンクションジェネレータのランプ出力(図6・波形A)がパワーアンプIC1と関連部品で構成される直流/リップルパスに電力を供給する。IC1はランプ出力と直流バイアス情報を受け取り、テスト下のレギュレータを駆動する。L1と1Ωの抵抗により、IC1は安定したリップル周波数でレギュレータを駆動できる。

 ファンクションジェネレータからのパルスの同期出力(波形B)が広帯域スパイクを発生させる。アンプIC2がこの出力のエッジの電位差を増幅させ、バイポーラコンパレータIC3AおよびIC3Bに供給する。コンパレータ出力スパイク(波形DおよびE)はランプの湾曲点に向かって同期が取られる。相補的な直流閾(しきい)電位が1kΩポテンショメータによってIC3AとIC3Bに供給され、IC2がスパイクの幅を制御する。ダイオードのゲーティングと並列論理インバータでスパイクの振幅が制御される(波形F)。Q1ではスパイクとIC1の直流/リップルパスが合成され、これがリニアレギュレータの入力(波形G)となる。

リニアレギュレータの除去性能

図7 1μFのC<sub>IN</sub>と10μFのC<sub>OUT</sub>が、リニアレギュレータの入力(波形A)、出力リップル(波形B)、スイッチングスパイク成分を生成する。10μFを駆動する出力スパイクの振幅は小さいが、立ち上がり時間は依然として速い。 図7 1μFのCINと10μFのCOUTが、リニアレギュレータの入力(波形A)、出力リップル(波形B)、スイッチングスパイク成分を生成する。10μFを駆動する出力スパイクの振幅は小さいが、立ち上がり時間は依然として速い。 

 図5の回路を使用して、リニアレギュレータの高周波除去性能を評価する。図7の波形は、図5におけるLT1763 3Vレギュレータの、波形Aのリップル/スパイク成分、CIN=1μFおよびCOUT=10μFを含んだ3.3V直流入力に対する応答を示している。レギュレータ出力(波形B)は、リップルが約1/20に減衰されていることを示している。出力スパイクはそれほど減少しておらず、高周波成分は依然として高い。レギュレータにはスパイクの立ち上がり時における除去機能がなく、代わってコンデンサがこれを行う必要がある。残念ながら、高周波損失条件が、コンデンサによる広帯域スパイクのフィルタリングを妨げている。波形Bの残留スパイクは、立ち上がり時には減少しないことを示している。コンデンサの値を増やしても、立ち上がり時の効果はない。図8は、図7と同じトレースでCOUTを33μFに設定したものである。この波形ではリップルが1/5に減少しているが、スパイクの減衰はほとんど見られない。

 図8の波形Bの時間と振幅を拡大した図9はスパイクの特性をよく表しており、次のような評価と最適化が可能である。図10の波形は、フェライトビーズがCINの直前にあるとスパイクの振幅が約1/5に低下するという劇的な結果を示している。ビーズは高周波損失を生じさせるため、スパイクの透過が大幅に制限される。直流成分と低周波成分は減衰されずにレギュレータに渡される。レギュレータ出力でCOUTの前に2つ目のフェライトビーズを置くと、図11のような結果が得られる。ビーズの高周波損失特性により、レギュレータの出力パスに直流抵抗を入れることなく、スパイクの振幅を1mV以下に下げることができる。ビーズの代わりにインダクタを使用できることもあるが、その場合インダクタの制約条件を理解しておく必要がある(別掲記事「インダクタを高周波フィルタとして使用する」参照)。

 図11よりもゲインの大きい図12では、スパイクの振幅が900μVとなっている。フェライトビーズがない場合の約1/20の値である。コモンモード成分やグラウンドループによって結果が変わることがないかを検証して測定を終了する。このとき、オシロスコープの入力を測定位置の近くでグラウンドに接続する。理論上はここで信号が生成されることはない。図13は、信号がほとんど発生していないことを示しており、図12が現実的であることを示唆している。ミリボルト単位の厳密な広帯域測定には特別な注意を要する(別掲記事「ミリボルト単位の広帯域信号の完全性を試験する」参照)。詳細については、参考文献*2)〜*9)に示す記事、アプリケーションノート、書籍を参考にして欲しい。

脚注

※2…Williams, Jim, "Low Noise Varactor Biasing with Switching Regulators," Linear Technology Corp, Application Note 85, pg 4 and Appendix C, August 2000.

※3…Williams, Jim, "Component and Measurement Advances Ensure 16-Bit Settling Time," Linear Technology Corp, Application Note 74, Appendix G, July 1998.

※4…LT1763 Low Dropout Regulator Data Sheet, Linear Technology Corp.

※5…Hurlock, Les, "ABCs of Probes," Tektronix Inc, 1990.

※6…McAbel, WE, Probe Measurements, Tektronix Inc, Concept Series, 1971.

※7…Morrison, Ralph, Noise and Other Interfering Signals, ISBN 0-471-54228-1, John Wiley and Sons, 1991.

※8…Morrison, Ralph, Grounding and Shielding Techniques in Instrumentation, Fourth Edition, ISBN 1245186 Wiley-Interscience, 1998.

※9…"Fair-Rite Soft Ferrites," Fair-Rite Corp, 1998.


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